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プロローグ

1話

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「少しお話でもしましょうか」

 月が白く光る夜。白月しらつきの吐息が、地上に落ちる半宵はんしょう
 ビルが並びに並ぶ路地裏。上品な臙脂色えんじいろのスーツを着ている男性がいた。
 彼は、アスリート並みに筋肉質で、髭の生えた初老。

 スーツの男は、拳銃を構え、目の前にいるサラリーマンの男性に落ち着いた声で質問をする。

「さてさて、えーと山村さん……でしたよね。貴方は『Not a Sheepノット ア シープ』と言うものをご存知かな?」

 山村は口を強ばりながら、ゆっくり話す。

「ベットでスリープ? なんのことだ? さっぱりわからないぞ、ボケ老人!」

「ふむふむ、わからない…ですか」
「あぁ、そうだ!」

 男は目をぎらつかせる。その姿に龍康殿はゆっくりと笑っている。

「まぁわかるはずもないですよね。だってこれは私の考えた言葉ですから…。ではでは『Not  a Sheep Oracle Escapeノット ア シープ オラクル エスケープ』はご存知かな?」

「それもしらねぇって言っているんだろ! なんだぁ? 老人の言葉遊びってかぁ? アホか! なんで呑気にジジイの超能力者かわかるゲームしている場合なんだよ!」

「まぁまぁ、ここから本題です……とその前にこうしますね」
 山村の足に弾丸の接吻をお見舞いする。

 山村は頭がよろしくないので、こんな危機的状況なのについ頭に血が上って、つい余計なことを言ってしまうのだ。

 山村は受験を失敗した受験生のように苦しみ嗚咽する。今にも泣き出しそうだ。

「私は老人ではありません、まだ四十七歳ですよ。熟年ではありますが……では略して『NaSOE』とは、いわゆる覚醒者のことです。私は覚醒者を探して、私たちW・Aダブルエースの仲間に加わりたいのです。まだ出来立ての新米チームですから、少しでも武力を上げたいと」

 山村は唇を少し噛み、筋肉質な初老に向かい吠える。

「つまり俺が覚醒者かどうか知りたいってことか?だったら教えてやるよ。『そんなものは存在しねぇ』ただの都市伝説だ。まぁ昔、通っていた学園兵隊なら、いそうと思うがな」


 学園兵隊……すなわち【School Army Triggerスクール アーミー トリガー】のことだ。
 通称【学園SAT】とも呼ばれている。

 学園SATとは、戦前、国に認められた学生兵隊学校のことであり、生徒たちは武力に励んでいる。
 あるものは自衛隊になり、あるものは反社会に染まって闇に堕ちたり、あるものは老後まで家族と過ごしたりしている者もいる。

 だが最近はどんどん衰退していき、数百校もあった学園SATグループは、いまでは数十校まで減っていた。


 筋肉質の初老はウーンと唸り、自慢の髭を触りながら言う。

「学園兵隊……? 名前だけなら聞いたことありますが、あんまり知りませんね……。まぁ気休めで信じても得しそうですし、偶然目的地が学園兵隊ならば行ってみますね。ありがとうございます」

 と、筋肉質の初老の弾丸が、山村の肩に命中し、山村は少しずつ息を荒くする。

「い、痛ぇ……。確か『龍康殿徹平りゅうこんでん てっぺい』と言ったよな…。俺が名乗る前にそう言っていた。なんで親切な俺に向かって撃ったんだ?!」

「簡単なことですよ、山村さん。貴方を幸せにする為に撃ったんです」
「……ますますわからねぇよ!」

 山村が突っ込むと龍康殿りゅうこんでんは不思議そうな表情を浮かべる。

「わからない……? そうですよね。幸せというものは目に見えないのでわかりません。ですが無知の知という言葉がありまして。知らないことはとても賢いということです」

「つまり何が言いたい……?」

「私と一緒に幸せというものを考えようということです。さぁ幸せという概念を探しましょう」

 龍康殿りゅうこんでんは山村の体に向かって数発弾丸を放つ。初老の彼にとってこれが幸せな行為だと考えているのだ。 

「うぐっ! だ、ダメだ、理解が追いつかない! 早く逃げないと……!」

 山村は龍康殿かれがいる場所から逃げるように駆ける。

(は、早く逃げなければ……逃げなければ!)

 すると目の前に色っぽい女性が見えた。銀髪で胸元が開いており男を惑わせそうなフェロモンがただよいそうだ。

 だけど、山村はそういう感情にならず、ただ生き延びる為にその女性に助けを求める。

「そこの人! 助けてください!意味がわからないことを言う髭面の男がいるんですよ!」

「……? 助けてほしいって、私のこと? 髭面……それを見てどう思った?」

「どう思ったって……そりゃイカれてる奴でクソ野郎ですよ。そいつから逃げてきたので警察に通報してください!」

 セクシーな女性は「はぁ……」ため息をつく。

「……私の命の恩人にそう言う無礼なこと思っていたのね。とても残念だけど……」

 彼女は太ももから拳銃を出す。そして山村の額に当たり射殺された。彼からどろっとした鮮血が出る。

「嘘でも褒めてくれたら助かっていたかも、だけどどっちみち救っていたと思うけどね」

 そう、その女性はあの龍康殿りゅうこんでんの部下、テロリストの一員だったのだ。

 彼女の名前は射守矢いもりやフィアナ。テロリストの教えで殺すことは魂を救う為、幸せになるためと教わられている。
 パチパチと拍手音が聞こえた。フィアナは音の方向を見る。龍康殿りゅうこんでんが手を叩きながら歩いていた。

「流石です。射守矢いもりやさん。よくぞ山村さんを救ってくれました。きっと彼も貴女に感謝していると思いますよ」

「ありがとうございます。ですが、この人は龍康殿りゅうこんでん様を侮辱しました。この人の発言は許せないです」

「……大丈夫ですよ。私は何も傷ついていません。ですが我々が持っている呪いによって救われてない可能性もあります」

「そうですね……。龍康殿りゅうこんでん様が恨んでいる女でしたよね」

「ええ、あの女のせいで人々は苦しんでいるのです。私の家族を失った原因でもあります。一刻も早く処刑しなければならない」

「ええ、その人と会ったら必ず始末してあげますのでご安心を」

射守矢いもりやさん、ありがとうございます。もし私がダメならお願いします。ただし、情を持つ行為はやめておくように」

「わかりました、そこはご安心を」

「大丈夫です。貴女のことは信用していますから。さてまた仲間を集めますか。場合によっては金を使う時もありますが」

 朧月おぼろづきから雲が払い除け、月が綺麗に映る。
 そして、彼らは街から姿を消した――。
 
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