六等星の憂うつ

そで

文字の大きさ
上 下
17 / 22

第17話 急転直下

しおりを挟む
 警察署を訪れると西宮が迎えてくれた。舎六は早速

「リビングにあったパソコンのキーボードに血痕があったと仰ってましたよね」

「ええ。殴られて倒れた後に立ち上がろうとして、リビングにあったパソコンに指がかかったようなんですよ」

「血の跡がどのキーボードにあったかを知りたいのですが…」

「うーん、鑑識に聞いてみますわ。ちょっとかかりますよ」

「ありがとうございます、お願いします」

    西宮は若手に鑑識へキーボードの血痕について聞くように指示した。

「それと先日教えていただいたパソコンの数字なのですが」

「ああ、あの意味不明な」

「貸金庫や口座番号、電話番号の可能性はありませんか?」

 西宮刑事は頷きながら

「わしらもそれを考えて全部あたったんですが、どれも外れでした。貸金庫はなし。そんな数字の口座もなし。電話番号もなし、ですわ」

「全部もう調べてたんですね! 凄いなぁ」

 和十の素直な感嘆にベテラン刑事は照れたように

「いやまあ、仕事ですからな」

 その後捜査に戻ると言って西宮はどこかへ行ってしまったので、舎六たちは事務でパソコンを借りて色々と試すことにした。

「先生、パソコン使えるんですね」

「うん、一応」

「原稿がいつも手書きなので使えないのかと思いました」

「なんか手書きの方が作家!って感じがするでしょ? 読みにくい文字にすれば編集さんを泣かせられるし」

「…」

「冗談だよ?」

   にこりと笑って言う舎六に、和十はどこまでが冗談なんだろうかと考えてしまったのだった。

「犯人の名前でも残しておいてくれれば良かったのになー」

「名前、か」

    舎六はポリポリと頬を掻きながら呟いた。

「そうかもしれないよ」

「え?」

「でもこれ、数字ですよ?」

「そうだね。それならパソコンのキーボードの数字の所を見てみようか」

「数字の所って…あ!」

「うん、ひらがなが書いてあるね」

「そうか、ひらがな入力!」

「当てはめてみようか。6は「お」、0は「わ」、2は「ふ」」

「60626と続けると…「おわおふお」?なんじゃこりゃ」

「あはははははは」

    和十が思わず間の抜けた声を出したのがおかしかったのか、舎六は笑いこけていた。和十は少しムッとして

「先生! 笑ってる場合じゃありませんよ! これじゃあなんにもわからないです」

「うん、そうだねぇ」

   笑いすぎて目元を拭う舎六を恨めしげに見ながら和十は文句を言った。

   その時、急に署内が慌ただしくなったようだった。

「どうしたんでしょうね?」

「そうだねぇ」

 ひょいと部屋の扉から首を出した舎六は、西宮のミミズメモを解読してくれた若手刑事の姿を見つけた。

「やあ、何かあったんですか?」

 声をかけるとその刑事は駆けてきて

「あ、舎六先生! 近藤恵のアリバイが崩れたんです。これから緊急逮捕に向かうところです!」

「近藤恵は確か自宅にいたと言ってましたよね?」

「それが、死亡推定時刻近くに被害者宅から出てくるのを目撃されていたんですよ。しかも他に男がいたようで、それが動機ではないかと」

「おやまぁ」

 それでは、と急いでその刑事は去っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

量子の檻 - 遺言の迷宮

葉羽
ミステリー
天才高校生探偵の神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美とともに、不可解な遺言の謎に挑む。量子暗号技術を駆使した遺言は、解読されるたびに新たな謎を生み出し、葉羽たちを現実と幻想が交錯する世界へと誘う。彼らは遺言の真意を追う中で、自身の過去と向き合い、互いの感情を探り合う。しかし、遺言の背後に潜む恐ろしい真実が、二人の運命を思わぬ方向へ導いていく。

退屈な日常に潜む謎

葉羽
ミステリー
神藤葉羽の鋭い観察眼が捉えた、学園祭準備委員会の不可解な動き。彼の推理力が冴え渡る中、望月彩由美との何気ない会話が思わぬ展開を見せる。葉羽の退屈な日常に、突如として訪れる予期せぬ事態。学園祭の資金が消失し、会計係の山田が失踪。葉羽の推理本能が目覚める瞬間だ。

ロクさんの遠めがね ~我等口多美術館館長には不思議な力がある~

黒星★チーコ
ミステリー
近所のおせっかいおばあちゃんとして認知されているロクさん。 彼女には不思議な力がある。チラシや新聞紙を丸めて作った「遠めがね」で見ると、何でもわかってしまうのだ。 また今日も桜の木の下で出会った男におせっかいを焼くのだが……。 ※基本ほのぼの進行。血など流れず全年齢対象のお話ですが、事件物ですので途中で少しだけ荒っぽいシーンがあります。 ※主人公、ロクさんの名前と能力の原案者:海堂直也様(https://mypage.syosetu.com/2058863/)です。

推理の果てに咲く恋

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽が、日々の退屈な学校生活の中で唯一の楽しみである推理小説に没頭する様子を描く。ある日、彼の鋭い観察眼が、学校内で起こった些細な出来事に異変を感じ取る。

朝教室に来たのは教師ではなかった。

すみれ
ミステリー
ある日の朝。 いつも通り集まった生徒達。 そこまではいつも通りだった。 ガラッ 「ミナサン ニハ、アル `ゲーム´ヲ シテモライマス」 ✄- - - - - - キ リ ト リ - - - - - ✄ 先に言ってしまいますが、人狼ゲームです。 ・騙し合い ・人が死ぬの ・リアルではありえない 以上のことが苦手な方はお控えオススメします。 語彙力低めですが、暖かく見守ってくれればな、と思います。

私は秘密を持っている

つっちーfrom千葉
ミステリー
 私は心中に誰にも知られたくない、ある大きな秘密を持っている。それがこの世に存在するために、各国の深部を牛耳る、政治家や官僚、大企業の幹部でさえ、一介のサラリーマンに過ぎない、この私に対して、一目を置かざるを得ないのである。しかし、この重すぎる秘密は、今や肉体や精神の成長とともに、際限なく肥大化している。このままでは、やがて、私の心をも蝕むようになるだろう。大学病院の精神医療でも、愛する家族でも、私の悩みを根本的に解決することなどできない。いっそ、秘密の全てを誰かに打ち明けてしまったほうが、自分を救うことには繋がるのかもしれない。秘密を早く知りたいと私に迫ってくる、あさましい人々に追われているうちに、なぜか、そう考えるようになっていたのだ……。

【完結】24時間のアユライ~エレベーターの中の殺人

握夢(グーム)
ミステリー
プチ本格?二つの密室トリックを暴け!! 「下に行って来る」と言って、十一階からエレベーターに乗った男が一階に着くと死んでいた。男の乗ったエレベーターは高層階用で、十階から二階の間は止まらない。更にエレベーターの中からは、凶器の類は一切発見されなかった。 何者かが、下りて行くエレベーターの中に侵入し、一階に着く前に男を殺して再び外へ脱出したのか? それとも、エレベーターに乗った男が、行き先ボタンを間違えて、自ら死界への直通ボタンを押してしまったのか? ―――密室殺人の謎。―――凶器の無い殺人。進展のないまま、捜査は暗礁に乗り上げようとしていた。 ………と、そんな時、どんな事件も24時間以内に解決するという、伝説の警部補アユライと新米刑事ユーマの二人組が、殺人現場にやって来た!

硝子のカーテンコール

鷹栖 透
ミステリー
七年前の学園祭。演劇部のスター、二階堂玲奈は舞台から転落死した。事故として処理された事件だったが、七年の時を経て、同窓会に集まったかつての仲間たちに、匿名の告発状が届く。「二階堂玲奈の死は、あなたたちのうちの一人による殺人です。」 告発状の言葉は、封印されていた記憶を解き放ち、四人の心に暗い影を落とす。 主人公・斎藤隆は、恋人である酒井詩織、親友の寺島徹、そして人気女優となった南葵と共に、過去の断片を繋ぎ合わせ、事件の真相に迫っていく。蘇る記憶、隠された真実、そして、複雑に絡み合う四人の関係。隆は、次第に詩織の不可解な言動に気づき始める。果たして、玲奈を殺したのは誰なのか? そして、告発状の送り主の目的とは? 嫉妬、裏切り、贖罪。愛と憎しみが交錯する、衝撃のミステリー。すべての謎が解き明かされた時、あなたは、人間の心の闇の深さに戦慄するだろう。ラスト数ページのどんでん返しに、あなたは息を呑む。すべての真相が明らかになった時、残るのは希望か、それとも絶望か。

処理中です...