転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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更なる試練

禁断の聖域

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 「決闘だって……?」

 その言葉に周囲に居る者達は皆震えあがっていた。公式の決闘は、王位継承権の様な競技とは違い本格的な戦いであり、どちらかが戦闘不能になるまで戦う事となる。見方を変えれば、殺し合う事でもあった。

 ギルドのメンバー同士や、若しくはギルドに参加している者同士で、意見が合わずに衝突した者同士が、ハッキリ白黒着けたい時にギルド集会所を通して正当な決闘を行う事が時折あった。

 決闘と言う言葉に流石にアデルやレティウは震え出した。決闘となれば、下手したら死ぬ可能性はあった。場合によっては腕や足を失う可能性も有り得る。彼等はその様な事は回避したかった。

 「公式の決闘の申込をお願いします」

 アルファリオの言葉に、リーミアは首を横に振った。

 「いいえ、決闘は認めません」

 リーミアの言葉にアルファリオは驚かされた。

 「何故ですか?」

 「今回の騒動は、細やかな意見の行き違いから発生したと思われます。そんな事で決闘して、グループ内に不安要素を与えれば……今後グループ内で、皆が自由に行動することが出来なくなると思います!宿舎内は皆にとって憩いの場で、身体を休める場所であるべきです。時には喧嘩もしたりして、交流を深めるのも必要だと私は考えます」

 リーミアの言葉にアルファリオは(なるほど……)考えさせられる。

 彼は知らない間に自分よりも年下の少女に教えられている立場になっていた。面談で彼女にギルドの盟主に対して意見を述べた筈なのに、気付けば少女に教えられている側になっていた。

 「それに……彼等を入隊させたのは貴方達でしょ?」

 それを言われてアルファリオは反論出来なかった。自分達が彼等を入隊させておきながら、その者達に対して感情的になり、決闘を申し込むのは理論的に考えて自己都合過ぎると思われても仕方なかった。

 そんな彼を見ながらリーミアは改めてレティウ、アデル両者を見た。

 「副盟主からの決闘の申込は拒否しますが……稽古や魔物狩等せずに昼間からの飲酒や、宿舎内での金銭の取引は罰則致します。肝に銘じて置いてください」

 「分かりました……」

 2人は同時に返事をするが、アデルの表情は些か少し不服そうな表情を浮かべていた。

 「では……2人とも、訓練場で稽古しましょう」

 「え……?い、今からですか?」

 彼等は呆れた顔でリーミアを見た。

 「そうよ、今からに決まっているでしょう?何か不服かしら?」

 「い……いえ、何も有りません……」

 彼等は、リーミアに言われるままに訓練所へと連れて行かれる。それを見ていたアルファリオは、決闘よりも彼女の稽古の相手をされる方が、相当応えるだろうな……と、思いながら見ていた。

 この一件以来……レティウ、アデルの両者は、毎日昼間の時間は魔物狩をする様になった。



 森林地帯……

 少し前……リーミアが墓所へと向かう時に通った森林付近から少し離れた位置に数名のギルドメンバー達が森の奥深くへと散策していた。

 大粒の雨が降り、周囲の草木が雨水で濡れて、視界が霞み、身体が濡れて体温が低くなっているギルドメンバー数名達は、皆大急ぎで森の中を駆け回っていた。

 グガァアアー!

 大柄の獣系魔物達の群れが咆哮の雄叫びを上げながらギルドメンバーを追い掛ける。

 「ヒィ……ヒィ……何だよあれは!」

 彼等は息を切らしながら森の中を必死に逃げ回っていた。

 ズザザー……

 メンバーの1人の男性が、足がもつれて転倒してしまう。

 「だ……大丈夫か?」

 一緒に居た者が助けに入ろうとする。

 「お……俺に構うな、早く逃げろ!」

 絶体絶命、彼等は誰もがそう思った!

 その時だった……

 彼等の前に皮のフードを被り、素顔を隠した者が突如現れる。

 その者は、腰に携えた短剣を手に取り、軽く短剣に唇を重ねると、短剣を思いっきり振り上げた。

 その短剣は、所有者の意に応じたのか、短剣から皮の鞭へと形を変える。

 ピュンッ!

 風切音と共に形を変えた鞭が、もの凄い勢いで、獣姿の魔物達へと襲い掛かる。

 シュパッ!

 鞭の舞と同時に、魔物達の肉体が四方へと赤い流血と共に飛び散って行く。

 さっきまで血に飢えていた獣達は呻き声すら上げずに命を奪われ、小刻みに切り裂かれた肉片だけが残された。

 獣の群れが全て片付けられたと思われたが……離れた位置に、まだ1匹残っていた。残りの獣が仲間の復讐をしようと飛び掛かってきた。

 フードを被った者は振り返らず、鞭を元の短剣に変えると、短剣を両手に掴み上げた。

 すると……短剣が今度は弓矢の形へと変化する。

 眩い銀色の弓矢へと変化した武器を構えると、フードの者は獣目掛けて矢を放つ。

 ビュンッ!

 銀色の矢が、凄まじい勢いで獣の肉体を貫いた。

 通常では有り得ない、凄まじい勢いの矢を一撃喰らっただけで獣は絶命をしてしまう。

 獣がいなくなった事を確認すると、フードの者は弓を短剣の形に変えて、無言のまま立ち去ろうとする。この時、ギルドメンバー達はフードの者の顔を見ると、はっきりとは確認出来なかったが耳にピアスな様なものがあったのは確認出来た。

 フードを被った者は、そのまま何処かへと消え去ってしまった。

 「な……何だったんだ、アレは……?」

 「さ、さあ……?」

 ギルドメンバーの男性達はポカンとした表情で、その場に取り残されていた。突然の出来事で、彼等はしばらく震えが止まらなかった。

 ギルドメンバー達から離れた、フードを被った者は、森林の中を歩いていた。その者が歩いていると、後方から年配の男性らしき者が、同じ様に皮のフードを被って現れる。

 「お見事でした!聖魔剣の扱いも素晴らしかったです!」

 「この剣が、アタシを所有者として、その能力を発揮してくれたに過ぎないわ」

 フードの者は、微笑みながら答える。話の口調から、その者は女性と感じられた。

 「あれだけの扱いなら間違いなく光の聖魔剣にも劣らないでしょう!」

 「フ……どうかね?アタシは、まだ光の聖魔剣の所有者とは直接会ったことは無いし、勝負もしていない、実際にその威力がどの程度なのか、目の当たりにしていないからね……あまりこう言う事は安易に口にしない方が良いだろう」

 そう言いながら2人は森林の奥へと足を運ぶ。

 「そう言えば……例の子は、しっかりやっているのかしら?」

 「その辺はご心配なく、常に確認を行なってますので、ご安心下さい」

 「別に心配はしてないけど……それにしても、ジャルサ侯の心変わりで、予定よりも早く用を済まさなければならないとはね……」

 彼女は少し呆れた様子を見せる。

 「全くですな……」

 しばらく歩き続けると目の前に、別の男性の姿が見えて来た。男性と思われる人物も彼等と同じ様に皮のフードを被って素顔を隠していた。

 その人物が手を差し出して、彼等を招き入れる。

 別の人物が立っている場所まで進むと、フッと薄い膜の様な結界を潜り抜ける様な感触を彼等は感じた。その結果内の中に入ると森の中は雨が降って居なかった。それに気付いた年配の男性はフードを剥ぎ取る。

 「誰も来なかったか?」

 「はい、大丈夫です」

 結界内に居た男性もフードを剥ぎ取って答える。その男性は20代位の若い男性だった。

 その2人を連れて女性らしき者は森林の奥へと向かう。

 彼女と一緒に奥へと向かう2人は、目の前に大きな岩山が聳え立っている事に気付く。

 「ここが……例の場所?」

 「ええ、そう……封印されし場所。光の洗礼が正統な王位を継ぐのなら……こっちは、もう一つの別のやり方での王位を継ぐ禁断の聖域と言った処かしらね?」

 彼女は、そう言って胸にぶら下げていたペンダントを首から外して、掌に乗せて岩山に掲げる。すると……目の前の岩山が扉の様に開き始める。その先は通路の様に、奥へと続いていた。

 「この先よ」

 3人は、通路を奥へと歩いて行く。その周囲は、四角い空間に囲まれていて、古代の文字が所狭しと刻み込まれていた。

 彼等が歩き続けると、更に奥の方に大きな扉が現れる。扉の前には謎の文字が刻まれていた。

 「これは……?」

 年配の男性の言葉に女性はクスッと微笑んだ。

 「正統な王家の血筋を持つエールドラ人のみが立ち入る事が許される場所。扉には、こう書かれているのよ『聖魔剣を持つ王家の者、剣を掲げよ』とね……」

 彼女はそう言うと、腰に携えていた聖魔剣を手にして扉の前に立った。

 すると、扉が眩く光りはじめる。

 光は、女性を包み込んだ、まるで女性の身体を調べるかの様に輝き、何かを感知したかと思われた次の瞬間……

 ゴゴゴ……

 大きな音ともに分厚い扉が開き出し、その奥にあるものを見て、男性達は驚きのあまりに「おおッ!」と、思わず声を上げてしまった。

 「ま……まさか、本当に、こんな場所に存在していたとは……!」

 「フ、フフフ……これで、アタシが王位に即位できるわ!転生少女と言われるリーミアとか言う娘も終わったも当然ね!」

 彼女は嬉しそうに、声を振るわせて言う。
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