転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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更なる試練

緊急会議②

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 高官の男性がリーラから手紙を受け取るなり、そこに書かれた文面を読むと、震え上がって後退りする。

 「う……嘘だ、こんな事有り得ない、何かの間違いだ!」

 「本人直筆のサインがあるから紛い物では無いわよ。赤金の称号まで上げるなんて書いて、そんな事としたら、称号の価値なんて私物化当然でしょ?」

 「こ……これは誰かの策略だ、陰謀に決まっている!」

 「そう言う輩がこの王宮には居るのよ、だから私は彼女を保護したまでよ」

 彼は慌てふためきながら王宮の広間から飛び出してしまう。

 リーラはそれを拾い上げると、皆の前にそこに書かれた文面を見せる。

 「ギルドメンバーに加わった者に、魔剣士と接触し彼を仲間に加えようと企む者が居たわ、しかし……そのグループの盟主は、敢えて、彼等に罪を問わず、自らが責任を負う覚悟でいるわ。それを見計らって、ここに賛同している皆さんは、その者に対して不穏分子だのと、彼女を追い払う事だけを述べている。森を浄化して、国に対して大きな利益が得ようとする中、決して逃げも隠れもしない1人の少女に対して、貴方達大人は恥ずかしく有りませんか?それとも王宮とは、所詮は自分達の地位さえ守れれば、他人の命など関係ないと言う様な輩の集まりでしょうか?」

 その言葉に対して参列している高官などの幹部達は何も答えられなかった。彼等が沈黙している中、ジャルサが口を開いた。

 「うむ……確かに貴女が仰る通りであるな」

 彼の言葉に対して周囲が騒然とする。リーラも少し驚いた表情をした。

 常に冷静沈着で、何事に関しても厳格である反面冷徹で有る為、成り行き次第では無慈悲とも言えるような判断さえ辞さない彼が、珍しくリーラの意見に対して同意を示したのだった。

 「今回、魔の森が浄化された事……。それはつまり、我が国にとって長年悩みの種だった物が一つ取り除かれた事でもある。これまで多くの旅人や冒険家達が、あの森を回避する為に山側から遠回りをして王都へと来ていた。今回の事で表参道を通る事が可能となり、王都への行き来もかなり便利になり、我が国も大きな利益を得た事にも繋がる。そう言う意味では少女が行った功績は大きく賞賛とも言える。是非とも私からも一度、彼女と会って話をしてみたいとも思う。彼女の処分は、私が会って話をした上で決定しよう。それで構いませぬか?」

 「ええ……是非とも閣下には一度お目に掛かれればとも思っておりました。宜しければ対話をして見てください」

 リーラは軽く一礼をする。

 「それと……ラナスの件であるが、実は先日から彼の行方が分からず、我々も彼を追っているのだ。今回、この様な王宮の信頼を傷付ける行為は、我々としても許し難い行為でもあり、見つけ次第彼を処罰に処する事と考えているのだが……宜しいでしょうか?」

 「それは、そちらにお任せいたします。我々神殿はあくまでも政治とは距離を置いてますので……」

 彼女の言葉を聞いたジャルサは代理王の前に立つと軽く頭を下げる。

 「転生した少女にお会いしたいと思います、ご了承を御願い致します」

 「はい、構いません。是非ともお会いして来てください。良い返事をお待ちしてます」

 「では……今回の緊急会議は、これで終わりにしよう」

 彼が解散を言おうとする時、リーラが彼に声を掛ける。

 「魔の森に残して来た、ギルドメンバーや王国騎士団を、こちらに戻す為に時空の門を設けても良いですか?」

 「ああ……構いませぬ。凱旋として彼等を迎えましょう」

 「ご厚意感謝致します」

 リーラは深く礼をすると、大広間から立ち去って行く。

 緊急会議が終えると、大広間を後にしたジャルサは廊下を歩いていた。彼の側を複数名の者達等が追いかける様に歩いている。その中の1人の男性が不機嫌そうな表情で彼に話し掛ける。

 「何故、転生少女との対話をお決めになられたのですか?あの者は我等の敵では無かったのですか?」

 「確かに我等にとっては邪魔な存在だよ」

 「では……話し合いなどする必要は無いのでは?」

 その言葉にジャルサは軽く笑みを浮かべる。

 「そう……今まではな。だがな……ラナスの策は見事に失敗して、我等の計画が相手に見抜かれてしまったのだ、今後は下手に動く事も出来ない。あのリーラと言う娘も、あの場で黒幕が誰かを探るつもりだったのだろう。もし……私が、転生少女との対話を決めなければ、彼女は私に疑いの目を向けたに違いない」

 「そ……そうだったのですか……」

 「そうがっかりする必要も無い、既に次の策は練ってある。そうであろうレーメよ……」

彼は一緒に居る若い女性に向かって言う。

「はい、既に準備は出来上がっております。フフフ」

 女性は薄気味悪い笑みで答える。

 ジャルサは廊下から見える広場に目を向けると足を止める。

 「魔の森が浄化された事は我等にとっては嬉しい誤算だ。そう言う意味では転生少女には感謝している。まあ……あの者達にとって最後の花を手向けるのも悪くは無いだろう」

 広場では時空の門の設置が行われていた。

 巨大な円の形をした門の取り付けを数十名の神官と兵達で行っていた。その取り付けを見ているルセディが、リーラの側へと近付き声を掛ける。

 「それにしても、良くも……まあ、あんな事が言えたな」

 「何かしら?」

 「ラナスの手紙の事だよ」

 「真実だから別に良いのでは?」

 「そうだけど、もし……ジャルサが何も言わなかったら、どうするつもりだったんだ?成り行き次第では君が囚われる事だって有り得るのだったのだぞ」

 「その時は、その時よ……まあ、そうなった場合、貴方が助けてくれると思っていたわ」

 それを聞いたルセディは、やはり……この女とは関わりたくないと溜息を吐く。

 「でも……予想外だったわ」

 「何が予想外だったんだ?」

 「私は、てっきり……ジャルサが黒幕かと思っていたんだけどね。彼は意外に話の分かる人じゃない」

 その言葉に対してルセディは周囲を警戒しながら、声を低くして話し掛けける。

 「あまり、こんな場所でそう言う話をしない方が良い。誰に聞かれているか分からないからな……」

 「そう、気を付けるわ」
 
 「ただ……彼は裏で何をしているか分からないい人物だ。今回は良い顔をしたが、次も同じ様に良い顔をするとは限らない、それに裏で何を企んでいるか分からない恐ろしい者だよ、気を付けた方が良いぞ」

 「分かったわ」

 時空の門の設置が完了すると、取り付け作業に関わっていた皆が嬉しそうに準備が完了したと手を叩く。

 それを廊下から眺めていたジャルサ一行は再び歩き出した。

 「そう言えば……」

 一緒に居た者の1人が何気なく話し掛ける。

 「代理王って、時折……何か女性っぽくなる事がありますね」

 それを聞いたジャルサがククク……と笑いを堪える。

 「何だ……お主、今日、あの椅子に座っている者が本物の代理王だと思っておったのか?」

 「え……?だって、代理王だったでしょ、どう見てもあれは?」

 「魔術の心得がある者なら、本物かどうかなど簡単に見分けられるぞ」

 「え……まさか別人?」



 代理王は、部屋に戻るなり、部屋の扉に鍵を掛ける。室内には女史が居て、代理王は椅子に腰を下ろすなり、ボンと白い煙に包まれる。煙が消えると1人の若い女性の姿になった。

 「ふう……疲れた。まさか代理王が不在の時に、緊急会議なんてしないでよね……凄く緊張したわ」

 近くに居た女史が笑いながら女性に団扇で風を送る。

 「ご苦労様……」

 「代理王、早く帰って来て……もう、こんな変身したくないわ……」

 そう言いながら女性はコップに入った水を軽く口にする。



 光花の宿舎ではマイリアが速達の伝聞が届いたのを確認すると嬉しそうに盟主部屋に居るアルファリオに羊皮紙を彼に手渡す。

 「へえ……純白城の広場で、時空の門を使って皆が帰還するのか!しかも凱旋で出迎えるとはね……嬉しい知らせだ。皆に伝えて出迎えに行こう!」

 「はい、皆に報告して参ります!」

 彼は急いで上着を羽織り、出掛ける準備をする。その時彼は「おっと、そうだった……」と言いながら盟主の机へと目を向ける。

 「せっかくの機会だ、ルーミ……君も一緒に来ると良い」

 ルーミと呼ばれた赤毛の少女は「はーい!」と、和かな笑顔で返事をする。
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