転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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更なる試練

救援部隊

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 「貴女に不穏分子の疑いが持たれています。ご同行をお願いします。これは神殿及び、城からの命令でもありますので、拒否する事は許しません!」

 リーラの突然の言動に近くに居た誰もが騒然とした様子だった。

 「ちょ……ちょっと、女神官長殿、いったいどうなされたのですか?」

 突然の言葉に、ロムテスも困惑した様子だった。

 「乱心されたのか?」

 フォルサも慌てた様子だった。

 「一体何をお考えだ、貴女は……!」

 アルムがリーミアを庇うようにして前に出て、ボロボロの状態になった熊手を構えた。それを見たティオロも、腹を押さえながら、よろけながら前に出る。

 「女神官長さんよ……見た目が綺麗だからって、何をしても許されるなんて、思っちゃいないだろうな?この魔の森が浄化された現状を見ても盟主様が不穏分子とか言うなら、アンタの精神を疑ってしまうけどな」

 レトラが短剣を構えて、皆と一緒に立ち並んだ。

 (ふうん、アイツも……たまには良い事言うじゃない……)

 シャリナが珍しく感心した。

 騎士団達もリーミアを庇おうと動く。

 その直後–-「待て!」と、後方から声が聞こえた。一同が振り返ると……アスレイウが、ゆっくりと皆の前に姿を現す。

 彼等が皆、リーミアを守ろうとして動こうとしてる中、アスレイウが彼等に対して呼び止めた。

 「彼女の言う通りにしろ……」

彼の意外な発言に周囲は少し驚かされた。
 
 彼等の中で、リーミアの次に指揮権を持つ者であろう人物の発言に対して、周囲は意外な雰囲気に飲み込まれ、困惑した空気が漂い始める。

 「はぁ?ど……どう言うつもりだよアンタ?」

 フォルサが少し呆気に捕えられた表情で彼を見る。

 「大神官や王宮からの指示なら従うしか無い。下手に反旗を翻せば、今度は自分達の立場が危うくなる。そしたら君達が今度は不穏分子として扱われるぞ。今は彼女の指示に従うのが理想だ」

 彼の言葉にリーラはフッと笑みを浮かべる。

 (流石ね……)

 「ちょっと、貴方ね……幾ら何でも理不尽すぎませんか?ただでさえ降格処分されるかもしれない少女なのに、この森を浄化させた彼女の何処に、不穏分子と扱われる要素があると言うのですか?」

 ロムテスは大声で正体を隠しているアスレイウに向かって叫んだ。

 「君も王国騎士団と言う称号を掲げている者なら私情を捨てて任務に励め!彼女なりに考えて行動した事だろう。神殿が命懸けで国を救ったリムア姫の転生した者を捕らえるなんて事をすれば、それこそ神聖な聖域に傷が付くのは明白だろう……それに」

 彼はリーラをチラッと横目で見た。

 「それに……なんですか?」

 「いや……何でも無い」

 そう呟くとアスレイウは皆のいる場所から少し離れた。

 (それに……彼女に任せて置けば多分大丈夫だろう……)アスレイウは敢えて本人の前では言う事を控えた。

 彼の言動を見たロムテスは、その振る舞いが自分に近しい人物に何処か似ている感じがして彼を見た。

 (あの風変わりな格好の人、もしかして……)

 そう思いながらロムテスはジッと、アスレイウの方を見ていた。

 「さて……周囲が少し賑やかだけど、リーミアちゃんはどうなの?断るなら力尽くでも、貴女を連れて行くつもりだけど……」

 彼女の言葉を聞いたリーミアは、チラッとアスレイウの方を見た。彼は黙って頷く。その様子を確認したリーミアは振り返り、リーラを見た。

 「分かりました、指示に従います」

 その言葉に周囲は騒ついた。

 「ちょ……ちょっと、盟主!本気ですか?」

 一同が騒然とする中、リーミアは皆を見る。

 「きっと何か理由があるから、こうしたのよ。皆も後でマネニーゼで会いましょう!」

 そう言うと、リーミアはリーラの方へと歩み寄る。

 「貴女、高い所は平気かしら?」

 「は……はい、大丈夫です」

 それを聞いたリーラは微笑みながら「じゃあ、後ろの鞍に乗って、しっかり捕まってね」と、鞍に手を差し伸べる。

 リーラが天馬に跨り、彼女よりも少し背丈が低いリーミアが背後の鞍に跨る。2人の女性を乗せた天馬は助走しながら大きな翼を羽撃かせる。強烈な疾風を巻き上げて、徐々に上空へと飛行し始めて行く。

 館の上空をゆっくりと旋回し、王都へと進行方向を定めると、2人を乗せた天馬の姿が小さくなり、やがて森からは確認出来なくなった。

 女神官長の姿がなくなると、ロムテスは正体を隠しているアスレイウの側へと近付いた。

 「ところで代理王、何故……彼女の行動を許したのですか?」

 「アーレスだ!彼女なりに、何か考えがあったのだろう。以前から……王宮内には転生した少女を快く思わない連中もいると聞く……。敢えて捕らえたと見せかければ、そう言う輩が嬉しそうに手を叩いて出てくるのかもしれないからな……多分、そう言う連中を炙り出す魂胆なのかもしれない」

 「なるほど……」

 ロムテスは腕を組みながら頷く。

 「ちなみにアスレイウ様、何故……そんな格好しているのですか?」

 「アーレスだ!アスレイウでは無い……」

 彼はワザと視線を逸らしながら言う。



 天馬に跨った2人は一路王都方面へと飛行を続けていた。流石に上空を飛行しているのを見ていると、リーミアは少し怖くなっていた。

 つい先日、馬車で通って来た道が小さく見える。

 遥か前方に見える純白城と神殿が、市場の上に聳え立っているのが確認出来た。

 「もう直ぐ神殿に着くわよ」

 リーラが陽気な声で話し掛ける。

 「はい、分かりました」

 リーミアは、自分が感じている気持ちを相手に向ける。

 「不穏分子なんですか……私は?」

 その言葉にリーラはクスッと笑みを浮かべる。

 「貴女を神殿に連れて行き保護する為の建前よ。神殿は貴女の味方だから気にしなくて大丈夫だから……」

 「え……?では、どうして、この様な事をしたのですか?」

 「貴女達が魔の森に行き、もし……討伐が成功しなかった場合の救援部隊として兵を出兵させる為に理由が必要だったからね。貴女達の救助では……王宮内の高官は納得してくれないわ。騎士団が市場の小さなギルドグループの為に、動くなんて出来ないからね……。それなりの口実として、誰かを捕える為……と言う理由で出兵を許可してもらったのよ」

 「そ……そうなんだ……」

 リーミアは軍の規律に詳しくなかったので、少し頭を悩ませた。

 「まあ、今回の出兵理由も、私達に協力してくれる方が居てこそ成り立ったものよ」

 「え……それは誰なんですか?」

 「王国騎士団のルセディ将軍よ」

 「?……誰でしたっけ?」

  リーミアが首を傾げながら答える、それを見たリーラは笑った。

 「以前、市場で貴女が縄に掛けられた時に、私と一緒に貴女の側に現れた人よ」

 「ああ……翼竜に乗った方でしたか!」

 リーミアの返事にリーラは少し苦笑した様な表情をした。

 「そう、彼が私達に味方してくれているのよ。一応背後の守りもあるから何も心配する事はないわ。まあ、貴女は神殿に到着したら、しばらくの間は体を癒しなさい。光の聖魔剣を獲得して、その後に魔の森への討伐で疲れているでしょうから……」

 「分かりました」

 その時、ふと……一握りの不安が彼女の脳裏に浮かんだ。

 「ところで……魔の森に兵を残してきてしまって良いのですか?」

 「平気よ、貴女を神殿に連れて行った後、私が彼と会って残して来た部隊を、戻しに向かうわ。ちゃんとその辺の手筈も準備してあるからね」

 そう話していると、彼女達の前に神殿の建物が近づいて見えて来た。
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