転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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更なる試練

新たな幕開け

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  一連の騒動が終結すると、皆は館の外へと出る。

 魔の森に潜入した時は空が澱んで、魔物達が徘徊し回っていたが、リーミアの浄化の魔法で、空は青空が広がり、小鳥達や小動物が駆け回る、自然豊かな森へと変貌した。

 「綺麗ね……ついさっきまで魔物達が居たなんて信じられない……」

 サリサが呟いていると、少し離れた位置から「おーい」と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 その声に気付くなり、アスレイウは急いでマントのフードを被り、正体を隠した。

 声の主はロムテスだった。彼は急いで皆の居る場所へと駆け寄って来る。

 「やあ、皆無事でしたか!流石ですね!」

 その言葉に皆は微笑んだ。

 「そう言えば、向こうで倒れている少女がいました」

 それを聞くなり、リーミアは「ルフィラだわ!」と、叫んだ。

 「安心して下さい、彼女は神官剣士が治療してます。深手の傷の様ですが、生きてます」

 「良かった……」

 リーミアは目に涙を溜めながら安堵した表情をする。

 ロムテスは、一行の中に魔剣士と見慣れない傭兵に気付いた。

 「魔剣士と脱走者ですね、おや……2人だったのでは?」

 「1人は亡くなりました……」

 「なるほど……」

 彼は同行した騎士団に、彼等を連れて行く様に指示する。

 「脱走者には重い罰が与えられます。ご覚悟を……」

 そう言うと、メオスは震えながら、騎士団に連れて行かれようとする、それを見たリーミアが騎士団に対して「待って下さい」と、呼び止める。

 「私が彼等に指示を出しました!」

 その言葉に周囲は唖然とした表情に包まれる。

 「え……どう言う事ですか?」

 「魔の森の偵察に行くよう彼等に命じました。その中で一名魔物に襲われて死亡したのです。全ての責任は私にあります!」

 その言葉にロムテスは呆れた表情をする。

 「正気ですか?ギルドメンバーが討伐中に死亡した場合、そのリーダー、もしくは筆頭者は2等級降格処分が下されます。場合によっては王位継承権の出場停止も有り得ます。それを覚悟で、言っているのですか?」

 「はい、そうです。どんな処分も受けます。ですので……彼等に対する処分は無効として下さい」

 「ちょ……ちょっと、アンタ!」

 メオスは、リーミアの側に駆け寄ろうとするが、彼女が手を差し伸べて遮る。

 ロムテスはリーミアを見るなり溜息を吐いた。

 「かしこまりました。一応ギルド集会所には、その様に伝えておきましょう」

 「ええ……私は白の称号になっても全然構わないわ」

 リーミアの言葉にロムテスは「ん?」と、少し首を傾げながら、彼女のネックレスを見た。

 「貴女、今は銀でしょう?降格になると、水晶になりますが?」

 「え……あれ、そうだったの?」

 リーミアは慌てて、指で計算する。

 その仕草を見た周囲のメンバーは、呆れた表情で彼女を見ていた。

 「宿舎に戻ったら、算数の勉強ね……」

 ルファがニヤけた表情で言う。

 「うう……人に苦手なものを押し付けるなんて……残酷よ!」

 その言葉を聞いた光花のメンバー達は皆、先程の魔剣士に魔法を掛けて苦しめてた方が、更に残酷だと言いたかった。

 「ところで盟主、1+2+3は?」

 エムランがニヤけた表情で言う。

 「そんな難しい難題な計算、答えられる人はいないでしょ?」

 「え……?6だけど」

 側に居たアメリが直ぐに答えて、リーミアは赤面する。

 「じゃあ7+3-1は?」

 「私に難しい方程式の問題は出さないでよね!て……言うか、騎士団の方、この人私にイジワルします。降格処分して下さい!」

 「いえ……これは、イジワルの値には入りませんし、降格処分なんて……相当悪質な行為に限ります。それよりも、貴女計算が苦手なんですか?」

 「計算はダメ、書き物の書物もダメ、外出すると何時も道に迷って、泣きべそかきながら帰って来るのですよ。光花の盟主は……」

 それを聞いたロムテスが、微笑みながらリーミアを見る。

 「宜しければ、我々騎士団が貴女に勉学を教えますが?王国騎士団も以前….貴女に仲間を助けられた者が居ます。その恩返しの為にも微力ながらお手伝いさせていただきたいと思っております!」

 「や……止めて、お願い……私に勉学と言う無理難題を押し付けないで!」

 ロムテスと一緒に居た騎士団が不思議な顔をしながら話す。

 「おい……今、あの大柄の男性、光花て言ったよな?」

 「ああ、俺も聞いた、間違いない」

 「信じられん、今……マネニーゼで一番有名で人気のギルドグループの盟主が、あんな少女だなんて……」

 そんな他愛無い会話をしてる中、アスファードは呆気に取られた表情をしていた。

 「どうしんだ?」

 フォルサは彼の顔を見て声を掛ける。

 「あの少女、王位の人間では無いのだろう?」

 「ああ……今は、まだ王位に即位してはいないがな……」

 「彼女の行動は素晴らし過ぎる。魔剣士を庇い、森を浄化して、更に脱走者に対する処分を、自分が受ける覚悟とは……。王家の役人や高官等の連中は都合が悪くなると、直ぐに他人に責任をなすり付けて逃げ去るのに……彼女は、他人の罪を自ら背負う覚悟がある。王族でもなければ、こんな覚悟は簡単には出来ないと思うが……」

 「全くだよ、本当……何処までお人好しなんだかな……」

 「それに風変わりな方だ。本来……ギルドのグループの盟主なら多少の威厳があり、皆に恐れられているのに、彼女は皆と同じ物腰の低さで居る。見知らぬ者が見れば、誰が盟主なのか気付かないだろう……」

 「ああ……それに、窮地に達した時になると、不思議な力を発揮して皆を助ける……。なんとも不思議な少女だよ」

 等と話していると、上空から天馬に跨って舞い降りる者の姿があった。

 「女神官長リーラ様!」

 彼女は、真っ直ぐにリーミアの前に降り立つ。

 「奪われた聖魔剣は奪還しましたか?」

 「はい、これです」

 リーラはリーミアから手渡せられた聖魔剣を布で巻き、それを魔法の袋の中へと仕舞い込んだ。

 すると彼女は手にしていた黄金の杖をリーミアへと突き出した。

 「貴女に不穏分子の疑いが持たれています。ご同行をお願いします。これは神殿及び、城からの命令でもありますので、拒否する事は許しません!」
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