転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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魔術師の館

展望回廊の戦い①

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 戦闘が終了すると、アルムはティオロの肩に手を掛けて、彼を担ぐ様にして部屋へと向かう、既に身動きが出来なくなったルガンはゼエ……ゼエ……と虫の息だった。

 そのルガンを見て哀れんだ表情のリーミアが手を伸ばすと、大きな手のルガンは彼女の手を振り払う。

 「余計ナ事ハ無用ダ」

 「で……でも……」

 「我等魔族ハ負ケレバ死アルノミダ……ソレヨリモ」

 ルガンは腕に力を込めて、壁に波動を放った。

 ボオンッ!

 ゴゴゴ……

 大きな音ともに、壁が開いた……穴の先には通路が見えて、更にその先には階段が見えた。

 「早ク行ケ、モウココニハ用ハ無イダロウ」

 ルガンの言葉にリーミアは「ありがとう」と、礼を言う。

 リーミアの言葉に不意打ちを喰らったルガンは少し目を丸くしてしまい、「マ……マア、勝者ニ当然ノ事シタマデダ」と、口籠る。

 そんな彼等のやり取りをしてる中、ティオロが一握りの疑問を投げ掛ける。

 「ねえ、ここの通路、人並が通れる位の大きさなのに、何故巨体のアンタが通れたの?」

 「我等魔族、特ニ俺位ノ上級魔族ニデモナレバ体ノ大キサヲ変エル位簡単ダ。サア……モウ用ハ済ンダカラ早ク行ケ!」

 ルガンは皆に出て行く様に言う。

 ルガンの言葉を聞いて、シャリナ、アルム、ティオロが通路の方へと歩いて行く、最後にリーミアが立ち去ろうとした時、ルガンは軽く一言呟く。

 「オマエトノ勝負……楽シメタゾ」

 その言葉を聞いてリーミアが振り返ると、ルガンの体は消滅して消えてしまった。

 ルガンが消滅したのを見ると、彼女はそのまま真っ直ぐ通路を歩き始める。



 ガン、ガン、バアン!

 大きな扉をエムランが力強く押し開ける。強引に叩き出した扉が破壊されて、皆が一同部屋に入ると、その場所は館に入って来た時の場所……大広間だった。

 「どうやら……振り出しに戻ってしまった様ね」

 サリサが呆れた口調で言う。大広間に戻るまでに館の中を隈なく周り、様々なトラップを暴き、数十匹の魔物を倒して来た。流石のサリサとアスファードも少しばかり疲労していた。

 皆が広間に集まって周囲を見回した。大広間にはトラップの様な場所は見当たらなかった。黒い円の上にルビィが乗り、飛び跳ねたりして、穴が再び開かないか確認をして見るが、何の効果も現れなかった。

 「何らかの術で反応する仕掛けだわ、あまり無闇に行動すると、何かの仕掛けが発生するかも知れないわよ」

 サリサがルビィに向かっていう。

 大きな天井の、その向こう側ではアスレイウとルディアンスが激しく戦っていて、その衝撃音が、広間の方にも聞こえて来る。

 ズウゥン……!ガアン!

 「あっちは、結構盛り上がっているな……」

 レトラが呆れた口調で言う。

 「旧友とか言ってたけど、どう言う関係なのかしら?」

 「ナントカ竜て言うグループに居たらしい。地龍だったかな?火竜だったかな?」

 アメリが不思議そうな表情してる傍でフォルサがアゴ髭を撫でながら答えた。

 「翔竜なら俺はよく知っているぜ!」

 エムランがニヤけた顔で言う。

 「え……!それって一体どんなグループなの⁉︎」

 アメリが興味本位で尋ねる中、フォルサが真剣な眼差しでエムランに近付き、彼の胸ぐらを掴んで言う。

 「おい、ルミちゃんは、俺の推しの子だから、誰にも譲らんぞ!」

 「何を言っている……俺の推しの子はマイちゃんだ、彼女以外の子には興味はない」

 「そっか、まあ良いだろう。なら構わない」

 2人の会話にアメリは呆気に取られた表情をする。

 「もしかして……翔竜って」

 「まあ、最近人気のパブだね……」

 エムランとフォルサが嬉しそうな顔で、へへへ……と言いながら答える。

 ハア……と、アメリは呆れた表情をする、以前から民宿に一緒に泊まる時、時折フォルサが宿にいなくなり、酒と甘い香水の様な匂いをして帰って来る理由が、何となく理解出来た。

 「おい!お前、どう言うつもりだ!」

 レトラがムキになった表情で2人に詰め寄る。

 「そうよ、2人に注意しなさいレトラ、全く……不謹慎にも程があるわよ!」

 ルファがレトラに向かって声を掛けた。

 「何で今まで俺に教えてくれなかったんだ!」

 レトラの発言に「ハア?」と、ルファが呆れた表情をする。

 「お前の言うマイちゃんて、どれだけ可愛いのだ?」

 レトラの言葉にエムランはニヤけた表情をする。

 「盟主と同じ年頃だと思うが……盟主の様にペタンコでなく、凶暴性も無い淑やかで可愛い子だよ」

 「それだったら、シホちゃんなんかも条件満たしていると思うぞ」

 フォルサの言葉にエムランは嬉しそうな表情で「イヤイヤ……」と、チッチッ……と、指を立てながら振るう。

 「それを言うならアミちゃんが一番だね、あの甘い香りを漂わせた可愛い子が良い」

 「ホオ、お主……意外に見る目があるな!」

 彼等の話題にルファとアメリが揃って、呆れた表情で見ている。

 「全く、最低な連中ね……」

 2人の女性の側にアスファードが立って、腕を組んで見ていた。

 「流石に異国の剣士様は、関わらないのね立派だわ」

 ルファの言葉にアスファードは気が付いて「ふむ……」と、真剣な眼差しをする。

 「彼等の言う可愛い子って、一体どんな者なのか少し気になるな……」

 その言葉にアメリとルファは呆れた表情で、「ハア……全く男って……」と、溜息を吐く。

 そんな変なムードの中、サリサが手を叩きながら皆に向かって言う。

 「さあ……与太話は、その辺にしといて、他を探すわよ」

 その時、フォルサが館を走り回っている時に、ルビィが流れ星を見たと言うのを思い出し、ルビィに声を掛ける。

 「そう言えば、お前がさっき見た流れ星は、何処に落ちたんだ?」

 「あれは……館の離れの塔がある付近だったね」

 それを聞いた皆は、館を目指している時、離れに塔みたいな物が立っている事を思い出す。

 「そう言えば、まだ変な塔を調べて無かったわね。行ってみましょう!」

 そう言うと、一行は館の外にある塔へと向かう事に決めた。長い廊下を走り、館の外へと出る。表の壮大な景観とは異なり、裏側は少し寂れた雰囲気を感じさせていた。裏庭へと出た、その視界の先に離れの塔が聳え立っていた。

 「いかにも……と、言う雰囲気の場所ね」

 「こんな場所なら、地下に通じる階段とかありそうだな」

 一行が塔の側に近付くと、直ぐに出入口の様な場所を発見した。塔の建物に切れ目の様な線を見付け、その近くには鍵穴の様な箇所があった。

 「破壊して開けて見よう」

 アスファードが、炎の聖魔剣を抜き出して舞える。

 「業炎!」

 激しい炎を剣先から発した。凄まじい勢いの炎を建物の塔目掛けて振り降ろした!

 ドーンッ!

 大きな地響きがして、周囲が揺れる程の感覚がした。正に天地が避けると思える勢いだったが……その彼の攻撃に対して、塔は全くの無傷の状態だった。敢えて言うなら、彼の炎を受けた箇所だけ黒ずんでいた程度だった。

 「この攻撃でも無傷とは……一体この建物はどんな構造なんだ?」

 アスファードは呆れた表情で塔を眺める。

 聖魔剣の威力にも耐えうる塔を眺めていると、衝撃音に気付いた魔物達が騒ぎ始めて、塔と館を繋ぐ展望回廊付近に魔物達が集まっている様子が確認出来た。それを見ていたサリサが「どうやら、あちらが正規の入り口なのかも知れないわね」と、呟いた。

 招かざれぬ客である彼等一行の視線が展望回廊へと注がれる。
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