転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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魔術師の館

魔剣士の過去(7)

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 アスレイウは老婆に連れらて店の中に入る事にする。およそ70代位の年配の女性は、歳をとっているとは思え無い様な元気な足取りで、アスレイウを店の中へと招く。店の中は不思議な術具が処狭しと並んでいた。異国の物や、何かの儀式に用いられる物……更に、禁断の闇の術式と思われる物まであった。店の中へと進むと……アスレイウは店の中央部にある丸型のテーブルへと招かれ、老婆は膝掛け椅子に彼を座らせた。

「少々お待ちを……直ぐに戻るよ」

 そう言うと老婆は店の奥へと姿を消す。

 しばらくの間、アスレイウは1人椅子に座った状態のまま待たされる。静かな空間の中、何処からか「グヘ、グヘヘ……」と、獣(?)なのか、少し気味の悪い鳴き声が聞こえて来た。

 静かな時間がしばらく続くと……老婆が、店の奥から再び姿を現した。その両手には異形の湯呑みと急須を盆に乗せていた。テーブルに湯呑みを置くと、アスレイウにお茶を注ぎ、彼の前へと差し出す。

「さて……待たせてしまったな。ワシは占星術師をしているレンティと言う者である。其方は今回どの様な件で来たのかな?」

「改めて……初めまして、自分はアスレイウと言う者です。今回は……自分の今後に付いて少し見て頂こうと思いまして……こちらに来ました」

 アスレイウは軽く一礼をしながらレンティの顔を見ながら答える。

「ふむ……なるほど。では……其方の両手を良く見える様に伸ばしてくれ」

 相手の言われる様にアスレイウは両手をテーブルの上に伸ばす。その両手をレンティがじっと見つめた。

「フムフム、ほお……素晴らしい……」

 レンティが1人で何やら呟いている最中、一瞬だけ彼女の表情が険しくなった。

「ヌヌヌ……」

 約数分程度、彼の掌を見たレンティは「ありがとう……おおよその事が分かりましたぞ」と、アスレイウに自由にして結構と囁いた。

「何か分かりましたか?」

「ああ……」

 そう返事をするとレンティは軽くお茶を飲み、改めてアスレイウの顔を真剣な眼差しで見た。

「其方の将来だが……遠くない将来、其方は偉業を成すかも知れないな……ただし、それに対して自惚れている様な振る舞いをしていたら、それは夢に終わるかもしれないので気を付けるのだ」

「分かりました」

「それとは別にだが……」

 レンティは少し困惑した様な表情でアスレイウを見る。

「其方は近いうちに、大きな選択を迫られるであろう」

「選択……ですか?」

「そう、その選択は……其方の今後の人生を大きく左右させられる程の出来事になるであろうな……」

 その言葉にアスレイウは戸惑いを隠し切れない表情をした。

「それは一体……なんですか?」

「今のワシにもその辺の事は上手くは伝えられ無い。人生とは、その者の生き方で大きく変わるからな……。ただ1つ言える事は……」

 レンティの眼差しがアスレイウを見つめた。

「もし、その様な場面に直面した時、お主は友を、仲間を……斬る覚悟はあるか?」

「仲間を、斬る……のですか?」

 その言葉にアスレイウは冷や汗を流し、両手をギュッと強く握り締めた。
「まあ……あまり深く考えない事だ。あくまでも占いであり、其方の怒力次第で未来は大きく変わるからな……」

 レンティは愛想笑いしながら言う。

「分かりました」

 アスレイウも愛想笑いしながらお茶を飲んで、レンティの店を出て宿舎へと戻って行く。


 コテージの中……

 特殊な魔法剣を使っていた主を倒した飛竜のメンバー達は、コテージの中にあるそれぞれの寝室から目を覚まして起きてきたメンバーが中央の間に集まって来た。

 皆が起きて中央の間で朝食を取りながら談話している事に気付いたルディアンスも布団から起き上がり、自分も朝食を取ろうとした。

 その時……布団の中から何かがコロンと落ちた事に気付き、彼は落ちた物を見ると……それは昨日サーシャが壊した筈の棒状の柄だった。

 それを見たルディアンスは「ワアアー!」、思わず大声で叫んでしまう。突然の叫び声に驚いて、メンバー達が慌ててルディアンスの部屋に入って来た。

「どうしましたか?」

 血相を変えて入って来たメンバー達に、彼は慌てながら棒状の柄を隠した。

「ちょっと変な夢を見たんだ……驚かしてすまない……」

 と、ルディアンスは愛想笑いをしながらメンバー達に言う。

 その後は……何事も無く、彼等はコテージを片付けると転移石を使って市場へと戻る。

 市場に戻ったルディアンスは、武器防具屋へと向かい、棒状の柄を調べて貰う事に決めた。

 調べて貰い始めて直ぐに店の主人がルディアンスの元へと返した。

「悪いが……これは、買い取り不可だ」

「何故だ?」

「何処で拾ったのか知ら無いが……この武器は呪われているね。残念だけど呪いの効果を除去し無いと取扱は無理だ」

「呪いの効果を無くすとどうなるんだ?」

「多分……この道具に元々備わっていた効果は全て失われるだろう」

「そうか……」

「どうするんだ?」

 ルディアンスは魔法剣の効果が失われるのは残念に感じたが、それ以上に……この武器の様な物に付き纏われるのも嫌だった為、彼はその道具を捨てる事を決断する。

「その道具の呪いを除去と処分を頼む」

「そうか……分かった」

 店の主人は、そう返事をして棒状の柄を処分箱の中へと入れる。

 その後、ルディアンスは王位継承権の競技出場する為、神殿で審査しに向かう。

 王位継承権を巡る競技は毎年行われ、優勝者問わず、毎年出場者は必ず審査が行われていた。審査の基準は不心得無き者が必須条件であるが……出場に相応しく無い不純な者も認められなかった。

 その日、ルディアンスは神殿の神官達によって、光の魔法で審査を行うと、彼は不適合の結果を送り付けられる。

「えッ!なんで?」

 ルディアンスは思わず叫びながら神官に突っ掛かった。

「すみませんが……今回はお見送り下さい」

「そ……それは出来無い、俺にはどうしても賞金で助けたい人が居るんだ!出場させてくれ!」

「残念ですが……今回は無理です」

「何故なんだ!去年は出場出来たのに……何故、今回は無理なんだ!」

 ルディアンスは、神官に向かって大声で叫ぶ、その時……神官剣士達によって取り押さえれて、神殿の外へと放り出されてしまう。

「どうしてなんだよ!」

「無理なものは無理なんだ。あまりしつこいと出場そのもの出来なくなるぞ」

 神官剣士が彼に向かって言い、そのまま神殿の中へと戻って行く。

「うう……クソォ……」

 彼は悔しそうに地面にある土を握りながら叫んだ。

 それから半年後……

 王位継承権の試合が行われ、アスレイウは準々決勝まで上り詰めたが、あと1歩の所で相手に及ばず、苦杯を強いられてながら宿舎に戻って来た。

 宿舎に戻ると飛竜のメンバー全員が彼の帰還を待ちわびていて……皆が盛大に祝いの準備をして迎えてくれた。

「盟主お疲れ様ー」

 盛大な祝福にアスレイウは少し戸惑い気味ながらも嬉しそうに、皆からの祝福を喜んだ。ふと……彼が視線を向けると、皆が喜んでいる中、少し戸惑い気味のルディアンスに気付く。

 彼はルディアンスの側へ行くと、魔法の袋から金貨の入った袋を出して彼に渡す。

「受け取れ」

「え……!?」

 彼の行動に周囲は驚きの声が響き渡る。

「む……無理ですよ。その賞金は……ギルドの為に使わなければ……!」

「僕が手に入れた金だ、だから……僕が何に使おうとも誰も文句は言わ無い。それに……君は飛竜にとって大切なメンバーだ。これからも、このギルドに居て貰う為にも彼女の病を治して、早くギルドの中心的なメンバーになって貰いたいんだ」

 アスレイウの言葉を聞いたルディアンスは震える手で、金貨の入った袋を受け取る。

「す……すみません。感謝する」

「いや……礼は彼女の病が治ってからにしよう」

「かたじけない」

 彼は、そう言うとアスレイウに一礼をして、急いで家へと向かう。

 家に戻ると、使用人が蒼白した顔でルディアンスを迎え入れる。

「ご……ご主人様、大変です!」

「どうしたんだ!?」

「メ……メイティ様のご容態が……!」

 それを聞いたルディアンスは急いでメイティが居る寝室へと向かう。

 寝室のベッドに横たわるメイティを見て彼は愕然とした。ほんの数日前まで美しかった女性の顔は、既にやつれて……青白い表情へと変わっていた。誰が見ても、命の灯が消え掛かる寸前だと言うのが伺えた。

「い……急いで医者を!」

 ルディアンスは使用人に声を掛けた。彼の指示を受けた使用人は直ぐに医者を呼びに家を飛び出した。

 彼は哀れんだ表情で両手で彼女の小さな細い手を握り締める。

「メイティ……」

 涙を堪えながらルディアンスは、恋人のなを呟いた。

 ゼエ……ゼエ……と、息苦しそうに彼女は呼吸していて意識が朦朧している様子だった。

 しばらくして医者が家に現れ、彼女の容態を確認するも……顔を俯かせながら首を横に振った。

「残念ですが……ここが限界です……」

「か……金ならある、早く治してくれ!」

「今、手術しても間に合いません。せめて……あと1ヶ月以上早ければ……治せたかもしれませんが……」
「どうしてなんだ!金を要求したのはそっちだろう!つべこべ言わず早く何とかしろよ!」

 ルディアンスは大声で叫びながら、医者の胸ぐらを掴み上げながら相手を睨み付ける。

「こっちだって助けたい気持ちはありますよ。それに……以前伝えましたよ、完全に治った訳では無いと……症状の再発が起きる可能性はあると申し上げたはずです」

「ぐぬぬ……」

 どの様な判断をすれば良いのか分からないルディアンスは、再び医師に対して怒りの形相を浮かべた。

 その直後……

「ル……ルディ……」

 囁くような声でメイティが呼び掛ける。その声に気付いたルディアンスは、振り返るとベッドに横たわる彼女が震えながら力無さそうな感じで腕を伸ばしていた。

「メ、メイティ!」

 彼は慌ててベッドの側に寄り添い、メイティの手を握り締める。

「ごめんなさい……私が弱い人間なばかりに、貴方に迷惑を掛けさせてしまって……」

「そ……そんな事は無い。早く元気になって、また前みたいに楽しく暮らそう」

「ありがとう……でも、私……もう、無理みたい……」

「イヤだ、ダメだ!俺をひとりぼっちにしないでくれ!」

 その言葉にメイティは涙を浮かべながらルディアンスを見た。

「ごめんなさい、私……貴方に何もしてやれなくて……」

 ゼエ……ゼエ……と、虚気味で彼女は囁く。

「お願いだ、メイティ死なないで!」

 彼は必死に声を掛ける。

「ルディ……」

 意識が途切れそうな彼女は、微笑みながら彼が握っていない反対の腕で愛おしいルディアンスの顔をそっと優しく撫でる。

「ありがとう……貴方に出会えた事、私に取って最高の幸せだったわ……最後に、私のお願いを聞いて……」

「ああ……分かった」

 彼女は、愛しい人の掌に、自分の手を差し伸べる。

「貴方は純粋で優しいけど……でも、何事にも真っ直ぐ過ぎるわ。だから……自分を失い易いから気を付けて……。誰よりも強くて優しいその力を人の為に役立て……、決して自分に負けないでね……。私……これからは遠くで、ずっと貴方を見守っているから……泣かないで……」

 そう呟くと彼女は事切れる様に静かに息を引き取った。

「メイティー!」

 ルディアンスは2度と目を開けない彼女の体を抱きながら叫んだ。
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