転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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魔術師の館

集合

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 樹々に覆われた長いトンネル状の道から出たリーミアとアーレスは、久しぶりに青空の下、陽光に照らされた場所に出られて一安心した。

 彼等が森に入る前、馬を休めさせようとした1本の樹が目の前に見えた。森の中からは魔物の雄叫びが聞こえるが……外に出れば何処か遠くで野鳥などの囀りが聞こえて来る様であり、襲われる事が無い安心感に対してホッと束の間の落ち着きを取り戻した。

「さて……無事に出らたのは良いけど、色々と難題が山積みだな。まずは……皆の所へ戻って、どの様に報告しようか……。とりあえず馬を呼ぼう」

 アーレスは袋から馬を呼ぶ為の笛を取り出す。その時リーミアは何かに気付いたのか、遠くの方を眺めていた。

「ねえ、私達もしかしたら戻る必要は無いかもしれないわね……」

「え、それは……どう言う事?」

「あれを見て……」

 リーミアの指した方にアーレスが視線を向けると、騎士団達が橋を越えて行進して来る姿があった。その行進に混ざって、光花のメンバー達やティオロ、サリサ達の姿も確認出来た。

 更に、神殿の神官剣士や天馬に乗った女神官長リーラの姿もあった。

「これは……また、随分と盛大に集まって来たね……」

 まるで城を1つ攻める様な勢いだな……と、アーレスは言いたかった。

 ザッ……ザッ……ザッ……

 騎士団と神官剣士の集団は歩幅を合わせながら行進を続けて、リーミアとアーレスの近くまで来ると……「おーい!」と、陽気な感じでティオロの呼び声が聞こえた。

「行進止め!」

 サリサの呼び声で、騎士団達は行進を止めた。

 約2千人以上居ると思われる騎士団と神官剣士達に混じって、リーミアの馴染みのある光花の面々とフォルサ達の姿があった。

「サリサ……これは一体……?」

 アーレスが戸惑いながら彼女に問いかける。

「色々とあってね……まあ、彼の方がこの騎士団を引き連れて来たのよ」

 そうサリサが呟きながら視線を向けた先には、リーラの姿があった。

 リーラは天馬から降りると、品やかな足取りで2人に近付き胸に手を押し当てながら軽く挨拶を行う。

「こんにちは。しばらく振りねリーミアちゃん」

「は……はい、こんにちは!」

 少し慌てふためいたリーミアを見ながら彼女は軽く微笑んで、アーレスの方へと視線を向ける。

「どうも、こんにちは。アーレス殿……」

「やあ、こんにちは」

 彼は軽く手を振りながら挨拶を交わした。2人の仕草を傍で見ていたリーミアは、彼等が親密な関係にあるのだと感じた。そんな彼女の事を、さほど感じていなかったリーラは2人の側を少し歩き、目の前に広がる魔の森を眺めた。

「へえ、これが噂に名高い魔の森か……間近で見ると凄い迫力ね」

 関心そうに眺めるリーラに対してアーレスは少しばかり不機嫌そうな表情を見せた。

「貴女は……一体、どう言う手配で王宮の兵達を出兵させたのですか?」

 その言葉にリーラは柔かな表情でアーレスの方を見つめた。

「ちょっと、王宮にお願いしただけよ。あなた達の護衛役としてね……」

 その言葉にアーレスは溜息交じりに首を横に振った。

「少しの兵を出兵するだけでも、金貨数万枚もの費用が掛かるのですよ。しかも……こんな遠距離も移動させて、もし隣国に見つかったら戦になりかねないですよ!」

「大丈夫よ。あなた達が直ぐに事を終わらせれば何も問題無いわよ」

「問題無いて……良く平気で言えるな……」

 アーレスは呆れ果てた口調で言う。それを傍で見ていたリーミアは不思議そうな表情で、彼等のやり取りを見つめていた。

「何か……あったのですか?」

 リーミアの言葉にアーレスは少し困惑した表情のままリーミアの方を見つめる。

「そもそも……王国騎士団と神官剣士とでは、同じ剣士でも目的や役割と言うものが異なるんだ。不審者に対して、力尽くでも相手を捕らえるのが王国騎士団のやり方であり……神官剣士は護衛が目的で、極力戦闘を行わないのが本来の役割なんだよ」

「そうだったのですか……」

 アーレスの話を聞いたリーミアは少し関心しながら返事をした。

 そんな彼女を見つめながらアーレスは内心(全く、リーラはとんだ疫病神だよ……金輪際二度と関わりたく無い!)と、心の中で呟いた。

 アーレスが、そう思いながら集まった騎士団を眺めていると……

「盟主!」

「盟主さまぁ……」

 レトラ、ルファ等、光花のメンバー達がリーミアの方へと駆け寄って来た。

「ご無事でしたか!?」

 レトラが少し慌てた様子で言う。

「ええ……何とか……」

 そう答えるリーミアだが、着ていた甲冑や衣服は汚れて、綻びなどが目立ち、髪も少し乱れている様子だった。

「なんか……随分と激しい戦闘を行なった様子ですね……」
 少し不安そうな表情でルファは言う。

「ええ、ちょっとね……」

 そう言いながら、リーミアはチラッとアーレスの方を見る。

 彼も、また……甲冑が汚れて、マントなどが少し破けたりしていた。

「いやあ……俺も盟主が無事か心配したんだぜ!」

 エムランが側へと近付きながら言うが……「ふう……ん」と、リーミアは少し不信な目付きで返事をする。

「どんな風に心配したのかしら?」

「え……いや、それはその……魔物に喰われたり、踏みつけられてペチャンコになって無いか……なんてね」

「つまり、貴方は私に対して、そうなる事を望んでいた……と言うのね!」

「い……いいえ、違います!」

 彼は慌てて手を振りながら返事をするが……リーミアは持っていた魔法の杖をエムランに向ける。

「お、お許しください盟主様!」

 エムランは慌てて膝を付きながら謝った。

 流石にリーミアは、それ以上の事はしなかった。……と、言うよりも、現在はエムランの事など重要では無かった。

「やあ、初めまして」

 銀色の甲冑に身を包んだ若い男性が、リーミアに近付き声を掛けて来た。

「あ……どうも、初めまして……」

 リーミアは初めて見る男性に対して、少し戸惑いながら挨拶を交わす。

「君と会話をするのは今回が初めてだね、僕はロムステと言います。宜しく……」

「あ、はい……リーミアと言います。宜しく……」

 少し戸惑っているリーミアに対して、フォルサが彼女の側へと近付いて話し掛ける。

「湿地帯で、お前さんが気を失っている時に、魔剣士と戦った者だよ」

「そうだったのですか!ありがとうございます」

 リーミアは嬉しそうな表情で、ロムステに対して頭を下げながら礼を述べた。

「いやいや……礼を言われる筋合いは無いよ。あの時、奴を取り逃してしまったせいで、こんな事になって……謝るのはこっちの方ですよ」

 ロムステの言葉に、フォルサが介入して来た。

「謙遜しなくて良いさ。あの時……我々は魔剣士によって壊滅されるかも知れなかったんだ。それを助けてくれただけでも感謝しているさ」

 その言葉にロムステは顔を俯かせる。

「分かりました……」

 それだけ述べると、視線をリーミアの方へと向ける。

「そう言えば……貴女の持っている、その剣は?」

 ロムステの言葉にリーミアは、自分の腰に携えてある聖魔剣を手にする。

「これは……新たに手に入れた光の聖魔剣よ。奪われたのは力の聖魔剣の方なの……」

「へえ、そうなんだ!」

「これから、その聖魔剣を奪い返しに向かうのよ」

「良かったら、僕達も参加させて貰おうかな……」

 ロムステのに対して、「それは困るな」と、声を掛ける人物が居た。

 振り向くと、彼の言葉に横槍を入れたのはフォルサだった。

「どうしてなのだ?」

「我々は、魔物狩と言う一環で集まった者達だ。確かに貴方は強い……けど、こんな大勢の騎士団や神官剣士と言う連中が、大勢で魔の森に攻撃を仕掛けたら、我々の奨励金が半減してしまうだろう?」

 その言葉に対して周囲のメンバー達も同じ様に頷いた。

「言われて見れば、確かにそれは一理あるわね……」

 納得した様な表情でアメリが頷いていた。

「そうでしたか、残念です……」

 少し気落ちしながらロムステは返事をした。それを見ていたリーミアも、騎士団が参加しない事に対して気難しそうな表情をする。

「彼……個人でも参加出来ないかしら?」

「何故なの?」

「正直言って、今のメンバーだけでは難しいわね。せめて……あと1人、誰か来てくれると助かるわ」
「では……僕が!」

 そう言った直後、ふと……ロムステはリーミアの聖魔剣の柄の部分にある宝石が輝くのを見た。

「貴女の、その武器……光輝いてますよ」

 そう言われて、リーミアは聖魔剣が輝いている事に気付き両手で掴み取る。

「本当だわ、こんな事初めてよ!」

 その直後……

 キイィーン……

 脳内に耳鳴りの様な音がしたと思うと、何処からか声が響く。

(仲間が近付いて来る!)

「え……仲間?」

 そう呟きながらリーミアは、周囲を見回した。

「どうしたの?」

 光花のメンバーや、ティオロ達が、少し困惑した表情の彼女を見た。

「よく分からないけど……誰かが来るらしいのよ」

 何を言っているのか、さっぱり解らない様な表情をしながら彼等はリーミアを見つめていた。

 その一方で、騎士団や神官剣士達が、少しザワ付き始める。

「オイ、あれは何だ?」

「何かが近付いて来るぞ!」

 西の上空を指しながら周囲の騎士団達が騒ぎ始めるのに気付いたアーレスは、上空を見上げると、見慣れ無い翼竜が彼等の居る場所へと向かって飛行して来た。
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