転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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魔の森、攻略!

魔の森、潜入(10)

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 目の前に立つ、不気味な姿の化け物に対してリーミアとアーレスは少しばかり圧倒された雰囲気だった。

(気をつけろ……奴は魔族だ。これまでの相手とは一味違う)

(魔族って……何?)

(主人に忠実で、目的を持って行動する魔物達の事を言う。特徴として他の魔物達には出来ない人語を話したりするのが大きな違いだ)

(なるほど……)

 アーレスとリーミアは小声で話し合っていた。

「何ヲ、ゴチャゴチャ話シテイルー!」

 ルガンが棍棒を大きく振り下ろして来た。

 ズウウーン!

 地面に衝撃が走り、ルガンの一撃で地面が抉られた様に、大きな穴が開いた。

 咄嗟に攻撃を交わしたリーミアとアーレスは、ルガンから少し離れた位置にある岩の上へと身を隠した。

 リーミアは逃げる時、気を失ったルビィを捕まえて、岩の上まで連れて来ていた。彼女は岩の上に彼を寝かせる。

 それを傍で見ていたアーレスは、無言の眼差しでルビィを見つめた。

(この少年……本当に強いのか?)

 そう思いながら彼等は自分達の真下にいる化け物へと目を向けた。

「厄介な相手だ……」

 アーレスは自分の素顔を隠しているフードに手を掛ける。

(このフードさえ脱げば、あんなヤツなんか……)

 そう思いながら彼は隣のリーミアに目を向けた。

「聖魔剣さえ使えれば……あんなヤツ……」

 彼女も少し悔しそうな表情で相手を見ていた。

 互いに実力が発揮出来ず、もどかしそうな雰囲気だった。

 そう思いながら相手の様子を見ていた時だった。上空を旋回していた巨大な魔物が、ルガンの威圧感に気付いたのか……「キャシャアアー!」と雄叫びを上げながら、後方から相手の喉元へと襲い掛かって来た。

「ヌオオー!」

 ルガンは、少し自分よりも大きな魔物の首を掴み上げると、そのまま魔物を地面へと叩き付けた。

 ズウウン……

 たった一撃で魔物は、身動きしなくなり、ルガンは更に大きな足で魔物を踏み付け……完全に息の根を止めた。

「何てヤツだ、魔物にも容赦無しとは……」

 呆気に取られたアーレスは相手が狂信なものだと判断して、隣にいるリーミアに話し掛ける。

「僕が相手を引き付けるから、君が攻撃するんだ」

「え……でも……」

「こんな場所に居ても時間の無駄遣いだ。それに……僕達には、他にも目的があるだろう。ここでヤツを引き留めないと。目的を見失って、ルビィ君の様に何時迄も森に住まう事になるんだぞ!」

 それを聞いたリーミアは、少し沈黙して……キッと目を見開くと、アーレスを見て黙って頷いた。

「分かったわ」

 それを見たアーレスも納得の表情を浮かべる。

「よし、僕が飛び降りるから、君もタイミングを見計らって来い!」

 そう、叫びながらアーレスが岩から飛び降りて、ルガンの後方を狙って魔法剣を鞘から抜いて、攻撃しようとした!

 しかし……

 グルッと、ルガンが後ろを振り返った。

「な……そんな!」

「ムダダァー!」

 そう、大声で叫びながら、ルガンの大きな掌がアーレスを襲う。

 ズバーン!

 強烈な一撃を受けたアーレスが森の中へと投げ飛ばされる。

「ハッ!?」

 作戦で少し遅れて岩から飛び降りたリーミアは、少し驚いた表情でルガンの後ろに攻撃を仕掛けた。

 そんな相手に対してルガンはリーミアの方へと振り向く。

「喰らえ!」

 ズバッ!

 リーミアの一撃がルガンの胸を切り裂いたが……

(う……浅い)

 せっかくアーレスが考えた作戦も上手く行かず。相手は落下する少女を見るなり、大きな掌で打ちのめした。

 バシッ!

「ギャ……」

 軽い一撃だったが、それでも生身の人間にとっては大きな打撃でもあった。

 幸いリーミアが落ちた場所は地面が泥濘んで柔らかく、致命傷を負う程の怪我では無かったが……それでも、空中から投げ飛ばされた衝撃で、上手く起き上がれなかった。

「ウグ……」

 予想以上の相手にリーミアは苦悶の表情を浮かべた。

(以前手合わせたセルティスか……それ以上の相手ね……)

 滅多に現れない強敵に対して、リーミアは魔法剣を地面に突き刺し、グッ……と腕に力を入れながら魔法剣を杖代わりに立ち上がった。

「ホオ……意気込ミダケハアル様ダナ……小娘」

 根気を込めてリーミアはルガンの前で立ち上がった。

「フン、意気込ミダケハ認メテヤロウ……」

 ルガンの赤々とした目が笑っているかの様な感じに、「クッ……」と、少し悔しそうな表情を見せるリーミアだった。

(完全にこっちが劣勢だわ……せめて、聖魔剣だけでも使えれば……)

 そう……思いながらリーミアは右手を腰に携えた短剣に押し当てると、短剣がドクンドクン……と脈打つ感覚が伝わって来た。

(どうしたのだ?何故私の力を使わない……このままでは、お前自身危険だぞ……)

 セルティスの声が短剣を通して聞こえて来た。

(今は、まだ……使う時では無いのよ)

(愚かな……何を根拠に意地を張っているのだ。目の前の強敵に撃ち勝てない以上、我が剣で抵抗しなければ、お前自身生命の危険とも言えるのだぞ。迷いを捨て、今こそ我が剣を手にしろ!)

 セルティスの呼び掛けにリーミアは一瞬戸惑った。

「モハヤ、貴様モ終ワリダナ」

 ルガンは棍棒を強く握り締めて、リーミア目掛けて勢い良く振り落とした。

 ズンッ!

 激しい衝撃を感じたルガンはニヤリ……と、勝利を確信した。……筈だったが、ルガンの目は驚きと共に大きく見開いた。

「オ、オオ……」

 既に立っているだけが精一杯の筈だった少女が、まるで別人の様に毅然とした立ち振舞いで、相手の攻撃を受け止めていた。

 その彼女の手元には眩い閃光が導き出されていた。

 リーミアは短剣の鞘から剣を抜き出すと、その刃は長剣の長さまで伸びる。

「ヤアッ!」

 声を発しながら剣を振り翳すと、ルガンの棍棒を握っていた太い腕が、押し返され……相手が少し後方へと後退りされる。

「ヌ……コイツ、マダ……コンナ余力ガ残ッテイタノカ?」

 相手を押し返したリーミアは、自分が立っていた場所に目を向けると、地面に突き刺した魔法の杖を見つける。

 左手を真っ直ぐに伸ばして念じる。

「来い!」

 その呼び掛けに応じて魔法の杖が彼女の手元に届き、パシっと杖を掴むと同時に彼女は巨体な生き物へ向けて杖を向ける。

 魔法陣を浮かび上がらせて魔法を唱えた。

「雷電ーッ!」

 ズガガァーン!

 激しい雷がルガンに落ちた。電撃のショックで相手はウグッと蹲ってしまった。

 その絶好の機会を逃さなかったリーミアは杖を、再び地面に突き刺して、相手目掛けて飛び上がった。

「貰ったー!」

 聖魔剣を大きく振りかざして、相手を切ろうとした。

 しかし……

 バッ……

 目の前に茶色の大きな塊が現れて、リーミアは思わずその塊に刃を断ち切った。その塊を切った時、その塊が棍棒だと気付く。うっかり相手の行動に乗せらて隙を作ってしまったと気付いた時だった。

 目の前に恐ろしい形相をした相手の顔が現れて、こちらを睨んで見ている事に気付いた。

「クガァー!」

 激しい叫び声と同時に、相手が掌で少女を弾いた。

「キャッ……」

 掠れた様な声と同時にリーミアは地面に叩きつけられる。

 ゼエ……ゼエ……とルガンは電撃を喰らい少し疲弊した様子だった。それでも彼の持つ強さは変わらず、ゆっくりと立ち上がると少女を見た。

 一度、気合いで立ち上がった少女は、今度の攻撃では完全に気を失っている様子で、身動きする様子が感じられなかった。

「フン……終ワリダナ」

 少し手こずった相手を見ながらルガンはリーミアの首元に長い爪を突き刺そうと、勢い良く腕を伸ばした。

 その瞬間ー

 ガシッ

 何かがルガンの長い爪を受け止めた。

「ムムッ!」

 突然の出来事にルガンは思わず目を見開きながら驚いた。

 その頃……

 少し離れた場所に投げ飛ばされたアーレスは、自身の回復魔法を使い、傷を癒して万全の状態へと回復した。

「まさか、あの化け物がこれ程までだったとは……リーミアちゃんは大丈夫か?」

 そう思いながら彼は急いで森の中を走り、ルガンの居る場所へと駆け付ける。

 聖魔剣が使えず、転生者の紋様も封印されているリーミアが、力を増幅した相手と戦えるのか心配だったアーレスは、急いでルガンの場所へと向かう。少し離れた位置からでも、ルガンが撒き散らす異様な空気が彼の肌に伝わって来た。

「間違いない、こっちだ……無事で居てくれよリーミアちゃん」

 そう思いながら彼がルガンの居る付近へと到達した時だった。彼は、目の前の光景を見て驚いた。

「な……何だ、これは……!」

 ルガンの攻撃を何者かが受け止めていた。その後方には気を失って倒れているリーミアの姿があった。

「化け物め、姉ちゃんを傷付けさせる事は、オイラが許させねえぞォ!」

 ルガンの長い爪をした掌をルビィが両手で必死に受け止めていた。
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