転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

文字の大きさ
上 下
85 / 158
魔の森、攻略!

命令状

しおりを挟む
「ま……待て、協力すれば良いのだろう?」

「ありがとう、貴方なら信用出来ると思って話した甲斐が有って良かったわ」

(全く……とんでもない女性と関係を持ってしまったな)

 ルセディは内心、穏やかでは居られなかった。全ての事が終息に向かったら、故郷にある寺院で厄払いして貰おうと考えた。

「じゃあ、王宮の事は貴方に任せるわ。何か有ったら伝聞を送ってね。待っているわ!」

 リーラは、そう言いながら天馬を羽撃かせて神殿へと飛び去って行った。彼女を見送ったルセディは、深い溜息を吐き、赤毛色の髪を掻きながら翼竜に跨る。

 リムア王女消滅から約100年……それまで一度も変更が行われなかった王位継承権の競技大会。それは……正統な王位に即位出来る人物が存在しなかったからこそ継続されていた。

(転生少女が光の聖魔剣を手にしたと言う事は、ほぼ……王位に即位出来る条件を満たしている。だが……競技大会に出場資格を選別するのは神殿でも……、実際に競技大会を動かしているのは王宮側とも言える。その王宮が王位継承権を排除してしまうと、せっかく現世に転生しても、それ自体意味が無くなってしまう。そう……考えると競技大会を動かしている王宮の連中が一番怪しいと睨みつけるのが妥当か……。果たして何処まで、彼女の方程式が通じるか、調べて見る必要はあるな……)

 そう考えながら、彼は翼竜を羽撃かせて城へと飛び去って行く。


 ––––神殿

 神殿の礼拝堂に戻って来たリーミアは椅子に腰掛ける大神官を目の前に、同行していた神官達と一緒に片膝を付いて平伏していた。

「良くぞ戻られたリーミア殿」

 大神官は笑顔でリーミアに話し掛ける。

「はい、無事光の聖魔剣を手にする事が叶いました」

「そうか……宜しければ、それを見せておくれ」

「はい」

 リーミアは光の聖魔剣を両手に支えて大神官に手渡す。大神官は聖魔剣を受け取るが、王国騎士団達の様な拒絶反応が無く、普通に手にしていた。

 彼は「ふむ……」と、頷きながら剣を鞘から軽く抜き取る。しかし……剣の曇り具合程度確かめると、剣を鞘に納めてリーミアへと返した。

 他愛の無い動作では有ったが、リーミアや同行していた神官達からすれば、彼の持つ能力の大きさに圧倒される。彼女に光の上級魔法を教えた者であるからこそ、大神官は光の聖魔剣を手にする事が出来た。光の聖魔剣は大神官を認めている……とも言えた。

「さて……戻って来て早々、申し訳無いが……城からお主宛に命令が下されているのだ」

「私……宛てに、ですか?」

 大神官は軽く頷き、側近の者を手招きさせる。その者が手にしていた羊皮紙を広げて、書かれている文面を読み解いた。

『先日、マネニーゼ市場より魔族が出現。そのモノは転生少女を探していた。そのモノは魔の森に潜伏している魔剣士が転生少女から奪った聖魔剣を所有していると発言。その為……元所有者である者に聖魔剣を奪還する様ここに命じる。純白城、代理王アスレイウより……』

 それを聞いた同行していた神官達は、やはり……と納得した表情で居た。

「し……失礼ですが、大神官様……魔の森は危険な地域です!幾らなんでも彼女を向かわせるのは、あまりにも身勝手過ぎるかと思います!」

 女性神官が思わず発言してしまった。

「確かに危険な場所であるのは分かっている。しかし……リーミア殿は、まだ力の聖魔剣との契約で繋がっている。仮に他の者が魔剣士を捕らえる事が出来ても、聖魔剣を手にする事が出来るのはリーミア殿しかいない。そう考えると、彼女を魔の森に向かわせるしか無いが……。リーミア殿自身は、どうお考えかな?」

 大神官に声を掛けられてリーミアは自分の後ろにいる神官達を見て、しばらく沈黙してから口を開いた。

「城からの命令であるのなら、魔の森に向かいます」

 それを聞いて神官達は唖然とした表情でリーミアを見た。大神官も真剣な眼差しで彼女を見つめた。

「宜しい、御武運を祈っている」

 大神官は城から送られて来た命令状をリーミアに手渡す。

「必ず……必ず生きて戻って来ておくれ!」

 大神官はリーミアの肩に手を差し伸べながらリーミアを見つめながら言う。

 命令状を受け取ったリーミアは、大神官と別れ、祠まで同行してくれた神官達に別れの挨拶をすると、宿舎へと向かって帰って行く。

 城からの命令状の件は、直ぐに神殿内にも声が広まった。

 この件に関して真っ先にサリサが女性騎士団長に文句を言いに、扉を開けて部屋に入って来た。

「騎士団長!リーミア様を魔の森に向かわせるって言う事は本当なのですか!」

「そう……らしいわ。でも……我々がどうする事も出来ないのも事実よ」

「分かっています。ただ……何故、光の聖魔剣を手にして、戻って来たばかりで、こんな事を決めさせるのですか?」

「それは、魔族が市場に現れたからでしょう?先日の光の魔法の件もあるし……王宮側の狙いかも知れないわ。気になるなら貴女自身が、代理王に問い合わせて見れば良いのでは?」

 騎士団長の言葉にサリサは異論を述べるのに戸惑う。

「何者かが転生少女を狙っている……」

 後方から声が聞こえて、サリサと剣士長が振り向くと、開いた扉の側にリーラの姿があった。

「女神官長様……」

 サリサと剣士長が頭を下げて礼をする。

「失礼ですが……何故、リーミア様が狙われている……等と発言なされるのでしょうか?」

 騎士団長がリーラに向かって言う。

「巨大な力を持つ者と言うのは、何かと周囲から恐れられるのよ。特に……それが、裏で隠れ潜んでいる者達に取ってはね……。この100年の間に、構築された国益や財政を担う者達は、突然現れた転生少女が王位に即位したら、自分達の立場が危うくなると恐れるものよ。だから……あらゆる無理難題を彼女に押し付けてくる……。今回の1件が、それだと認識しても間違いないでしょうね」

「で……ですが、その命令状を何故、城は神殿へとわざわざ送り届けるのでしょうか?」

「王宮が、彼女の動きを知って居たらかでしょうね。若しくは既に彼女の宿舎にも同じ伝聞を送っていると認識しても良いでしょう。まあ……その辺は、私達が知る由では無いけれど……」

 リーラの発言にサリサも騎士団長も納得した表情で頷いた。

「ところでサリサ、貴女にお願いがあるのだけど……宜しいでしょうか?」

「え……私に、ですか……?」

「ええ、今回のリーミア様の魔の森に、貴女に協力を頼みたいのだけど……」

「ええッ!わ……私が、ですか!」

 リーラの発言にサリサは驚いた表情で答えた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

目覚めたら異世界 、よし、冒険者になろう!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:47

彼女は1人ぼっちだから…

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:26,835pt お気に入り:554

今、婚約破棄宣言した2人に聞きたいことがある!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:639pt お気に入り:66

処理中です...