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マネニーゼ市場
過去
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ー 宿
宿に戻ったリーミアは、店の広間へと向かうと見慣れない女性と子供の姿に気付く。三十路を過ぎた体格の良い女性が、リーミアを見て嬉しそうに近付いて来た。
「初めましてリーミアさん」
「あ…初めまして…」
「私は、宿の女将をしてるルナと言うのよ、宜しくね」
「あ、はい…宜しく」
「そう言えば、主人の自己紹介は済んでいたかしら?」
「いえ…まだです」
「全く…あの人は…」
ルナは溜め息を吐きながら、呆れた様子で言う。
「主人は、ラミウと言うのよ。宜しくね」
「あ、はい…分かました」
そう…2人で話していると、ルナの側に居た小さな女の子が恐々とリーミアを見ていた。
「そう言えば…貴女、魔物狩りをして来たの?衣服に返り血が付いているわね…」
「ええ…冒険者ギルドに登録して、その日に野営地に行きました」
それを聞いたルナは驚いた。
「まあ…いきなり魔物の野営地に行って、無事に帰って来たの?」
「あ…はい」
「普通の人なら、命からがら逃げ帰って来るのに。大した人ね…まあ、とにかく宿の裏に水浴び出来る場所があるから、体を洗って来なさい。着替えを用意しておくから…」
「分かりました」
返事を一言伝えて、宿の裏へと向かう。
小さな宿であるが…水浴び場は広く銭湯の様に、お湯が出ていた。リーミアは衣服を脱ぎ、浴場へと短剣を持って入ると、短剣を側に置き銭湯へと浸かる。
暖かな湯が付かれた体を癒やしてくれる、そのまま眠ってしまいそうな感覚に浸たる。
その時だった…。
キイイィーンー…
頭の中で響くような耳鳴りが聞こえてリーミアは両手で頭を押さえる。
(まただ…この感覚)
リーミアは半年程前に起きた同じ感覚を思い出す…。
修道院で年若い尼僧達が皆集まっている中、祭祀に呼ばれ皆が居る前で初めて短剣を手にした…。
「その剣を鞘から抜く事が出来るかね?」
「やって見ます」
リーミアは、剣の柄を持ちゆっくりと剣を鞘から引き抜く。剣はスーッと音も無く鞘から抜かれて、銀色に輝く剣先が周囲の前に現れた。
それを見た祭祀や尼僧達は皆驚いた表情をしていた。
「おお…やはり、御主にはその剣が使えるのだな…」
修道院の誰にも抜く事が出来無かった短剣をリーミアが手にした瞬間、剣をまるで意のままに操れるかの様に、煌めきを放っていた。
尼僧が歓声を上げて手を叩く中、唯一不安な表情をしているのが祭祀だった。
「リーミアよ、そなたがその剣を手にした…と言う事は、つまり…御主のこれからの人生は、この修道院では無く外の世界で生きると言う事になるのだぞ」
「分かりました」
「もしかしたら…血で血を洗う人生を生きる運命になるが…その覚悟はあるか?」
その言葉にリーミアは少し迷いはあったが…
「はい、頑張ります」
と、一言返事をする。
~ その日晩…
寮のベッドの上で眠っているリーミアは、キイイィーン…と真夜中に突然耳鳴りがし始めた。それは頭の中に直接響き頭を押さえる。
耳鳴りが止んだ…と思った瞬間、辺りは不思議なモヤに包まれ…何処からか不思議な声が聞こえて来る。
(ようやく、契約が出来たな…)
「だ…誰なの?」
(私はテリオンの剣と呼ばている…)
「どうして剣が喋るの?」
(多くの契約者と、あらゆる生き物の血を吸い…私にも一種の感情が芽生えたのだ…御主は100年前に私と契約して、僅かな期間の間で消滅してしまった王国の姫の生まれ変わりなのだ…)
「自分には、解らない…そんな事」
(まあ…いずれ分かる時が来る、その時にまた会おう)
声が聞こえ無くなると、目の前の景色は見慣れた寮の中で、同じ寮の仲間達が不安そうにリーミアを見ていた。
「大丈夫…リーミア、うなされていたよ」
「アレ…私、どうしたのかな?」
気付くと、ハアハア…と息切れをしながら体は汗塗れになっていた。ベッドも汗で濡れてしまったので、その日は仲の良い友達のベッドで眠る事にした。
その後…耳鳴りは起きずに安心して過ごしていた。
再び…あの時の感覚が起きたと、リーミアは感じていた。耳鳴りの音が次第に強くなって来ると音が聞こえ無くなり、目を開くと視界は不思議なモヤに包まれていた。
(御主と話すのはしばらく振りだな…)
「何の用なの…」
(今日は、珍しく血を吸ったので…少し嬉しい気分なのだよ)
「そう…良かったわね」
(私はもっと多くの血が欲しい、御主にはもっと多くの戦場に出て欲しいな)
「そんな事言わなくてもこれから幾度となく戦場を歩く事になるから…」
(楽しみにしている)
会話が終えるとリーミアは、フウッ…と溜め気を吐きながら金色のヘアバンドの様な額飾りを外した、すると彼女の額には不思議な形をした紋様が現れた。
紋様は彼女の額に刻まれていて、リーミアはそれを掌で触りながら昔を思い出した。
~ 数年前…
「祭祀様!」
幼いリーミアは慌てながら廊下を走り祭祀の側へと向かう。
「どうしたのだリーミアよ、慌てた様子で?」
「これを見て下さい、私の額に変なアザが出来ましたどうしましょう…」
リーミアは悲しんだ表情で自分の前髪を上げて、額を祭祀に見せる。
それを見た祭祀は真剣な眼差しでリーミアの肩を掴み「こっちへ」と、彼女を自分の部屋へと連れて行く。
祭祀の部屋と入ると彼は古い書物を取り出して来て、机の上に広げてリーミアに見せる。
その書物には、リーミアの額に出来た紋様が絵で描かれていた。
「これは…何ですか?」
「転生者の印だよ」
「え…何で私が転生者なのですか?」
「そなたは、過去に…ある人物が消滅して、現代に蘇った者なのだ…」
「そうなの?」
「この文章には、こう書かれている…紋様が刻まれた者は、かつて存在していた者の力を引き継ぎ…更に自身の力をも合わせて持つ強大な力を得る…とな、御主が他の者よりも強者である理由も何となく理解出来るな…」
リーミアは少し戸惑いながら話を聞いていた。
「私は…そんなに強い力は欲しくはありません…」
「そう言うな…御主はいずれ、行くべき道を歩む事になるのだ。誰も辿り着く事の無い大きな場所にそなたは向かうのだよ」
- 現在
銭湯から出たリーミアは、用意された着替えの衣服を着込み広間へと向かう。広間にはラミウとルナ、そして彼等の子供達2人とがテーブルに食事を並べてリーミアが来るのを待っていた。彼等が席に着いている傍ら…その中に紛れ込んでティオロの姿があった。
「やあ…」
陽気な感じで手を振ったティオロを見てリーミアはムッとした表情で彼に近付く。早朝、逃げ出したティオロに対してリーミアは不機嫌そうな表情をする。
「何処へ行ってたのよ!」
「何…怒っているのだよ?」
「私の護衛をするって約束したでしょう!」
「こっちにも色々と予定があったんだよ…」
「勝手な行動は謹んでよね、全く…」
そう言いながらリーミアは椅子に座る。
「あらあら…2人とも随分仲が良いのね」
ルナの言葉にリーミアは目を丸くする。
「冗談じゃないわ…こんな奴と一緒にしないでよね」
「おい…人を奴呼ばわりするなよ」
「あら、何か変な事言ったかしら?」
素っ気ない態度をしたリーミア、それを見ていた子供達が笑いながら言う。
「ティオロ、お姉ちゃんに嫌われている~」
その言葉にティオロは反論出来なかった。
彼女の側に居れば、まず金に困る事は無いのは明白だった…。しかし、彼女の側に付く…と言う事は、つまり彼女の護衛を務めると言う事だった。
王位継承権を得る為のギルド参加、いわゆる魔物狩りに出ると言う事である。正直ティオロが一番就きたく無い仕事でもあった。身の毛よだつ魔物の群れに誰が好んで行くものか…と、彼は言いたかった。
レンティ占術師の言う事が本当なら、彼女の側に居れば自分は財で苦しむ様な生活とは無縁になれるが…ティオロは目線をリーミアの腰に向けた。
彼女が腰に携えている銀色の短剣、リーミアにとっていわゆる護身の様な存在、人の心理さえ見透かす短剣を用いれば、自分の嘘は直ぐにバレてしまう。
何よりも恐ろしいのは…その剣の形は鞘から出るまで不明で、鉄の剣さえも両断してしまう切れ味である。
その気になれば自分など蝋を切るかの様な感じで簡単に切られてしまう。
ティオロは、まだリーミアの全てを知った訳では無いが…自分を簡単に吹き飛ばす術を見る限り相当な能力の使い手だと考えられる。
宿に戻った直後ラミウが彼女が魔物狩りして来た…と言う話を聞いた、彼が思うにリーミアは狩り場で何匹かの魔物を退治した…と、考えられる。
(金を優先するか…命を優先するか迷うな…)
などと…考えているとリーミアの視線がティオロに向けられている事に気付く。
「何を考えているのよ?」
「ん…ちょっとね、人生の事に付いて色々とね…」
「あっそ…」
返事をしながらリーミアは顔を他へ向ける。
「何か言い返さないの?」
「聞かなくても大体分かるわ…どうせ金の事なんでしょ?」
「つれないね…僕にも悩みの1つや2つあるのに…」
「その悩み、1つ目は…お金をどうやって手にいれるかで、2つ目はその金を何に使うか…でしょ?」
その言葉に周囲は笑いの渦に包まれた。
「リーミアちゃん、こいつの性格良く分かっているね」
笑いながらラミウが言う。
「ちょっとラミウさん、幾ら僕でも少しは考えている事はありますよ。他の事で!」
ムキになってティオロは答えるが、周囲の反応に抵抗するのは難しかった。
- 翌日…
「おい、リーミア起きろ!」
ティオロの言葉でリーミアはベッドから体を起こして、眠たそうに目を擦る。
「何よ…大声出して、もう…」
「お前な、もう外は昼だぞ」
「え…本当?」
自分が半日近く眠ってしまった事にリーミアは驚いた。しかし…半日寝ても、体が重く、もう少し寝たい気分だった。
「とりあえず下で食事しなよ」
「うん…」
ボサボサの髪をしながら、ふらつく足取りでリーミアは部屋を出る。広間に行き、ラミウにスープとパンを用意して貰ったリーミアはウトウト…しながら食事をしていた。
不安そうな表情で見ていたラミウは、彼女ウトウト…と寝坊けている時、危くスープの中に顔を漬け込み掛けた処を、ラミウが彼女の顔を救った。
「危ないな…」
「あ…ごめん…」
少し目を覚ましたリーミアは、ラミウに向かって礼を言う。
「相当疲れてる見たいだな…」
「ちょっと昨日…はしゃぎ過ぎた見たい」
「魔物の野営地で?」
「ま…まぁ…」
リーミアは愛想笑いしながら答える。
「もう少し休むわ…」
何とか食事を済ませたリーミアは、激しい睡魔に敵わず部屋に戻ることにした。
結局その日リーミアがベッドから起き上がる事は無く1日が過ぎた。
- 翌日
早朝、前日の疲れも癒えてリーミアは元気になった。
彼女はティオロを自分の部屋に招くと、彼は地べたに座らされリーミアがはベッドの縁に腰を下ろして、両手を組んで彼を見下ろしていた。
「今日…貴方をギルド集会所に連れて行き、その後…武器防具屋に行きます。しっかり私と一緒に同行する事良いですね」
「はいはい…」
「返事は1回で結構」
(これじゃあ…どっちが年上か解らないな…)
ティオロは少し溜息を吐きながらある事を考えた。
「先に僕に金を用意してくれない?自分で装備を購入するからさ」
「それは出来ないわ!貴方は昨日そう言って逃げ出したので…」
今の時点で何を言っても彼女には言い訳にしか聞こえない…と感じたティオロは素直に彼女の言葉に従う事に決めた。
「じゃあ…出発の準備するために、食事して出掛けよう」
「そうね」
相手が素直に自分の意見を聞き入れてくれた事に対してリーミアは少し嬉しそうに振る舞う。
2人は出掛ける準備を整えた。
宿に戻ったリーミアは、店の広間へと向かうと見慣れない女性と子供の姿に気付く。三十路を過ぎた体格の良い女性が、リーミアを見て嬉しそうに近付いて来た。
「初めましてリーミアさん」
「あ…初めまして…」
「私は、宿の女将をしてるルナと言うのよ、宜しくね」
「あ、はい…宜しく」
「そう言えば、主人の自己紹介は済んでいたかしら?」
「いえ…まだです」
「全く…あの人は…」
ルナは溜め息を吐きながら、呆れた様子で言う。
「主人は、ラミウと言うのよ。宜しくね」
「あ、はい…分かました」
そう…2人で話していると、ルナの側に居た小さな女の子が恐々とリーミアを見ていた。
「そう言えば…貴女、魔物狩りをして来たの?衣服に返り血が付いているわね…」
「ええ…冒険者ギルドに登録して、その日に野営地に行きました」
それを聞いたルナは驚いた。
「まあ…いきなり魔物の野営地に行って、無事に帰って来たの?」
「あ…はい」
「普通の人なら、命からがら逃げ帰って来るのに。大した人ね…まあ、とにかく宿の裏に水浴び出来る場所があるから、体を洗って来なさい。着替えを用意しておくから…」
「分かりました」
返事を一言伝えて、宿の裏へと向かう。
小さな宿であるが…水浴び場は広く銭湯の様に、お湯が出ていた。リーミアは衣服を脱ぎ、浴場へと短剣を持って入ると、短剣を側に置き銭湯へと浸かる。
暖かな湯が付かれた体を癒やしてくれる、そのまま眠ってしまいそうな感覚に浸たる。
その時だった…。
キイイィーンー…
頭の中で響くような耳鳴りが聞こえてリーミアは両手で頭を押さえる。
(まただ…この感覚)
リーミアは半年程前に起きた同じ感覚を思い出す…。
修道院で年若い尼僧達が皆集まっている中、祭祀に呼ばれ皆が居る前で初めて短剣を手にした…。
「その剣を鞘から抜く事が出来るかね?」
「やって見ます」
リーミアは、剣の柄を持ちゆっくりと剣を鞘から引き抜く。剣はスーッと音も無く鞘から抜かれて、銀色に輝く剣先が周囲の前に現れた。
それを見た祭祀や尼僧達は皆驚いた表情をしていた。
「おお…やはり、御主にはその剣が使えるのだな…」
修道院の誰にも抜く事が出来無かった短剣をリーミアが手にした瞬間、剣をまるで意のままに操れるかの様に、煌めきを放っていた。
尼僧が歓声を上げて手を叩く中、唯一不安な表情をしているのが祭祀だった。
「リーミアよ、そなたがその剣を手にした…と言う事は、つまり…御主のこれからの人生は、この修道院では無く外の世界で生きると言う事になるのだぞ」
「分かりました」
「もしかしたら…血で血を洗う人生を生きる運命になるが…その覚悟はあるか?」
その言葉にリーミアは少し迷いはあったが…
「はい、頑張ります」
と、一言返事をする。
~ その日晩…
寮のベッドの上で眠っているリーミアは、キイイィーン…と真夜中に突然耳鳴りがし始めた。それは頭の中に直接響き頭を押さえる。
耳鳴りが止んだ…と思った瞬間、辺りは不思議なモヤに包まれ…何処からか不思議な声が聞こえて来る。
(ようやく、契約が出来たな…)
「だ…誰なの?」
(私はテリオンの剣と呼ばている…)
「どうして剣が喋るの?」
(多くの契約者と、あらゆる生き物の血を吸い…私にも一種の感情が芽生えたのだ…御主は100年前に私と契約して、僅かな期間の間で消滅してしまった王国の姫の生まれ変わりなのだ…)
「自分には、解らない…そんな事」
(まあ…いずれ分かる時が来る、その時にまた会おう)
声が聞こえ無くなると、目の前の景色は見慣れた寮の中で、同じ寮の仲間達が不安そうにリーミアを見ていた。
「大丈夫…リーミア、うなされていたよ」
「アレ…私、どうしたのかな?」
気付くと、ハアハア…と息切れをしながら体は汗塗れになっていた。ベッドも汗で濡れてしまったので、その日は仲の良い友達のベッドで眠る事にした。
その後…耳鳴りは起きずに安心して過ごしていた。
再び…あの時の感覚が起きたと、リーミアは感じていた。耳鳴りの音が次第に強くなって来ると音が聞こえ無くなり、目を開くと視界は不思議なモヤに包まれていた。
(御主と話すのはしばらく振りだな…)
「何の用なの…」
(今日は、珍しく血を吸ったので…少し嬉しい気分なのだよ)
「そう…良かったわね」
(私はもっと多くの血が欲しい、御主にはもっと多くの戦場に出て欲しいな)
「そんな事言わなくてもこれから幾度となく戦場を歩く事になるから…」
(楽しみにしている)
会話が終えるとリーミアは、フウッ…と溜め気を吐きながら金色のヘアバンドの様な額飾りを外した、すると彼女の額には不思議な形をした紋様が現れた。
紋様は彼女の額に刻まれていて、リーミアはそれを掌で触りながら昔を思い出した。
~ 数年前…
「祭祀様!」
幼いリーミアは慌てながら廊下を走り祭祀の側へと向かう。
「どうしたのだリーミアよ、慌てた様子で?」
「これを見て下さい、私の額に変なアザが出来ましたどうしましょう…」
リーミアは悲しんだ表情で自分の前髪を上げて、額を祭祀に見せる。
それを見た祭祀は真剣な眼差しでリーミアの肩を掴み「こっちへ」と、彼女を自分の部屋へと連れて行く。
祭祀の部屋と入ると彼は古い書物を取り出して来て、机の上に広げてリーミアに見せる。
その書物には、リーミアの額に出来た紋様が絵で描かれていた。
「これは…何ですか?」
「転生者の印だよ」
「え…何で私が転生者なのですか?」
「そなたは、過去に…ある人物が消滅して、現代に蘇った者なのだ…」
「そうなの?」
「この文章には、こう書かれている…紋様が刻まれた者は、かつて存在していた者の力を引き継ぎ…更に自身の力をも合わせて持つ強大な力を得る…とな、御主が他の者よりも強者である理由も何となく理解出来るな…」
リーミアは少し戸惑いながら話を聞いていた。
「私は…そんなに強い力は欲しくはありません…」
「そう言うな…御主はいずれ、行くべき道を歩む事になるのだ。誰も辿り着く事の無い大きな場所にそなたは向かうのだよ」
- 現在
銭湯から出たリーミアは、用意された着替えの衣服を着込み広間へと向かう。広間にはラミウとルナ、そして彼等の子供達2人とがテーブルに食事を並べてリーミアが来るのを待っていた。彼等が席に着いている傍ら…その中に紛れ込んでティオロの姿があった。
「やあ…」
陽気な感じで手を振ったティオロを見てリーミアはムッとした表情で彼に近付く。早朝、逃げ出したティオロに対してリーミアは不機嫌そうな表情をする。
「何処へ行ってたのよ!」
「何…怒っているのだよ?」
「私の護衛をするって約束したでしょう!」
「こっちにも色々と予定があったんだよ…」
「勝手な行動は謹んでよね、全く…」
そう言いながらリーミアは椅子に座る。
「あらあら…2人とも随分仲が良いのね」
ルナの言葉にリーミアは目を丸くする。
「冗談じゃないわ…こんな奴と一緒にしないでよね」
「おい…人を奴呼ばわりするなよ」
「あら、何か変な事言ったかしら?」
素っ気ない態度をしたリーミア、それを見ていた子供達が笑いながら言う。
「ティオロ、お姉ちゃんに嫌われている~」
その言葉にティオロは反論出来なかった。
彼女の側に居れば、まず金に困る事は無いのは明白だった…。しかし、彼女の側に付く…と言う事は、つまり彼女の護衛を務めると言う事だった。
王位継承権を得る為のギルド参加、いわゆる魔物狩りに出ると言う事である。正直ティオロが一番就きたく無い仕事でもあった。身の毛よだつ魔物の群れに誰が好んで行くものか…と、彼は言いたかった。
レンティ占術師の言う事が本当なら、彼女の側に居れば自分は財で苦しむ様な生活とは無縁になれるが…ティオロは目線をリーミアの腰に向けた。
彼女が腰に携えている銀色の短剣、リーミアにとっていわゆる護身の様な存在、人の心理さえ見透かす短剣を用いれば、自分の嘘は直ぐにバレてしまう。
何よりも恐ろしいのは…その剣の形は鞘から出るまで不明で、鉄の剣さえも両断してしまう切れ味である。
その気になれば自分など蝋を切るかの様な感じで簡単に切られてしまう。
ティオロは、まだリーミアの全てを知った訳では無いが…自分を簡単に吹き飛ばす術を見る限り相当な能力の使い手だと考えられる。
宿に戻った直後ラミウが彼女が魔物狩りして来た…と言う話を聞いた、彼が思うにリーミアは狩り場で何匹かの魔物を退治した…と、考えられる。
(金を優先するか…命を優先するか迷うな…)
などと…考えているとリーミアの視線がティオロに向けられている事に気付く。
「何を考えているのよ?」
「ん…ちょっとね、人生の事に付いて色々とね…」
「あっそ…」
返事をしながらリーミアは顔を他へ向ける。
「何か言い返さないの?」
「聞かなくても大体分かるわ…どうせ金の事なんでしょ?」
「つれないね…僕にも悩みの1つや2つあるのに…」
「その悩み、1つ目は…お金をどうやって手にいれるかで、2つ目はその金を何に使うか…でしょ?」
その言葉に周囲は笑いの渦に包まれた。
「リーミアちゃん、こいつの性格良く分かっているね」
笑いながらラミウが言う。
「ちょっとラミウさん、幾ら僕でも少しは考えている事はありますよ。他の事で!」
ムキになってティオロは答えるが、周囲の反応に抵抗するのは難しかった。
- 翌日…
「おい、リーミア起きろ!」
ティオロの言葉でリーミアはベッドから体を起こして、眠たそうに目を擦る。
「何よ…大声出して、もう…」
「お前な、もう外は昼だぞ」
「え…本当?」
自分が半日近く眠ってしまった事にリーミアは驚いた。しかし…半日寝ても、体が重く、もう少し寝たい気分だった。
「とりあえず下で食事しなよ」
「うん…」
ボサボサの髪をしながら、ふらつく足取りでリーミアは部屋を出る。広間に行き、ラミウにスープとパンを用意して貰ったリーミアはウトウト…しながら食事をしていた。
不安そうな表情で見ていたラミウは、彼女ウトウト…と寝坊けている時、危くスープの中に顔を漬け込み掛けた処を、ラミウが彼女の顔を救った。
「危ないな…」
「あ…ごめん…」
少し目を覚ましたリーミアは、ラミウに向かって礼を言う。
「相当疲れてる見たいだな…」
「ちょっと昨日…はしゃぎ過ぎた見たい」
「魔物の野営地で?」
「ま…まぁ…」
リーミアは愛想笑いしながら答える。
「もう少し休むわ…」
何とか食事を済ませたリーミアは、激しい睡魔に敵わず部屋に戻ることにした。
結局その日リーミアがベッドから起き上がる事は無く1日が過ぎた。
- 翌日
早朝、前日の疲れも癒えてリーミアは元気になった。
彼女はティオロを自分の部屋に招くと、彼は地べたに座らされリーミアがはベッドの縁に腰を下ろして、両手を組んで彼を見下ろしていた。
「今日…貴方をギルド集会所に連れて行き、その後…武器防具屋に行きます。しっかり私と一緒に同行する事良いですね」
「はいはい…」
「返事は1回で結構」
(これじゃあ…どっちが年上か解らないな…)
ティオロは少し溜息を吐きながらある事を考えた。
「先に僕に金を用意してくれない?自分で装備を購入するからさ」
「それは出来ないわ!貴方は昨日そう言って逃げ出したので…」
今の時点で何を言っても彼女には言い訳にしか聞こえない…と感じたティオロは素直に彼女の言葉に従う事に決めた。
「じゃあ…出発の準備するために、食事して出掛けよう」
「そうね」
相手が素直に自分の意見を聞き入れてくれた事に対してリーミアは少し嬉しそうに振る舞う。
2人は出掛ける準備を整えた。
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