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48.俺と王都と王子の評判

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 王都の街並みは、ついこの前までと特に変わりない。
 大勢の人々が行き交う大通り。
 走り回る子供達。
 いい香りが漂う料理店に、まだ明るいうちから酒を酌み交わす大人の姿。
 俺がエルファリア邸で従者をしていたころと全く同じ、いつもの王都が俺達を出迎えた。
 元々ここで生まれた人間じゃないし、俺一人が居なくなったぐらいで大きな変化があるわけでもない。それでも少しだけ、寂しさを覚えてしまう自分が居た。

「王都ってこんなに人がいっぱい居るんだね~! 人だらけだよ、人だらけ! 建物も凄いいっぱいあるよ!」
「わ、私……こんな場所で、暮らしていけるのかな……」

 初めての王都に瞳を輝かせるジュリと、新たな環境を前に不安を覗かせるセーラ。
 セーラに至っては、普段のキリッとした態度が崩れてしまっている。王都の様子はルルゥカ村とはかなり違うし、無理もないだろう。
 対照的な二人の反応を見ながら、俺達は馬車乗り場を後にする。

「ジュリも一緒に来てくれたんだし、きっと大丈夫だよ」
「わたしもなるべくセーラと一緒に居られるようにするから、心配しないでね」
「ああ、それは本当に助かるよ……! こんなにも人の多い場所というのは、生まれて初めてなものだから……」

 この中で唯一王都に詳しい俺を先頭に、後ろについて歩いて来る二人。
 特にセーラに至っては、西の森で初めて出会った時。人間と接する機会は、あれが最初だったのではないかと思う。
 彼女の生まれた里には同じ竜人しか居なかっただろうし、森でもかなり人間に対して警戒していた。
 ある程度村で人に慣れてきたとはいえ、これだけの人々が往来を行き来する場所に来るのは、多少なりとも恐怖を伴うだろう。
 セーラからしてみれば、ここで知っている人間は俺とジュリしか居ない。ましてやこれから王都で暮らさなければならないのだから、ジュリも王都に来るというのは名案だったな。
 出来ることなら、俺はなるべく王都を離れていたい。万が一にもあいつと鉢合わせることになったら……きっと、互いに良い心地はしないだろうから。
 だからジュリが来てくれると知った時は、本当に助かった。王都騎士団の護衛があるとはいえ、セーラを一人にするのは罪悪感があったからな。

 それから俺達は、途中ではぐれないように気を付けながら騎士団の宿舎を目指した。
 ここでセーラの保護を申請して、彼女の身元保証人としてジュリの同居を認めてもらう為だ。
 申請は意外にもあっさりと通った。どうやら王都騎士団は俺の想像以上に仕事熱心だったらしく、事前にセーラの移住について準備を進めてくれていたようだった。
 同時にジュリの同居も許可してもらい、宿舎にほど近い宿の一室を自由に使わせてくれるそうだ。
 どうやらその宿屋は、騎士団の関係者が経営しているらしい。身内が経営する宿なら安心だし、宿舎からも近いというのも心強い。
 これなら二人をここに置いても大丈夫だろう。
 それからすぐに例の宿屋へ向かい、騎士団の紹介状を宿の主人に見せた。
 宿の鍵を受け取り、荷物を持って宿の三階へと上がっていく。この宿は三階建てで、それなりに設備の整った場所だった。
 部屋の中も、二人で使う分には十分な広さだ。元々は一人用の部屋を借してもらう予定だったのだが、ジュリが一緒ということで二人部屋を用意してもらえた。

「すっごーい! こんなに良い部屋を借りちゃっても良いの⁉︎」
「騎士団の人が言うには、第二王子のユーリス様の計らいらしいな。確か今の王都騎士団は、ユーリス様の指揮で動いてるはずだから」
「自国の民にここまで心を尽くしてくれるとは……王族というのは、私が想像していた以上に素晴らしい人物であるようだな」
「特にユーリス様は、王都じゃ『微笑みの貴公子』なんて呼ばれるぐらい優しい人柄で有名だからなぁ。若い女の子以外にも、第二王子を慕ってる人は大勢居るよ」

 近くでハッキリと顔を見たことは無いが、ユーリス様の人柄と評判は頻繁に耳に入ってくる。
 アリストス聖王国の第二王位継承者、ユーリス・エル・テル・アリストス王子。
 俺と同い年の二十歳で、長男のレイヴン第一王子よりも人気のある、イケメン王子としてよく知られている人物だ。
 何年か前にレイヴン王子と、今は亡き妻のコリンナ妃との結婚パレードの時に遠くから見かけたが……長男も次男も、王族にふさわしいイケメン兄弟だったな。
 レイヴン王子は厳しそうな印象だったが、弟のユーリス王子は人当たりの良さそうな笑顔を浮かべていたのを覚えてる。
 ユーリス王子が政治に関わるようになってから、王都の治安が随分良くなった。
 けれどもその分、コリンナ妃を亡くしてからのレイヴン王子の評判はかなり悪い。祝い事でも滅多に姿を見せなくなり、それをカバーするようにユーリス王子が目覚ましい活躍を見せている現状だ。
 そのうえ、レイヴン王子夫妻の間には子供が居なかった。いつかユーリス王子が妻を迎えれば、その子供がユーリス王子の次の国王になるだろうとまで言われている始末なのだ。
 まあ、それだけ国民からの信頼の厚いユーリス様が率いる騎士団ならば、セーラ達を預けても間違い無いだろう。

「ほう……それほどまでに評判が良いのだな、その王子というのは」
「国民一人ひとりのことをよく考えている、良い人だと思うよ」
「それじゃあ今度、騎士団の人にお願いしてお礼の手紙を渡してもらわなくちゃだね!」

 そんな話をしていると、時刻はそろそろ昼食時に差し掛かる頃だった。

「一旦荷物はここに置いて、ランチでもしに行くか?」
「王都のごはん⁉︎ わー、すっごく気になる!」
「レオンは元々、王都で暮らしていたのだったな。きっと良い店も知っているのだろう?」
「ああ。こっそり通ってた馴染みの店があるんだ」

 あそこの店なら、庶民しか立ち寄らない。
 それに店長も口の固い人だから、俺が王都に来ていることもあいつにバレない……と、思いたい。
 俺達は早速宿屋を出て、よく通った裏道を通りながら例の店を目指すのだった。
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