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44.あたしと薬師と懐かしい香り
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お風呂から上がって間も無くして、夕食の時間になった。
薬師ということもあってか、メルセデスさんの作る料理には香草が使われたものが多い。
どこかで食べたことのあるような、懐かしさを覚える味。高級な食材を使ってないはずなのに、かなり満足感のある食事をご馳走してもらった。
それから食後のデザートに、森で採れたベリーを使ったソースをかけたミルクプリン。牛乳の優しい甘みに、ほのかな酸味のあるベリーソースの甘さがアクセントになっていて、ぺろりと平らげてしまったわ。
メルセデスさんは「こんな簡単に作れるもので申し訳無いけど……」なんて言っていたけれど、このあたしの舌に合うものを作れる腕を誇るべきよね。
そうして最後を締めくくるのは、食後のハーブティー。
これもまた、彼女がブレンドしたものらしい。
「よく眠れるように調整してあるから、これ飲んでしっかり身体を温めるんだよ?」
トポトポとカップに注がれるハーブティー。
湯気と共にふわりと香り立つ、華やかですっきりとした匂い。
あたしとルーシェの前に差し出されたカップをそれぞれ手に取り、火傷しないように気を付けながら口に付けた。
「この味……!」
鼻を抜けていく、爽やかな香り。
気のせいかと思っていたけれど、その味には覚えがあった。
「ねえ、メルセデスさん! このハーブティー、あなたがブレンドしたものに間違い無いのよね?」
「あ、ああ……そうだけど。もしかして、ティナちゃんのお口に合わなかったかな?」
「いえ、そうではなくて……! あの、あたし……これとよく似た味のハーブティーを飲んだことがあるの。確かあなたは商人を通じて薬を売っているそうだけれど、お茶も売っていたりするのかしら?」
あたしの問いに、メルセデスさんは首を横に振る。
「いいや、お茶は非売品だよ。たまにご近所さんにおすそ分けしたりはするけど、基本的には自分で飲む為だけに用意してるものだからね」
ハーブティーは非売品……?
それじゃあ、あたしは何でこの味と香りを知っているの?
どうしてこのお茶を……これと全く同じ味のハーブティーを、あたしが寝る前にレオンが用意出来たって言うのよ……!
ええ、そんなの決まってる。思い返してみれば、夕食のメニューにだってどこか似たものを感じていたわ。
あたしが学校を卒業してすぐの頃、レオンも北の里から帰って来た。その日の夕食の準備はレオンも手伝っていて、そこで出されたメニューに鶏の香草焼きがあったの。
それに使われていたハーブの香りと味付けが、さっき食べたメルセデスさんの料理と完全に一致していた。
「……まさかとは思うけれど、メルセデスさん。あなたもしかして、レオンという名前に覚えはない?」
恐るおそる訊ねてみると、メルセデスさんはへらりと笑う。
「ああ、レオンは私の一番弟子だよ! あいつはもう王都に帰った後だけど……それがどうかしたのかい?」
「お嬢様……!」
「ええ……分かってるわ、ルーシェ」
やっぱり、彼女がレオンの師……!
遥々北の山奥まで来たんですもの。このチャンス、決して無駄にしてなるものですか!
首を傾げて、不思議そうにあたしたちを見るメルセデスさん。あたしは早速、本題を切り出すことにした。
「あたしたち、レオンを探して旅をしているの。あたしは彼の主人……いえ、元主人のラスティーナ・フォン・エルファリア。侯爵家の娘よ」
「自分はその護衛として同行している、エルファリア家の警備騎士です。レオン殿がこちらに来ているかと思い、こうして彼の師である貴女を探していたのですが……」
「ここに案内してくれた男性……ウードさん、だったかしら? 彼とあなたの口振りからして、レオンはここに戻って来てはいないようだけれど……。何か少しでも良いから、彼の足取りを掴みたいの! ここ最近、彼から連絡があったりはしなかった?」
「ああ~、だからさっきルーシェちゃんがティナちゃんのことを『お嬢様』って言ってたのか! 納得、なっとく!」
と、ずずーっとお茶を啜るメルセデスさん。
こっちは真剣にレオンについて聞いているのに、その緊張感の無さは何なのかしら……!
すると、カップを置いたメルセデスさんが口を開く。
「レオンの居場所だろ? 知ってるよ。この前、あいつから手紙が届いたからね」
「ほ、本当なの⁉︎」
「ああ。嘘をついても、別に得しないからねぇ」
まさか、そんなに都合良く連絡が来ているとは予想外だった。
あたしは思わずテーブルに身を乗り出しそうになりがら、侯爵令嬢としてのプライドで、焦る気持ちを必死に抑え込む。
ルーシェも心なしか、少し落ち着かない様子だった。
「彼は……レオンは、今どこに居るの……⁉︎」
あたしの言葉に、メルセデスさんは平然と答える。
「あいつなら今、王都の南側……山を越えた先にある、ルルゥカっていう小さな村に引っ越したらしいよ?」
薬師ということもあってか、メルセデスさんの作る料理には香草が使われたものが多い。
どこかで食べたことのあるような、懐かしさを覚える味。高級な食材を使ってないはずなのに、かなり満足感のある食事をご馳走してもらった。
それから食後のデザートに、森で採れたベリーを使ったソースをかけたミルクプリン。牛乳の優しい甘みに、ほのかな酸味のあるベリーソースの甘さがアクセントになっていて、ぺろりと平らげてしまったわ。
メルセデスさんは「こんな簡単に作れるもので申し訳無いけど……」なんて言っていたけれど、このあたしの舌に合うものを作れる腕を誇るべきよね。
そうして最後を締めくくるのは、食後のハーブティー。
これもまた、彼女がブレンドしたものらしい。
「よく眠れるように調整してあるから、これ飲んでしっかり身体を温めるんだよ?」
トポトポとカップに注がれるハーブティー。
湯気と共にふわりと香り立つ、華やかですっきりとした匂い。
あたしとルーシェの前に差し出されたカップをそれぞれ手に取り、火傷しないように気を付けながら口に付けた。
「この味……!」
鼻を抜けていく、爽やかな香り。
気のせいかと思っていたけれど、その味には覚えがあった。
「ねえ、メルセデスさん! このハーブティー、あなたがブレンドしたものに間違い無いのよね?」
「あ、ああ……そうだけど。もしかして、ティナちゃんのお口に合わなかったかな?」
「いえ、そうではなくて……! あの、あたし……これとよく似た味のハーブティーを飲んだことがあるの。確かあなたは商人を通じて薬を売っているそうだけれど、お茶も売っていたりするのかしら?」
あたしの問いに、メルセデスさんは首を横に振る。
「いいや、お茶は非売品だよ。たまにご近所さんにおすそ分けしたりはするけど、基本的には自分で飲む為だけに用意してるものだからね」
ハーブティーは非売品……?
それじゃあ、あたしは何でこの味と香りを知っているの?
どうしてこのお茶を……これと全く同じ味のハーブティーを、あたしが寝る前にレオンが用意出来たって言うのよ……!
ええ、そんなの決まってる。思い返してみれば、夕食のメニューにだってどこか似たものを感じていたわ。
あたしが学校を卒業してすぐの頃、レオンも北の里から帰って来た。その日の夕食の準備はレオンも手伝っていて、そこで出されたメニューに鶏の香草焼きがあったの。
それに使われていたハーブの香りと味付けが、さっき食べたメルセデスさんの料理と完全に一致していた。
「……まさかとは思うけれど、メルセデスさん。あなたもしかして、レオンという名前に覚えはない?」
恐るおそる訊ねてみると、メルセデスさんはへらりと笑う。
「ああ、レオンは私の一番弟子だよ! あいつはもう王都に帰った後だけど……それがどうかしたのかい?」
「お嬢様……!」
「ええ……分かってるわ、ルーシェ」
やっぱり、彼女がレオンの師……!
遥々北の山奥まで来たんですもの。このチャンス、決して無駄にしてなるものですか!
首を傾げて、不思議そうにあたしたちを見るメルセデスさん。あたしは早速、本題を切り出すことにした。
「あたしたち、レオンを探して旅をしているの。あたしは彼の主人……いえ、元主人のラスティーナ・フォン・エルファリア。侯爵家の娘よ」
「自分はその護衛として同行している、エルファリア家の警備騎士です。レオン殿がこちらに来ているかと思い、こうして彼の師である貴女を探していたのですが……」
「ここに案内してくれた男性……ウードさん、だったかしら? 彼とあなたの口振りからして、レオンはここに戻って来てはいないようだけれど……。何か少しでも良いから、彼の足取りを掴みたいの! ここ最近、彼から連絡があったりはしなかった?」
「ああ~、だからさっきルーシェちゃんがティナちゃんのことを『お嬢様』って言ってたのか! 納得、なっとく!」
と、ずずーっとお茶を啜るメルセデスさん。
こっちは真剣にレオンについて聞いているのに、その緊張感の無さは何なのかしら……!
すると、カップを置いたメルセデスさんが口を開く。
「レオンの居場所だろ? 知ってるよ。この前、あいつから手紙が届いたからね」
「ほ、本当なの⁉︎」
「ああ。嘘をついても、別に得しないからねぇ」
まさか、そんなに都合良く連絡が来ているとは予想外だった。
あたしは思わずテーブルに身を乗り出しそうになりがら、侯爵令嬢としてのプライドで、焦る気持ちを必死に抑え込む。
ルーシェも心なしか、少し落ち着かない様子だった。
「彼は……レオンは、今どこに居るの……⁉︎」
あたしの言葉に、メルセデスさんは平然と答える。
「あいつなら今、王都の南側……山を越えた先にある、ルルゥカっていう小さな村に引っ越したらしいよ?」
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