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43.あたしと女騎士と薬師
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あたしたちを出迎えてくれたのは、里で一番の腕を持つという薬師の女性、メルセデスさんだった。
彼女はこの北の里で薬を作って、時折やって来る商人に薬を売って生計を立てているらしい。
里の周囲は、深い森と山に囲まれている。そこでは数々の薬草が自生しており、珍しい薬草も採れるのだとか。
メルセデスさんは、そんな環境で生活出来ること自体が楽しくて仕方がないという。だから彼女は生まれてからずっと、この里での日々を送っているそうだ。
彼女の自宅は庶民にしてはそれなりに大きくて、浴室まで完備されていた。
メルセデスさんはすぐにあたしたちを迎え入れると、元気な笑顔と共に色々と準備を始めてくれた。
「ティナちゃんだったかい? お風呂の準備が出来たから、早く入っておいで。その間に、二人の食事も用意しておくからさ!」
「ティナからお先にどうぞ。自分は最後で構いません」
「ええ、助かるわ。ありがとう……」
ちなみに、あたしとルーシェを案内してくれたウードさんは、あたしたちの事情をメルセデスさんに話すと自宅へ帰っていった。
話通りに旅人を受け入れてくれた彼女に感謝しつつ、まずはお風呂で身体を清めよう……と思ったところで、
「……ティナちゃん」
浴室に向かおうととしていたあたしを、メルセデスさんが呼び止めた。
振り返ると、彼女はずんずんとあたしに近付いて来る。
顔がくっつきそうなぐらい接近してきたメルセデスさんに、思わず表情が固まった。
「な、何かしら?」
「……君さ、なーんか抱え込んでるよな?」
「……っ! 何か抱え込んでいる、だなんて……そんなこと──」
「あるある、絶対あるね! 君がそこの美人さんと一緒にうちに来た時から、妙な感じはしてたんだよな~」
それは、もしかしなくても……あたしがレオンのことで悩んでいるのを、彼女に悟られてしまったのだろうか……?
するとメルセデスさんは、後ずさろうとするあたしの肩に手を置いた。
「……よしっ、ここはメルセデスお姉様が一肌脱いであげましょう!」
「は、はい?」
「察しが悪いな~! いきなり赤の他人に悩みを打ち明けるなんて無理だろ? まずは女同士、裸の付き合いから始めてみようと思ったのさ!」
「はい⁉︎」
メルセデスさんはそう言うと、あたしの身体をくるりと回転させて背中を押してきた。
向かう先は浴室の方向。彼女は本気で、あたしとお風呂に入ろうとしている……!
すると──
「お待ち下さい、メルセデス殿!」
背後から鋭い声で制止してきた、青髪のルーシェ。
彼女は今にもメルセデスさんに剣を向けそうな、真剣な表情だった。
メルセデスさんはいきなりあたしを浴室に連れ込もうとしているのだから、無理もない。主人の身の安全を守る為にも、どこの馬の骨とも知れない女性に警戒するのは、騎士として当然のことだもの。
ルーシェはメルセデスさんに詰め寄り、堂々とこう言い放った。
「お嬢様と二人きりで入浴など、断じて認められません!」
「ルーシェ……!」
「自分も混ぜてもらわなければ困ります‼︎」
「ルーシェ……」
……どうやら彼女は、自分だけ仲間外れにされるのが嫌だったらしい。
*
結局、あたしたちは三人でお風呂に入ることになった。
メルセデスさんの家の浴槽は、石で囲われた広めのものだ。
そこにはたっぷりのお湯が張られていた。そっと足先から触れれば、ほどよい温度を感じられる。
三人で入っても窮屈さが無く、久々にお屋敷以外のお風呂で思う存分寛げそうだ。
「湯加減は丁度良かったみたいだね。二人もこれぐらいで大丈夫かい?」
「ええ、気持ち良いわ」
「同意です」
「それなら良かった!」
メルセデスさんは長いオレンジ色の髪を頭の上の方で纏めていて、あたしの白い髪も同じようにしてもらった。
ルーシェは束ねなくても良い長さだから、そのまますぐに湯船に浸かっている。
お湯の色は、ほんのりと緑色に染まっている。ふわりとハーブの香りがしているから、メルセデスさんが用意してくれたのだろう。
ゆっくりと息を吸い込む。すると、心地良い香りと温かな熱で、身も心もほぐされていくようだった。
「うーん! 久々に誰かと一緒に入るお風呂って、こんなに楽しいものだったかね? やっぱりお風呂を広めに作っておいて良かったわ~!」
そう言いながら、両腕をグッと伸ばすメルセデスさん。
……嫌でも彼女の裸が視界に入るので、そのプロポーションの良さに注目せざるを得なくなる。
あたしも負けてはいないと思うけれど、生まれつき小柄なものだから、とても大人らしいレディとは言えない。
スラリと長い脚。キュッとした細い腰。そして、視線をスッと上に上げていくと……。
「……べ、別に負けたわけじゃないものね! ええ、まだまだ成長の見込みはあるんだから! そうよ、絶対にそうなのよ!」
「え、ティナちゃん急にどうしたの? ルーシェちゃん、なんでか分かる?」
「……自分も、お嬢様の気持ちは理解出来ます。理解出来る分……それを察してしまった今、自分まで虚しくなってきましたね」
「ルーシェちゃんまで⁉︎ えー、二人して何に怒ってるのさ~!」
そういえば、ルーシェもそんなに恵まれた方ではなかったわね。
ルーシェは年齢的に望み薄だけれど……あなたの無念、あたしがいつか晴らしてみせるわ!
だってあたしは、お父様を一瞬で虜にしたというお母様の血を受け継いでいるんですもの。あと一年か二年もすれば、メルセデスさんの豊かな……にも劣らない、立派なレディになるはずなんですからね!
ええ、具体的にどの部分なのかは明言はしませんけれど! 絶対に‼︎
彼女はこの北の里で薬を作って、時折やって来る商人に薬を売って生計を立てているらしい。
里の周囲は、深い森と山に囲まれている。そこでは数々の薬草が自生しており、珍しい薬草も採れるのだとか。
メルセデスさんは、そんな環境で生活出来ること自体が楽しくて仕方がないという。だから彼女は生まれてからずっと、この里での日々を送っているそうだ。
彼女の自宅は庶民にしてはそれなりに大きくて、浴室まで完備されていた。
メルセデスさんはすぐにあたしたちを迎え入れると、元気な笑顔と共に色々と準備を始めてくれた。
「ティナちゃんだったかい? お風呂の準備が出来たから、早く入っておいで。その間に、二人の食事も用意しておくからさ!」
「ティナからお先にどうぞ。自分は最後で構いません」
「ええ、助かるわ。ありがとう……」
ちなみに、あたしとルーシェを案内してくれたウードさんは、あたしたちの事情をメルセデスさんに話すと自宅へ帰っていった。
話通りに旅人を受け入れてくれた彼女に感謝しつつ、まずはお風呂で身体を清めよう……と思ったところで、
「……ティナちゃん」
浴室に向かおうととしていたあたしを、メルセデスさんが呼び止めた。
振り返ると、彼女はずんずんとあたしに近付いて来る。
顔がくっつきそうなぐらい接近してきたメルセデスさんに、思わず表情が固まった。
「な、何かしら?」
「……君さ、なーんか抱え込んでるよな?」
「……っ! 何か抱え込んでいる、だなんて……そんなこと──」
「あるある、絶対あるね! 君がそこの美人さんと一緒にうちに来た時から、妙な感じはしてたんだよな~」
それは、もしかしなくても……あたしがレオンのことで悩んでいるのを、彼女に悟られてしまったのだろうか……?
するとメルセデスさんは、後ずさろうとするあたしの肩に手を置いた。
「……よしっ、ここはメルセデスお姉様が一肌脱いであげましょう!」
「は、はい?」
「察しが悪いな~! いきなり赤の他人に悩みを打ち明けるなんて無理だろ? まずは女同士、裸の付き合いから始めてみようと思ったのさ!」
「はい⁉︎」
メルセデスさんはそう言うと、あたしの身体をくるりと回転させて背中を押してきた。
向かう先は浴室の方向。彼女は本気で、あたしとお風呂に入ろうとしている……!
すると──
「お待ち下さい、メルセデス殿!」
背後から鋭い声で制止してきた、青髪のルーシェ。
彼女は今にもメルセデスさんに剣を向けそうな、真剣な表情だった。
メルセデスさんはいきなりあたしを浴室に連れ込もうとしているのだから、無理もない。主人の身の安全を守る為にも、どこの馬の骨とも知れない女性に警戒するのは、騎士として当然のことだもの。
ルーシェはメルセデスさんに詰め寄り、堂々とこう言い放った。
「お嬢様と二人きりで入浴など、断じて認められません!」
「ルーシェ……!」
「自分も混ぜてもらわなければ困ります‼︎」
「ルーシェ……」
……どうやら彼女は、自分だけ仲間外れにされるのが嫌だったらしい。
*
結局、あたしたちは三人でお風呂に入ることになった。
メルセデスさんの家の浴槽は、石で囲われた広めのものだ。
そこにはたっぷりのお湯が張られていた。そっと足先から触れれば、ほどよい温度を感じられる。
三人で入っても窮屈さが無く、久々にお屋敷以外のお風呂で思う存分寛げそうだ。
「湯加減は丁度良かったみたいだね。二人もこれぐらいで大丈夫かい?」
「ええ、気持ち良いわ」
「同意です」
「それなら良かった!」
メルセデスさんは長いオレンジ色の髪を頭の上の方で纏めていて、あたしの白い髪も同じようにしてもらった。
ルーシェは束ねなくても良い長さだから、そのまますぐに湯船に浸かっている。
お湯の色は、ほんのりと緑色に染まっている。ふわりとハーブの香りがしているから、メルセデスさんが用意してくれたのだろう。
ゆっくりと息を吸い込む。すると、心地良い香りと温かな熱で、身も心もほぐされていくようだった。
「うーん! 久々に誰かと一緒に入るお風呂って、こんなに楽しいものだったかね? やっぱりお風呂を広めに作っておいて良かったわ~!」
そう言いながら、両腕をグッと伸ばすメルセデスさん。
……嫌でも彼女の裸が視界に入るので、そのプロポーションの良さに注目せざるを得なくなる。
あたしも負けてはいないと思うけれど、生まれつき小柄なものだから、とても大人らしいレディとは言えない。
スラリと長い脚。キュッとした細い腰。そして、視線をスッと上に上げていくと……。
「……べ、別に負けたわけじゃないものね! ええ、まだまだ成長の見込みはあるんだから! そうよ、絶対にそうなのよ!」
「え、ティナちゃん急にどうしたの? ルーシェちゃん、なんでか分かる?」
「……自分も、お嬢様の気持ちは理解出来ます。理解出来る分……それを察してしまった今、自分まで虚しくなってきましたね」
「ルーシェちゃんまで⁉︎ えー、二人して何に怒ってるのさ~!」
そういえば、ルーシェもそんなに恵まれた方ではなかったわね。
ルーシェは年齢的に望み薄だけれど……あなたの無念、あたしがいつか晴らしてみせるわ!
だってあたしは、お父様を一瞬で虜にしたというお母様の血を受け継いでいるんですもの。あと一年か二年もすれば、メルセデスさんの豊かな……にも劣らない、立派なレディになるはずなんですからね!
ええ、具体的にどの部分なのかは明言はしませんけれど! 絶対に‼︎
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