上 下
24 / 55

24.あたしと女騎士と捜索ルート

しおりを挟む
 あれからずっと、あたしとルーシェはレオンを探して走り回っている。

 エルファリアのお屋敷を飛び出して、北へ向かったあたし達。
 ひたすらに馬を走らせてレオンの居場所を探しているのだけれど、数日経っても特に手がかりを得られないまま。
 途中で立ち寄った町で聞き込みをしてみたのだけれど、それらしき目撃情報すらも見つからない。
 今日はもう夜も遅いから、適当に宿をとって、明日からまたレオン探しを再開しようと思う。

「全く……! どうしてレオンは、こうも手のかかる幼馴染なのかしらね!」

 町で一番良い宿を探してくれたルーシェが、その部屋の鍵を開けて中を確認した。

「……特に危険は無いかと思われます。どうぞお入り下さい、お嬢様」
「だから、その『お嬢様』って呼ぶのはやめなさいって言ったでしょ? あたし達は『ただの旅人』なの。この前も説明したじゃない!」
「申し訳ございません……。どうにも慣れないものですから」

 そう。あたしとルーシェは、ただの旅人。
 何せあたしは、第二王子との縁談を放り出して家を飛び出した身ですもの。ここで下手に目立ってしまったら、お父様に連れ戻されてしまうかもしれない。
 もしそうなってしまったら、あたしはレオンを探さなくなってしまう。それに……。

「……ダメよ、あたし! 最悪の場合を想定するならまだしも、それで落ち込んでたら最高の結果なんて叩き出せるはずがないわ!」

 危ない危ない。
 ネガティブになっても、プラスになることなんて何も無い。むしろパフォーマンスが低下して、本来ならやれたはずのことを失敗してしまう危険性が高まってしまうもの!
 あたしは絶対諦めない。
 何が何でもレオンを見つけ出して、あたしの本当の気持ちを知ってもらわないといけないんだもの。
 このまま何も言えず終いで、一生の別れになんてさせてたまるものですか!
 あたしは改めて気持ちを引き締めて、急に大声を出したあたしを不思議そうに見下ろすルーシェの顔を見上げた。

「ルーシェ! とにかく明日からは、捜索範囲を絞っていくわよ!」
「と仰いますと……具体的には、どのようになさるおつもりで?」

 今日までは闇雲に聞き込みをしたり、人が多く集まりそうな市場やお店を回って、しらみ潰しにレオンを探していた。
 でも、こんな方法で簡単に見付かるはずがないのよ。
 それは分かっていたのだけれど、あたしはどうにも焦りすぎていた。
 あたしは部屋の中央に置かれたソファに腰を下ろし、ルーシェが部屋の内側から施錠したのを見ながら、再度口を開く。

「そもそもね、あたし達は探し方を間違っていたのよ。こんな町中にレオンが居るはずないわ。だってあたし、聞いたのよ。レオンはゴードンから『空気の良い場所で療養すべきだ』と勧められていたってね!」
「ゴードン医師の勧め……ですか。ならばお嬢様……ではなく、ティナの仰る通り、王都に近いこの町よりも離れた土地を探すべきですね」

 それを聞いて、ルーシェが腰の剣を壁に掛けながら返事をする。
 ちなみにこの『ティナ』という呼び方は、このあたし、ラスティーナの愛称である。
 まだあたしもレオンも子供だった頃、彼もあたしのことをティナと呼んでくれていたのよね。
 年齢を重ねていくにつれて、もうその愛称を口にしてくれることは無くなってしまったけれど……。
 それに『ティナ』なんて名前はそれなりにありふれているだろうから、身分を隠して活動するにはピッタリだと思う。
 なのでルーシェには、特別にその名前で呼ぶように言い付けている。まあ、それでもたまにお嬢様呼びが抜けないことが多々あるので、厳しく教育していく必要がありそうね。
 着ている服はお互いに旅人風の服装なので、普段の振る舞いに注意しておけば大丈夫……だと思いたい。

「そこであたしは閃いてしまったの! 空気が良くて、あたしの居る王都から離れていて、レオンが行きそうな場所をね!」

 あたしはフフンと口元を緩めながら、こう告げた。

「つまり……この町から更に北。あたしが国立学校に通っていた間にレオンが修行をしていた、北の里に向かったに決まっているのよ‼︎ ああっ、自分の推理力の高さが恐ろしい……!」
「北の里……。確かそこは、レオン殿の魔法のお師匠様がいらっしゃるという隠れ里のことでしたか」
「ええ! レオンの話が事実なら、あの里は貴重な薬草が生育する自然豊かな森の中にあるそうよ。そんな環境なら、療養するにはもってこいの場所だと思わない?」
「はい、流石はお嬢……ティナですね。お師匠様がいらっしゃる里でしたら、弟子であるレオン殿が事情を話せば、すぐに住まわせて下さることでしょう」
「そうでしょう、そうでしょう⁉︎」

 うんうん、やっぱりルーシェもそう思うわよねっ!

「そうと決まれば、夜明けと共に北の里を目指してかっ飛ばしていきましょ!」
「はい。その為にも、今夜はたっぷりと休息を取っておきましょう」

 あまりにも完璧すぎるレオン追跡計画に、我ながら酔いしれてしまいそう……!
 あたし達はすぐに寝る準備を済ませ、明日からの長距離移動に向けて英気を養うことで意見が一致した。


 けれどもこの決断が、更にあたしとレオンの物理的距離を伸ばしてしまうことになるだなんて……。
 この時のあたしは、それを全く想像もせず、ウキウキ気分でベッドに潜り込んでいくのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

処理中です...