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第3章 封印の少女

3.パーティー申請

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 穏やかな朝が訪れ、ザイン達は軽めの朝食──ポポイアを適当にカットしただけのもの──を済ませて王都を目指した。
 昼の鐘が鳴るまでもう少し、といった時間帯に王都の門を潜り、そのまま大通りを歩いていく。
 相変わらずジルが人々の視線を集めているが、これからこのメンバーでパーティー活動をする上で、そう悪くない状況だと言えるのだ。

 探索者は自主的にダンジョンに向かい、そこで得たアイテムを換金する場合と、ギルドを通して討伐や護衛の依頼を受けるケースが一般的だ。
 だが例外として、依頼主から個人やパーティーを指名して仕事を貰う事もある。
 ザイン一行が『巨大な狼を連れた優秀なパーティー』として認知されていけば、ジルの存在が彼らの大きなアピールポイントの一つになり得るのだ。
 他の探索者達よりも知名度を上げられる要素があるのなら、それを利用しない手は無いだろう。

 しばらく大通りを進んでいけば、すっかり見慣れた探索者支援ギルドの建物が見えてきた。
 いつものようにジルを外で待機させ、今日は三人で会館へと足を踏み入れる。

「すみません。パーティー申請の手続きをお願いしたいんですが……」

 受付に居たのは、金髪ショートヘアの女性だった。
 彼女はザインの顔を見るなり、あー! と声を上げて言う。

「もしかして先日、最速二人目の試験突破をされたザイン様ですか!? お会い出来て光栄です!」
「え……?」
「私、ここの受付嬢をしているジェシカって言います! 先輩やカレン本部長からもお話は聞いていましたが、ザイン様が今王都で一番勢いのある新人さんだって有名なんですよ?」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんです!」

 これまたテンションの高い人だな、と苦笑するザイン。
 けれどもジェシカは、ニッコニコの明るい笑顔で力強く頷いている。

「先輩っていうと……よく俺の手続きとかをしてくれた、男の職員さんかな?」
「多分その方で合ってると思いますよ!」
「師匠っ、凄いですね! 王都で一番勢いがある人の弟子になれて、ぼくったら本当に幸運ですよ~!」
「こらフィル、あんまり公共の場で大声を出さないの」
「あう……ごめんなさい、姉さん」

 エルの言う通り、フィルもジェシカも騒がしくしているせいで、周囲の視線が痛かった。
 それも話の内容がザインを褒め称えるものばかりだったのもあって、余計に居心地が悪い。
 褒めてくれる二人には何の悪意も無いので、ザインはどうしたものかと頭を悩ませる。
 しかし、そこへ助け舟を出す者が居た。
 例の先輩──何度も顔を合わせてきた、ギルドの男性職員である。

「ジェシカさん、業務に関係の無い雑談は程々にして下さいよ」
「ひわぁっ⁉︎ す、すみません! ええと、パーティー申請でしたよね⁉︎」

 他の業務で受付の方に顔を出しただけのようだったが、彼が通り過ぎざまにジェシカに注意してくれたお陰で、話を本題に戻す事が出来た。
 ザインは心の中で彼に感謝を述べてから、ジェシカが取り出した書類へと視線を落とす。

「えーと、こちらがパーティー申請書です。パーティーの代表者となる方は、こちらの欄にお名前をご記入下さい。その下に、他の皆さんのお名前をお願いします。あとは……」
「パーティー名、ですよね?」
「はい。そちらを合わせて申請して頂けますと、今後からパーティー指名の依頼をご紹介出来るようになりますよ!」

 パーティー名。
 それは探索者達のセンスが問われる、パーティーの看板だ。
 このパーティー制度は比較的新しいもので、複数の探索者を雇いたい依頼主からの仕事を、ギルドに申請されたパーティーへ優先的に回してもらえるシステムである。
 それ以外にもお得な特典もあるのだが……今は何より、どのような名前で申請するかが重要だ。

「代表者は師匠で良いとして……」
「……名前、どうしましょうか?」

 両隣からひょっこり顔を覗かせているエルとフィルが、ザインに問う。
 まず最初に口を開いたのは、姉であるエルだった。

「ベテラン探索者さんの有名なギルドですと、『黒き翼』や『死色の華』とか……短くてかっこいい名前が多いですよね」
「ぼくが知ってる個性的なとこだと、『死なない程度に頑張ろう』とか『三度の飯より金が好き』みたいな、何でそんな名前にしちゃったんだろう系のパーティーもありますよね!」
「うん、本当に何でそんな名前にしちゃったんだろうな……」

 そんな名前で依頼が来るのかは疑問だが、後から再申請すれば改名も可能なので、特に問題は無かったという事なのだろう。多分。
 ザインは備え付けの羽ペンを手に、うぅん……と唸って考える。

(俺達らしい名前で、そこそこカッコ良くて……覚えやすいのが良いよな。流石にフィルが言ってたような系統のじゃ、母さんやエイルに恥ずかしくて報告出来ないし……)

 ひとまずは全員の名前を書き込んではみたものの、そう簡単に思い付くようなものでもない。
 何か良いアイディアは無いものかとあちこちへ視線を移していた、その時だった。
 会館の窓の外に見えた、灰色の塊。
 ツンと立った二つの先端に、動きに合わせてふわりと揺れる白い布。

「そうだよ……何で俺はこんな大事な事を見落としてたんだ……!」
「ざ、ザインさん……?」

 視界に飛び込んだ最高のアイディアが、ザインのペンを走らせる。
 彼ららしく、それでいて覚えやすい印象的な名前。
 申請書に必要事項を記し終えたザインは、自信に満ちた表情でペンを置いた。

「今日から俺達は──『鋼の狼』を名乗っていこう! これで決定!!」
「『鋼の狼』……ぼく、カッコ良いと思います!」
「ジルくんの種族が鋼狼だから、それをモチーフにされたのですね。ええ、わたしも素敵だと思います! ジルくん、かっこ良くて可愛いですから」

 窓の外から、何かを悟ったジルが嬉しそうに一声吠えたのが聴こえる。
 多少かっこ付けすぎな気がしないでもないが、これからどんどん名を挙げていけば、パーティーが名前負けしてしまう事もないはずだ。
 ジェシカはザインから書類を受け取り、記入漏れが無いか目を通す。

「……はい、これで問題無いかと! 『鋼の狼』のご活躍、期待してますね!」

 その後、ギルドに申請した証である代表者証を渡され、ザインが預かった。
 ダンジョンで獲得した余分なアイテムも売却し、ある程度の収入も得られた。

 そうしていよいよ、その瞬間が訪れようとしていた。

「──アイテム鑑定、お願いします!」

 ギルド会館の一室に設けられた、鑑定室。
 ザイン達がその扉を開けると、そこには一人の女性が待ち構えていた。
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