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第4章 芳しい花には裏がある
4.甘い花園
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林の中で落ちた枯れ枝を拾いながら、私とウィリアムさんは歩いていた。
「もうこの辺はあんま落ちてねぇな」
「もう少しだけ、奥へ行ってみましょうか」
「だな。魔物には気を付けてこうぜ」
「ええ」
枝を抱えて、私達は更に林を進んでいく。
小鳥の鳴き声が聞こえるこの場所は、自然が豊かで心地が良い。
しばらく歩いていると、また何本か枝を拾う事が出来た。
「これぐらいで足りるかしら……」
「そろそろ良いんじゃねぇか? 結構暗くなってきたし、ケント達のとこに戻ろうぜ」
私より沢山の薪を抱えたウィリアムさんに頷き、二人で元来た道を行こうとすると、ぶわりと吹いた風が甘い香りを運んできた。
果物のような甘酸っぱい香りは、更にこの先から漂ってきているようだ。
「この香り、何なんでしょう?」
「向こうに木の実でもあるのかもな。デザートがわりに探しに行くか」
「良いのですか?」
「アンタ甘いモンが好きだろ? 惚れた美少女に好きなモンを食わせてやりたいって思うのは、男として当たり前の事だろ」
そう言って微笑むウィリアムさんに、私は頬が熱くなる。
「惚れてるって……ほ、本当にウィリアムさんは、私の事を……?」
声が裏返りそうになりながら、私は隣の彼を見上げる形で問い掛けた。
「本気で惚れた相手じゃなきゃ、この俺様は口説かねぇ。アンタの全ての美しさに、俺は骨抜きになっちまったのさ」
そう言ったウィリアムさんは、本当に愛しいものを見る目をしていた。
ああ……一人の男性に一途(な愛を向けられるというのは、こういう感覚なのかしら。
彼に見つめられる程、胸がきゅうっと締め付けられるようだった。
「どうして……どうして貴方は、そんなに私の事を想って下さるのですか?」
「どうして、か……」
ウィリアムさんは、空を仰ぐ。
「……理由になってるか分からねぇけど、アンタが俺の運命の人なんじゃねぇかと直感したんだ。初めて模擬戦で話した時、もう俺にはこの人しか愛せねぇなって……そう思った」
私に視線を戻した彼は、何故か少しだけ寂しそうな顔をしていた。
笑っているはずなのに、その金色の瞳に悲しみが宿っているようだった。
「俺のこの気持ちに嘘はねぇ。レティシア……今すぐ返事をくれとは言わねぇよ。だけど、いつかアンタも俺に恋してくれたら……俺はいつでも覚悟は出来てる」
「……分かり、ました」
「……他の誰にも、アンタを譲りたくないからな」
これって、改めて告白されてるんですわよね……。
ああっ、何だか心臓がやけにうるさいですわ!
み、ミーチャに報告すべきなのかしら。ウィリアムに真剣に告白されたって……。
「んじゃ、行ってみっか」
薪を片手で全て抱えたウィリアムさんが、私の腰に手を回した。
「足元、気を付けろよ」
「は、はい」
二人で密着しながら、甘い匂いのする方へ行く。
何だかウィリアムさんの体温を感じていると、心がざわついて仕方が無い。
セグだってこんなに近くに寄り添ってくれた事なんて、一度あったかどうかだった。
彼の顔がすぐ近くにあるのが恥ずかしくて、私は俯きがちに歩いてしまう。
「……これが甘い匂いの正体か」
その言葉にそっと顔を上げると、開けた空間に小さな花がいくつも咲き乱れていた。
本当に花の匂いなのかと疑いたくなるフルーティーな香りが、私の肺を満たしていく。
「この花の香りだったんですのね」
「うーん……こりゃあちっとマズいかもな」
「まずい……?」
「ちょっとここで待っててくれ。確認してくる」
ウィリアムさんは足元に薪を置くと、深刻そうな面持ちで花畑の方へと歩き出す。
屈んで花を観察する彼。
「その花がどうなさったのですか?」
「……誘い花って知ってるか? 果物みてぇな甘い匂いで、丸っこい実をつけるピンク色の背の低い花。それがこれだ」
「いえ、知りませんけれど……」
「これの実は美味い事で有名なんだが、食い過ぎると問題がある」
彼は立ち上がり、私の方へ戻って来た。
「誘い花っていうくらいだから、やべぇモンに誘われちまうんだ。あそこに生えてる花は半分以上が実をつけていたみてぇなんだが、動物に食われたか誰かが摘んでいったか……一個も残ってなさそうだった」
「誘われるって、一体何に誘われてしまうんですの?」
「人喰い植物マルクルポット。誘い花の種を蒔いて動き回る、植物系の魔物だ。実を食い過ぎると意識を乗っ取られて、勝手にマルクルポットの所に行っちまう。これがこんな所に生えてるってこたぁ……」
「ゴブリン以外にも危険が潜んでいる、という事ですわね」
そんな魔物が居るだなんて……私もまだまだ勉強不足ですわね。
お姉様だったら植物には詳しいから、何か対策をご存知かもしれない。けれど、今はそれを聞きに行く時間も無い。
「とりあえず、これを野放しにしとくのはマズいな。……レティシア、ここいら一帯焼けるか?」
「ええ、やってみますわ」
私は炎魔法を詠唱し、誘い花を焼き尽くす。
もう他に花が残っていないのを確かめてから、二人でケントさん達の待つ草原へ戻る事にした。
────────────
「遅かったね、二人共。何かあったのかい?」
すぐに私達は誘い花の事を報告した。
それを聞いたケントさんとウォルグさんは顔を見合わせ、私達に向き直る。
「ゴブリンの巣を探しつつ、俺の能力でそいつの居場所も割り出してみるか。依頼内容には含まれていないが、放置して死人が出るのは問題だ」
「マルクルポット討伐とまではいかなくとも、近くの自警団に対応をお願いする事も出来るだろうからね。居場所がある程度分かっていた方が村の人達も安心するだろう」
二人の判断に従い、明日はそのように動く事に決まった。
その後はすぐにウォルグさんが食事の準備を再開し、男子達が交代で見張りを開始した。
私は周囲に防御結界を展開して、何か異常があればすぐに気付くように揺れやすい結界を作る。
長持ちするよう作ったから、眠っている間も問題無く効果を発揮するだろう。
「もうこの辺はあんま落ちてねぇな」
「もう少しだけ、奥へ行ってみましょうか」
「だな。魔物には気を付けてこうぜ」
「ええ」
枝を抱えて、私達は更に林を進んでいく。
小鳥の鳴き声が聞こえるこの場所は、自然が豊かで心地が良い。
しばらく歩いていると、また何本か枝を拾う事が出来た。
「これぐらいで足りるかしら……」
「そろそろ良いんじゃねぇか? 結構暗くなってきたし、ケント達のとこに戻ろうぜ」
私より沢山の薪を抱えたウィリアムさんに頷き、二人で元来た道を行こうとすると、ぶわりと吹いた風が甘い香りを運んできた。
果物のような甘酸っぱい香りは、更にこの先から漂ってきているようだ。
「この香り、何なんでしょう?」
「向こうに木の実でもあるのかもな。デザートがわりに探しに行くか」
「良いのですか?」
「アンタ甘いモンが好きだろ? 惚れた美少女に好きなモンを食わせてやりたいって思うのは、男として当たり前の事だろ」
そう言って微笑むウィリアムさんに、私は頬が熱くなる。
「惚れてるって……ほ、本当にウィリアムさんは、私の事を……?」
声が裏返りそうになりながら、私は隣の彼を見上げる形で問い掛けた。
「本気で惚れた相手じゃなきゃ、この俺様は口説かねぇ。アンタの全ての美しさに、俺は骨抜きになっちまったのさ」
そう言ったウィリアムさんは、本当に愛しいものを見る目をしていた。
ああ……一人の男性に一途(な愛を向けられるというのは、こういう感覚なのかしら。
彼に見つめられる程、胸がきゅうっと締め付けられるようだった。
「どうして……どうして貴方は、そんなに私の事を想って下さるのですか?」
「どうして、か……」
ウィリアムさんは、空を仰ぐ。
「……理由になってるか分からねぇけど、アンタが俺の運命の人なんじゃねぇかと直感したんだ。初めて模擬戦で話した時、もう俺にはこの人しか愛せねぇなって……そう思った」
私に視線を戻した彼は、何故か少しだけ寂しそうな顔をしていた。
笑っているはずなのに、その金色の瞳に悲しみが宿っているようだった。
「俺のこの気持ちに嘘はねぇ。レティシア……今すぐ返事をくれとは言わねぇよ。だけど、いつかアンタも俺に恋してくれたら……俺はいつでも覚悟は出来てる」
「……分かり、ました」
「……他の誰にも、アンタを譲りたくないからな」
これって、改めて告白されてるんですわよね……。
ああっ、何だか心臓がやけにうるさいですわ!
み、ミーチャに報告すべきなのかしら。ウィリアムに真剣に告白されたって……。
「んじゃ、行ってみっか」
薪を片手で全て抱えたウィリアムさんが、私の腰に手を回した。
「足元、気を付けろよ」
「は、はい」
二人で密着しながら、甘い匂いのする方へ行く。
何だかウィリアムさんの体温を感じていると、心がざわついて仕方が無い。
セグだってこんなに近くに寄り添ってくれた事なんて、一度あったかどうかだった。
彼の顔がすぐ近くにあるのが恥ずかしくて、私は俯きがちに歩いてしまう。
「……これが甘い匂いの正体か」
その言葉にそっと顔を上げると、開けた空間に小さな花がいくつも咲き乱れていた。
本当に花の匂いなのかと疑いたくなるフルーティーな香りが、私の肺を満たしていく。
「この花の香りだったんですのね」
「うーん……こりゃあちっとマズいかもな」
「まずい……?」
「ちょっとここで待っててくれ。確認してくる」
ウィリアムさんは足元に薪を置くと、深刻そうな面持ちで花畑の方へと歩き出す。
屈んで花を観察する彼。
「その花がどうなさったのですか?」
「……誘い花って知ってるか? 果物みてぇな甘い匂いで、丸っこい実をつけるピンク色の背の低い花。それがこれだ」
「いえ、知りませんけれど……」
「これの実は美味い事で有名なんだが、食い過ぎると問題がある」
彼は立ち上がり、私の方へ戻って来た。
「誘い花っていうくらいだから、やべぇモンに誘われちまうんだ。あそこに生えてる花は半分以上が実をつけていたみてぇなんだが、動物に食われたか誰かが摘んでいったか……一個も残ってなさそうだった」
「誘われるって、一体何に誘われてしまうんですの?」
「人喰い植物マルクルポット。誘い花の種を蒔いて動き回る、植物系の魔物だ。実を食い過ぎると意識を乗っ取られて、勝手にマルクルポットの所に行っちまう。これがこんな所に生えてるってこたぁ……」
「ゴブリン以外にも危険が潜んでいる、という事ですわね」
そんな魔物が居るだなんて……私もまだまだ勉強不足ですわね。
お姉様だったら植物には詳しいから、何か対策をご存知かもしれない。けれど、今はそれを聞きに行く時間も無い。
「とりあえず、これを野放しにしとくのはマズいな。……レティシア、ここいら一帯焼けるか?」
「ええ、やってみますわ」
私は炎魔法を詠唱し、誘い花を焼き尽くす。
もう他に花が残っていないのを確かめてから、二人でケントさん達の待つ草原へ戻る事にした。
────────────
「遅かったね、二人共。何かあったのかい?」
すぐに私達は誘い花の事を報告した。
それを聞いたケントさんとウォルグさんは顔を見合わせ、私達に向き直る。
「ゴブリンの巣を探しつつ、俺の能力でそいつの居場所も割り出してみるか。依頼内容には含まれていないが、放置して死人が出るのは問題だ」
「マルクルポット討伐とまではいかなくとも、近くの自警団に対応をお願いする事も出来るだろうからね。居場所がある程度分かっていた方が村の人達も安心するだろう」
二人の判断に従い、明日はそのように動く事に決まった。
その後はすぐにウォルグさんが食事の準備を再開し、男子達が交代で見張りを開始した。
私は周囲に防御結界を展開して、何か異常があればすぐに気付くように揺れやすい結界を作る。
長持ちするよう作ったから、眠っている間も問題無く効果を発揮するだろう。
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