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一ヶ月
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「つ、ツバサお兄ちゃん。お、おかえりなさい!」
家に入ると俺は撃たれた。
もちろん銃にではない。
ルリお手製のクラッカーが俺目掛けて発射されたのだ。
赤青黄色の細々した紙切れが空中を飛び交う。
初めてクラッカーを使ったのか、ルリの顔は真っ赤で何処か恥ずかしそうにも見える。
「今日って俺の誕生日なのか?」
不意に呟く。
「そんなの知らないわよ」
後ろで突き刺す言葉が放たれる。
「え、えーと。ツバサお兄ちゃんが、こ、この島に来てから今日でちょうど一ヶ月です。る、ルビィちゃんと相談してツバサお兄ちゃんの歓迎会をやることにしたんです」
ルリが恥ずかしそうに顔を赤らめる。
その表情は何処か誇らしげだ。
「なんの脈絡もなく"ツバサお兄ちゃんにサプライズがしたいです!"っていきなり私に言ってきた時はビックリしたわよ。本当は私も手伝ってあげたかったけどこんな身体になるとは思わなかったし、時間を稼ぐので精一杯だったわ」
俺がルリにしたみたいにサプライズをしたかったようで、ルビィとは事前に打ち合わせ済みだった。
だけどルビィの胸がこんなことになるとは思っていなかったようだ。
「い、いえ。ルビィちゃんには最初からツバサお兄ちゃんと出掛けてもらう予定でしたから」
元から時間稼ぎ要員だったらしく、ルリは手を左右に振って大丈夫だったことを伝えている。
「そう? ほら、何ボサっとしてんのよ。さっさと席に座ったらどうなの?」
ルビィが後ろから俺の両肩を掴み、ポヨンと胸の感触が背中から感じられたが、何も考えず俺は用意された席へと座る。
と言ってもいつも使っているテーブルのいつもの席。
違うところと言えば右側にはルリ、左側にはルビィが座っていることと料理がいつもより豪勢なことだ。
きっと俺たちが出掛けている間に釣りに行っていたのか今まで食べてきた物の何倍もの大きさの魚がお造りで顕現している。
あとは魚を素揚げしたものや、俺がここに来て初めて食べた赤いスープが人数分と、みかんの実や他の果物が皿には沢山あった。
「俺のためにこんなに用意してくれたんだな……」
「め、迷惑だったでしょうか?」
嬉しみのあまり、ゆっくりと言葉を口にするとルリは勘違いしたのか俺が怒っていると思ったのか、恐る恐る訊ねられる。
「ううん、迷惑どころか嬉しいよ。ありがとな、ルリ」
「えへへ……」
嬉しいことを伝え、いつもより目一杯頭を撫でる。
すると嬉しさが伝わったのかルリの顔はようやく笑顔になった。
ルリだけ頭を撫でるのも不公平だと感じた俺はルビィの頭を撫でる。
「ルビィもありがとな」
「べ、別に私は何も……」
撫でられるのが嫌とは言わずそっぽを向いて顔を赤らめるだけ。
暑さのせいかそれとも恥ずかしがっているのか俺には分からないが、初めて会った時よりは仲良くなっているはずだ。
「ご、ご飯が冷める前に食べませんか?」
「そうだな」
お昼も軽くしか食べていないので腹は空いていた。
きっとこれを見越して量を少なめにしていたのだろう。
「「いただきます!」」
三人で手を合わせてご飯を食べる。
やっぱりルリのご飯は最高だ!
無人島に持っていきたいものナンバーワンはルリの作ってくれたご飯と言っても過言ではない。
「つ、ツバサお兄ちゃん」
「ん?」
ご飯を夢中で食べていると、ルリに声を掛けられる。
「あ、改めて島にようこそ、です」
「今更だけど私も歓迎するわ。ほら、私とルリで作ったんだから有難く使いなさいよ」
ルリからは白いシャツを、ルビィからはベージュのズボンを手渡された。
「ありがとう、二人とも……こんな俺のために優しくしてくれて……」
俺は島の人間ではない。
なのに倒れているところをルリに助けてもらったり、手帳に書いてある分からない素材をルビィに教えてもらったりした。
そして今日は二人から服のプレゼントがあった。
嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。
記憶があろうとなかろうとこの嬉しさは初めての感覚だと俺の身体は訴えかける。
「もう、何泣いてるのよ」
「わ、私の時と同じですね。こ、これは大成功と言っても過言ではありませんね!」
二人は目を合わせてハイタッチなんかしちゃたりしていた。
俺はそんな二人が愛おしくて堪らなくなる。
「ルリ! ルビィ!」
なので俺はご飯中にも関わらず立ち上がり、二人のことを抱きしめた。
「ぴ、ぴぇい!?」
「ちょっと何してるのよ!」
驚くルリと、怒るルビィ。
でもどちらも俺から離れることはなく、そんな言葉とは裏腹に俺のことを抱き締め返してくれる。
俺は二人に認められた気がしてさらに嬉しくなってしまった。
俺の気が済むまで二人を抱き締め、結局ご飯は冷めてしまい、温め直してから食べた。
こんな楽しい日々が毎日続けばいいな、と俺は考えるようになっていた。
でも楽しい日々はちょっとしたズレが生じて大変なことになっていく。
☆
「……が良いって! ツバサなら分かってくれるわ!」
「……の方が良いと思います。つ、ツバサお兄ちゃんならきっとそう言います」
歓迎会を終えた次の日の朝。
左右から言い合うような声がして俺は目を覚ます。
どうやら今日は服作りをしていないのか右側にはルリの姿。
どうやら今日は早く起きたのか左側にはルビィの姿があった。
「お、おはよう……朝からどうしたんだ?」
昨日はあんなに楽しくしていたのに今日は二人とも目を合わせバチバチと火花を燃やしてベッドの上に立っていた。
言い争いはたまに勃発してはいたが、朝からなんて珍しい。
大事なことでも話していたのだろうか。
「ツバサはどう思う? この島に残りたいか、それとも他の人が沢山いる島に行きたいか。もちろん出たいわよね? もっと色んなものを見たいわよね?」
ルビィは腰に手を当て前屈みになって俺へと訊ねてくる。
何となくイライラしているようにも思えた。
初めて聞かれる二択の質問。
この島で生活することしか頭になかった俺はルビィの質問に頭を悩ませる。
「んー、そうだなぁ。このまま俺たちだけって言うのもな」
この島の生活も楽しいが、ここ以外も見てみたい。
知識としてある現代的な機械や娯楽に触れてみたい。
きっと二人も気に入るものがあるはずだ。
「つ、ツバサお兄ちゃんは、この島で暮らしたいですよね? ま、まだ島の全てを知っている訳ではありませんし、ツバサお兄ちゃんにとっても大切な場所ですよね?」
ルリは握った拳を自分の胸に当て、不安そうに訊ねてくる。
その動作はルビィに負けてはいけない、なんていう焦りも感じ取れる、
「んー、そうだなぁ。この島の生活は楽しいし、まだまだ知らないことだらけだ」
それに俺がここを離れたらルリは寂しがりそうだし、仮にルリも一緒にここから離れるとなるとおばあさんとの大切な思い出を捨てるような形になる。
大切な思い出を捨てるような形になるのは俺もルビィもこの島を出るとなれば同じことか。
「どっちなの!」
「ど、どっちなんですか!」
優柔不断を発動していると、痺れを切らした二人は同時に俺へと怒るように言葉を放つ。
なんて返したらいいのか困っていると、ルビィはベッドから離れた。
「もういい! 私出て行く!」
「る、ルビィちゃん!?」
まだ胸が大きいのにも関わらず、ボインボインと揺らしながらルビィは家を出て行ってしまう。
本当は追いかけた方がいいのかもしれないが、朝だ、寝起きだ。
あんなもんを見てしまったせいで息子は今日も朝から元気がいい。
変な体勢で追いかけても追いつけないし、気持ち悪がられるだけだ。
「ど、どうしましょう……」
先にこっちだろうな。
瞳をうるうるとさせ今にも大粒の雨がルリの瞳から流れそうなのを止めるため、頭を撫でて安心させる。
「腹が減ったら帰ってくるだろ」
「そ、そうだと良いんですけど……」
そう、腹が減ったらきっと帰ってくる。
俺は呑気にそう言い聞かせたが、ルリは心配性なのか下を俯きあからさまに元気がなかった。
家に入ると俺は撃たれた。
もちろん銃にではない。
ルリお手製のクラッカーが俺目掛けて発射されたのだ。
赤青黄色の細々した紙切れが空中を飛び交う。
初めてクラッカーを使ったのか、ルリの顔は真っ赤で何処か恥ずかしそうにも見える。
「今日って俺の誕生日なのか?」
不意に呟く。
「そんなの知らないわよ」
後ろで突き刺す言葉が放たれる。
「え、えーと。ツバサお兄ちゃんが、こ、この島に来てから今日でちょうど一ヶ月です。る、ルビィちゃんと相談してツバサお兄ちゃんの歓迎会をやることにしたんです」
ルリが恥ずかしそうに顔を赤らめる。
その表情は何処か誇らしげだ。
「なんの脈絡もなく"ツバサお兄ちゃんにサプライズがしたいです!"っていきなり私に言ってきた時はビックリしたわよ。本当は私も手伝ってあげたかったけどこんな身体になるとは思わなかったし、時間を稼ぐので精一杯だったわ」
俺がルリにしたみたいにサプライズをしたかったようで、ルビィとは事前に打ち合わせ済みだった。
だけどルビィの胸がこんなことになるとは思っていなかったようだ。
「い、いえ。ルビィちゃんには最初からツバサお兄ちゃんと出掛けてもらう予定でしたから」
元から時間稼ぎ要員だったらしく、ルリは手を左右に振って大丈夫だったことを伝えている。
「そう? ほら、何ボサっとしてんのよ。さっさと席に座ったらどうなの?」
ルビィが後ろから俺の両肩を掴み、ポヨンと胸の感触が背中から感じられたが、何も考えず俺は用意された席へと座る。
と言ってもいつも使っているテーブルのいつもの席。
違うところと言えば右側にはルリ、左側にはルビィが座っていることと料理がいつもより豪勢なことだ。
きっと俺たちが出掛けている間に釣りに行っていたのか今まで食べてきた物の何倍もの大きさの魚がお造りで顕現している。
あとは魚を素揚げしたものや、俺がここに来て初めて食べた赤いスープが人数分と、みかんの実や他の果物が皿には沢山あった。
「俺のためにこんなに用意してくれたんだな……」
「め、迷惑だったでしょうか?」
嬉しみのあまり、ゆっくりと言葉を口にするとルリは勘違いしたのか俺が怒っていると思ったのか、恐る恐る訊ねられる。
「ううん、迷惑どころか嬉しいよ。ありがとな、ルリ」
「えへへ……」
嬉しいことを伝え、いつもより目一杯頭を撫でる。
すると嬉しさが伝わったのかルリの顔はようやく笑顔になった。
ルリだけ頭を撫でるのも不公平だと感じた俺はルビィの頭を撫でる。
「ルビィもありがとな」
「べ、別に私は何も……」
撫でられるのが嫌とは言わずそっぽを向いて顔を赤らめるだけ。
暑さのせいかそれとも恥ずかしがっているのか俺には分からないが、初めて会った時よりは仲良くなっているはずだ。
「ご、ご飯が冷める前に食べませんか?」
「そうだな」
お昼も軽くしか食べていないので腹は空いていた。
きっとこれを見越して量を少なめにしていたのだろう。
「「いただきます!」」
三人で手を合わせてご飯を食べる。
やっぱりルリのご飯は最高だ!
無人島に持っていきたいものナンバーワンはルリの作ってくれたご飯と言っても過言ではない。
「つ、ツバサお兄ちゃん」
「ん?」
ご飯を夢中で食べていると、ルリに声を掛けられる。
「あ、改めて島にようこそ、です」
「今更だけど私も歓迎するわ。ほら、私とルリで作ったんだから有難く使いなさいよ」
ルリからは白いシャツを、ルビィからはベージュのズボンを手渡された。
「ありがとう、二人とも……こんな俺のために優しくしてくれて……」
俺は島の人間ではない。
なのに倒れているところをルリに助けてもらったり、手帳に書いてある分からない素材をルビィに教えてもらったりした。
そして今日は二人から服のプレゼントがあった。
嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。
記憶があろうとなかろうとこの嬉しさは初めての感覚だと俺の身体は訴えかける。
「もう、何泣いてるのよ」
「わ、私の時と同じですね。こ、これは大成功と言っても過言ではありませんね!」
二人は目を合わせてハイタッチなんかしちゃたりしていた。
俺はそんな二人が愛おしくて堪らなくなる。
「ルリ! ルビィ!」
なので俺はご飯中にも関わらず立ち上がり、二人のことを抱きしめた。
「ぴ、ぴぇい!?」
「ちょっと何してるのよ!」
驚くルリと、怒るルビィ。
でもどちらも俺から離れることはなく、そんな言葉とは裏腹に俺のことを抱き締め返してくれる。
俺は二人に認められた気がしてさらに嬉しくなってしまった。
俺の気が済むまで二人を抱き締め、結局ご飯は冷めてしまい、温め直してから食べた。
こんな楽しい日々が毎日続けばいいな、と俺は考えるようになっていた。
でも楽しい日々はちょっとしたズレが生じて大変なことになっていく。
☆
「……が良いって! ツバサなら分かってくれるわ!」
「……の方が良いと思います。つ、ツバサお兄ちゃんならきっとそう言います」
歓迎会を終えた次の日の朝。
左右から言い合うような声がして俺は目を覚ます。
どうやら今日は服作りをしていないのか右側にはルリの姿。
どうやら今日は早く起きたのか左側にはルビィの姿があった。
「お、おはよう……朝からどうしたんだ?」
昨日はあんなに楽しくしていたのに今日は二人とも目を合わせバチバチと火花を燃やしてベッドの上に立っていた。
言い争いはたまに勃発してはいたが、朝からなんて珍しい。
大事なことでも話していたのだろうか。
「ツバサはどう思う? この島に残りたいか、それとも他の人が沢山いる島に行きたいか。もちろん出たいわよね? もっと色んなものを見たいわよね?」
ルビィは腰に手を当て前屈みになって俺へと訊ねてくる。
何となくイライラしているようにも思えた。
初めて聞かれる二択の質問。
この島で生活することしか頭になかった俺はルビィの質問に頭を悩ませる。
「んー、そうだなぁ。このまま俺たちだけって言うのもな」
この島の生活も楽しいが、ここ以外も見てみたい。
知識としてある現代的な機械や娯楽に触れてみたい。
きっと二人も気に入るものがあるはずだ。
「つ、ツバサお兄ちゃんは、この島で暮らしたいですよね? ま、まだ島の全てを知っている訳ではありませんし、ツバサお兄ちゃんにとっても大切な場所ですよね?」
ルリは握った拳を自分の胸に当て、不安そうに訊ねてくる。
その動作はルビィに負けてはいけない、なんていう焦りも感じ取れる、
「んー、そうだなぁ。この島の生活は楽しいし、まだまだ知らないことだらけだ」
それに俺がここを離れたらルリは寂しがりそうだし、仮にルリも一緒にここから離れるとなるとおばあさんとの大切な思い出を捨てるような形になる。
大切な思い出を捨てるような形になるのは俺もルビィもこの島を出るとなれば同じことか。
「どっちなの!」
「ど、どっちなんですか!」
優柔不断を発動していると、痺れを切らした二人は同時に俺へと怒るように言葉を放つ。
なんて返したらいいのか困っていると、ルビィはベッドから離れた。
「もういい! 私出て行く!」
「る、ルビィちゃん!?」
まだ胸が大きいのにも関わらず、ボインボインと揺らしながらルビィは家を出て行ってしまう。
本当は追いかけた方がいいのかもしれないが、朝だ、寝起きだ。
あんなもんを見てしまったせいで息子は今日も朝から元気がいい。
変な体勢で追いかけても追いつけないし、気持ち悪がられるだけだ。
「ど、どうしましょう……」
先にこっちだろうな。
瞳をうるうるとさせ今にも大粒の雨がルリの瞳から流れそうなのを止めるため、頭を撫でて安心させる。
「腹が減ったら帰ってくるだろ」
「そ、そうだと良いんですけど……」
そう、腹が減ったらきっと帰ってくる。
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