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頑張り屋のルリ

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 いつ頃寝たのか分からないが、いつの間にか眠っていた俺は目を覚ます。
 左にはルビィが気持ちよさそうに寝ていて、先に起きたのか右にはルリの姿はない。

 いつものように朝ご飯を作ってくれているのかと思ったが、そのルリの姿は見当たらない。

 最初はトイレかと考えたが、トイレからは物音一つしない。
 代わりに床下から何やらガタガタと言う音がする。

「何の音だ?」

 俺は好奇心に駆られて音がする方へ向かう。
 するとキッチンのある床下には何やら奥へと続く階段が現れていた。
 いつもは板で隠しているみたい。

「気になるし行ってみるか」

 ルリもこの奥にいるはずだ。

 床下はしっかりとした頑丈な造りで、日が当たらないお陰でここはさらに涼しい。
 だが床下ということもあり少しカビ臭い。

 階段を全て降りると今度は真っ直ぐ進む道になっていた。
 その道の終わりに椅子に座るルリの後ろ姿を発見する。
 ぼんやりと照らされた室内でせっせと何かを前後に動かしているのだ。

「ルリ?」
「…………」

 俺が声を掛けても集中しきっているのか、振り返る素振りもない。

 ガタガタと言う音の正体はルリが乾燥した麻を使って糸を作っていたのだ。
 乾燥してガサガサになった麻は機械を使い、ルリのによって綺麗な一本の糸になっていく。
 まさに職人の成せる技と言っても過言ではない。

 そのルリが糸を作っている機械の隣には機織りもある。
 どちらも電気や油を使ったりはせず、手作業で出来るものだ。

「ふぅ……こんなものでしょうか」

 額にかいた汗を拭い、一息ついている。

「お疲れ様。朝から精が出るな」
「ぴ、ぴぇい!? つ、ツバサお兄ちゃん!? ど、どうしてここに……」

 そっと声を掛けると俺が居るとは思わなかったようでビクッと震わせて大変驚かれる。
 これでも驚かせないように努力をしたつもりだったが、驚かせないようにするのは難しい。

「どうしてって言われてもな。音が気になったから入ってみたらルリが凄いことしててビックリしたぞ」
「あ、す、すみません! いつもは板で聞こえないようにしているのに、きょ、今日は麻を持ってきた時に閉め忘れてしまいました」

 ルリの職人技を褒めたのだが、それよりも板をするのを忘れて起こしてしまったことを気にしているのか謝られる。
 俺は元々眠りは深くはない方みたいだし、ルビィが起きて文句を言ってこないからそこまでうるさくはなかったのだろう。

「気にしないでくれ。それより凄いな、こうやって糸って作るんだな」

 そんな些細なことより俺は初めて見る糸作りの作業に興味津々だった。

「は、はい。そ、そろそろ新しいお洋服を作りたいな、と思っていたところなので」
「なるほどな。ルリの着ているそれも自分で作ってるのか?」
「こ、これはおばあちゃんが作ってくれた物です。な、何年も着ているので傷んできました」

 てっきりその天使のような白いスモッグもルリが作ったものかと思ったら、ルリのおばあさんが作ってくれた物らしい。
 素材は麻には見えないし、きっと錬金術で作ったのだろう。

「俺も作りたい……とは思うけど今回は邪魔しか出来なそうだし止めとこうかな」

 麻靴すら綺麗に作れないので俺が服を作ったりすると大変なことになる、絶対なる。
 それを二人にプレゼントとかしたら更に大変なことなるんだろうなぁ。
 着ている服がほつれてどんどんどんどん布面積がなくなっていく……面白いし男として凄くいいシュチュエーションなのだがルビィは怒りと恥ずかしで俺の目を潰しかねない。
 
「い、急いでいる訳でもないので、や、やる気があればいつでも教えます」
「気持ちだけ受け取っておくよ。っと、そろそろルビィも起きる頃だな」

「ご、ご飯を作りますね!」

 椅子から立ち上がり、目にも留まらぬ速さで駆け抜けて行った。

 早くご飯を作らないといけない、なんて使命感に駆られていないと良いんだけど。
 毎食俺もルビィもルリに頼りっきりなのだ。

「何か手伝えれば良いんだけどな……そうだ」

 確か手帳に食べ物が載っていた。
 それを作ることが出来ればルリの負担を少しでも減らせそう。
 虫除けスプレーと肥料の材料を探すついでにこの島にあるかどうか探してみることにしよう。

 そうして今日も一日が始まる。

 ☆

「あそこよ!」
「ほ、本当にありました」

 三人で高台までやってくる。
 もうルビィの怪我は治ったようで家で安静にするよう言ったのだが言うことは聞かず、それならばと俺の背中におんぶされている。

 そんなルビィが声高々にして何かを指差した。
 何気ない草、それは虫除けの素材になる草だ。
 ルリは草に近寄りまじまじと見つめて驚く。
 どうやらルリの領域には生えていなかったらしく、物珍しそうにそれをバリッとむしる。

「あれもそうじゃないかしら」

 次に指を差したのは肥料の素材になる木の実。
 ルビィの話だと食用には向いておらず、味も苦味が強く少しでも食べると腹を壊すよう。

 ルリはそのどちらも必死に採取して楽しそう。

「……あれもそうよね」

 ルビィは俺の耳元で小さく呟く。
 理由はルリには聞こえないようにするためだ。
 事前にルリに恩返しをしたい、とルビィに相談してみたらこの島にある素材で錬金術を用い、作れそうな料理を手帳からピックアップしてもらった。

「助かるよ」

 振り返り、ルビィにお礼を言うと顔と顔が近かったらしく顔を赤らめそっぽを向かれてしまう。
 殴り掛かられることはなかったので安心した。
 俺はルリにバレないように採取し、リュックに詰めておく。

 後は上手くいって喜んでもらえれば良いんだけどな。
 決行は明日の朝、早朝。ルリが麻で服を作っているうちに何とかしたい。
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