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洞穴にて

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 今日もルリの美味しい朝食を済ませ、何度目かの俺が漂着していた砂浜の付近へやってくる。
 出掛ける前にお弁当を作ってもらったので腹が減ったらわざわざ一度帰宅する手間もない。

 今日も今日とて日差しがカンカン照りで、お陰で外で干していた湿布はカチカチに乾き、大量に作ることが出来た。
 いつ怪我や強打してもいいように複数持ってきたのだ。
 軟膏だって竹製の水筒にしこたま詰めてきた。
 もちろん飲み物の水筒だってある。
 全て俺のリュックに詰め込んでいる。

「今日の俺は一味も、二味も違うぜ」

 これでルビィちゃんに何かされても大丈夫な……はず。
 昨日みたいに縛られたらどうしようもないのだが、細心の注意を払っていれば罠くらいどうということもないだろう。
 その罠対策として錬金術で使っている木の棒を持ってきてみた。
 地面を叩きながら安全なのを確認し、歩き続ける。

「さて、ルビィちゃんは何処にいるのやら」

 流石に同じとこには寝ていないようで、赤髪の姿は見つからない。
 罠があるかもしれないのでゆっくりと砂浜を散策していると、木々がある方面には隠れるようにして洞穴があるのを見つけた。
 如何にも誰かが根城にしていそうで、その誰かとはルビィちゃんのことだ。

「罠の可能性もある。一旦周りを捜索するか」

 今日はルリに何処へ行くとは言わずに来てしまった。
 なので罠にハマり動けなくなるとそのまま脱水症状なり空腹なりで死にかねない。
 湿布と軟膏を装備したが今日の俺は慎重だ。

「ほう、こっちは高台になっているのか」

 たぶん俺が足を踏み入れているのは、ルリが言うルビィちゃんの領域だ。
 どういう住み分けをしているのか分からないが、こちら側は山になっている。
 素材に使ったみかんの実も木に沢山生っていた。
 海の幸かと思ったが、どうやら山の幸のようだ。
 そりゃそうか。海の幸で酸っぱ甘いものを俺は知らない。
 ってことは砂浜に落ちてあったのはルビィちゃんがあそこにいるよ、と言う目印だったのだろう。
 改めてルビィちゃんの手のひらの上で踊らされていたのを実感したが、結果として軟膏と湿布を作ることが出来たので俺の勝ちだ。

「んー、居ないなぁ」

 木の棒で地面を叩きながら歩くのは面倒になっていたのでとっくに止めて普通に歩いている。
 階段なんてない足場の悪い高台まで登り、島やその周りの海を見渡してみるが赤色は見当たらないのだ。
 近くに島も人らしき物陰も見えない。

「洞穴に行ってみるか」

 決心を固め、高台から降りる時に滑りそうになるも木の棒が活躍してくれて事なきを得た。

 それからゆっくりと罠がないか確認しながら洞穴の前までやってきた。
 入口から日光が入らないようになのか、木々を上手いこと利用している。
 ルビィちゃんはそういう頭を使うのに長けた人間なのだろう。

「い、痛い……」

 なんて思っていると洞穴の中からルビィちゃんの痛がる声が聞こえた。
 どうせ今回もそういう作戦なのだろう。
 俺は少し様子を見ることにした。

「ぅ~~~。こんなんじゃ歩けない……助けて」

 振り絞られた声は今にも泣きそうなか細いものだった。

 罠でも何でもいい様子を見に行こう。
 
 警戒は怠らず地面を叩きながら声のした洞穴へと入っていく。
 日陰になっているからか中は涼しい。
 さしずめ天然のクーラー、と言った感じだろうか。
 ルリの家は日中陽が当たるとジリジリとして暑いが、洞穴なら陽が当たることもない。
 この島なら快適の暮らしだろうな。

 進んでいくと、ぼんやりとした光を見つける。
 どうやら上に穴が開いていて、そこから日が差しているようだ。
 その光の下に輝く赤いツインテールの少女、ルビィちゃんの姿がある。

 どうやら彼女は左足を挫いたのか強打してしまったのか、痛そうにくるぶしの辺りを抑えていた。
 よく見ると赤く腫れ上がっている。

「大丈夫か?」

 俺がそっと声を掛ける。

「あ、アンタ……どうしてこんなところに、いてて……」

 助けて欲しいとか言ってくれたりはせず、怪訝そうに一度こちらを睨むと、やはり足が痛むのか意識はすぐに足に向かっていた。

「たまたま通りかかったら声が聞こえてな。気になったから来てみたんだ。どれ、見せてみろ」
「嫌よ」

 背を向けて見せようとはしない。

「いいから見せろ!」

 初めから嫌がるのは分かっていたので、抑えている手を無理やり剥がし、足の状態を見る。
 どうやら捻った上にぶつけてしまったらしく、何とも痛々しい姿になっていた。

「軟膏か、湿布か……いいや、軟膏を塗ってから湿布だな」

 すぐさまリュックから軟膏と湿布、それから水の入った水筒を取り出すと、まずは水筒の水を患部に掛けてから軟膏を塗りたくり最後に湿布を貼る。
 女の子の柔肌にこんな臭いのキツい物を塗りたくったりするのは気が引けたが、そんなことを言っている場合ではない。

 足を無理やり見たせいでルビィちゃんは痛かったらしく目からは大量の涙を流していた。

「無理に動かしたりしてごめんな。でもこれでよくなると思う」
「うん……」

 ルリにライオンと称されていたし、昨日の威勢を見て俺もそう思ったが、今では借りてきた猫状態だ。
 こんな状態のルビィちゃんから手帳を取り上げるのもなんか引ける……。

「腹減ってないか?」

 リュックからルリが作ってくれたお弁当を取り出し、中を広げる。
 開けてみてあらビックリ、ソーセージが沢山あったのだ。
 と言うかソーセージオンリー……ソーセージオンリーお弁当とか初めてだぜ。

「要らない」
「ソーセージ嫌いなのか?」

 そっぽを向き、俺とは目を合わせない。
 そんなことより後から反応に困る質問だと思ってしまった。

「別に普通。お腹空いて──」
 
 お腹空いてない、とでも言いたげだったが香ばしいソーセージの匂いが鼻腔をくすぐられたらしく、ルビィちゃんはお腹をギュルギュルと鳴らしていた。

「もしかして、昨日から食べてないんじゃないのか?」

 何処にも料理をした形跡や、食べた後が見つからない。
 いつもは洞窟の外で食事でもしているのだろうか。
 もしそうだとしたら足を怪我した今、外に歩くことも出来ないのだろう。
 俺の推測だが、高台に登って降りようとしたら足を挫き、体制を崩して転んでさらに強打をし何とか家に帰ってきたが歩けない……なんてこともありえなくない。

 木の棒が無ければ俺もそうだったに違いないからな!

「いい……食欲ない」
「ほう。まだそんなこと言うのか」

 力強く否定したいが足が痛くそんなことは出来ないのか、俺とは目を合わせずに食欲がないという嘘を言っていた。
 嘘を言えるならまだ元気な証拠だろうが、このまま飲まず食わずで倒れられると俺としても寝目覚めが悪い。

「な、何よ……」

 いつもの威勢を放ちたいが、やはり足が痛く口をどもらせ身構えるだけ。

「俺のソーセージを口に入れるか、ルリのソーセージを口に入れたいか、どちらか選んでもらおうか。運良くルビィちゃんは動けないみたいだし、昨日の仕返しも出来るんだよなぁ?」
「い、いやっ──」

 悪どい笑みを浮かべ、俺はルリが俺のために作ってくれた俺のソーセージを手に取り、泣きそうな顔をしているルビィちゃんの口に突っ込む。
 ルリのソーセージでもあり、俺のソーセージでもあるのだ。

 嫌がってはいるが、ソーセージを入れられると口をもぐもぐとさせて食べていた。

「どうだ? 美味いだろ」

 俺が作った訳では無いが誇らしげに訊ねる。

「……美味しい」
「まだ食うか?」
「ふん、食べてあげてもいいわ」

 高飛車なお嬢様みたいに上から目線で遠回しに寄越せと催促される。
 ルビィちゃんは素直に言えないのだろう。
 それがまた可愛く思えるけどな。

「ほら」

 俺は自分の分が無くなるのも気にせず、ルビィちゃんにソーセージを分け与えていた。
 気付けばルリの作ってくれたソーセージは全て無くなっていた。
 まぁ嬉しそうに食べるルビィちゃんの笑顔を見ることが出来たし、見物料と思えば安いくらいだろう。
 ついでに水も全て飲まれた。

 ルビィちゃんの手当をしたり、ご飯を与えていたら、段々と日が暮れてきている。

「そろそろ戻ろうかな」

 帰らないとルリが心配してしまいそうだ。
 立ち上がろうとすると、ルビィちゃんは俺のズボンを握り引き止める。

「やだ……まだ居て」

 下を俯き、俺が帰って欲しくないようで駄々を捏ねられる。

「って言われてもなぁ……」

 確かに怪我をした女の子を一人、放置していくのも気が引ける。
 怪我が悪化したり、何かの拍子にバイ菌が足に入り化膿してしまいそのまま足をどうにかしないといけない……なんてこともありえなくない。

「はぁ、分かったよ。でも一緒に行くからな」

 ルビィちゃんをお姫様抱っこして俺は洞穴を出て、ルリの家に帰ることにした。
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