上 下
64 / 66
幕間Ⅱ

悩めるミレッタ

しおりを挟む
 マリアがターシャの店で働いてから何度目かの休みがやってきた。
 今日もマリアはターシャの店で魔道具作りの基礎を教えられていたり、いなかったり。

 その最中のミレッタ達の模様である。
 彼女たちはマリアの繋がりで仲良くなり、小心者のミレッタでも二人にはある程度言いたいことは言えるように成長していた。

「はぁ……」

 無自覚の深い溜め息が何処からか聞こえてくる。

「どうなさいましたか? そんなに深い溜め息をなさって」
「最近、マリアの様子がおかしいんです」

 緑色の髪をした三つ編みのミレッタ、輝くほどの金髪をした縦ロールのセシリー、青髪ショートにトレードマークのピンク色のカチューシャをしたミオがカフェのテラスにてティータイムを楽しんでいる。

 だがミレッタは楽しいひとときにも関わらず気分は沈み溜め息までしてしまい、二人は何かあったのか心配をし、ミレッタは誤魔化すことは無理だと諦め、正面に座る二人に心の内を打ち明けようとしていた。

「今日も断られたんですってね。でもマリアは編入したばかりですからやることがあるのではなくて?」

 王族であるセシリーは自分も入学してからも必要なものがいくつも出てきたのでその度に街に繰り出し必需品を買い備えていた。
 中には他人に見られたくないような物もあるので、きっとマリアもそうなのだと思っていた。

「確かに、それもあるとは思うんですけど……」

 彼女の言葉に納得をするミレッタだが、完全には納得をしていなそうだった。
 それは少しばかり理由を知っているからだ。

「親衛隊の子から聞いたけど、ラウンジで待機してたけど出てこなかったって」

 ミオは今朝聞いたことを口にした。
 親衛隊の人達はマリアを出待ちしていたが、待てど暮らせど現れなかったのでたまたま廊下を歩いていたミオにどうしてマリアが現れないのか訊ねていたのだ。

「マリアのお話では習い事をしているようなんです。今朝自分の部屋の窓から飛んでいくのを見かけました。きっとマリア親衛隊に後を付けられたくなかったんだと思います」

 飛び降りた瞬間のマリアを目撃し、彼女に駆け寄ろうと思ったがあまりの速さで一瞬のうちに姿を消してしまった。
 なので本人には聞けず、今朝見たことと親衛隊に後を付けられたくなかったんだと言う予想をセシリーとミオへ伝える。

「さ、三階もありましてよ!?」
「それほどまでの危険を侵して行かなきゃいけない大切な習い事?」

 ゴウとの決闘で並々ならぬ跳躍力を見せつけていたマリアだったが三階はこの間飛んだよりももっと高さがあるのでセシリーは自慢の縦ロールを揺らして驚き、首を傾げたミオは深く考えた。

「本当に習い事なのでしょうか?」

 友達を疑うのは良いことではない、と理解はしているミレッタだが王都に来たばかりの彼女が危険な目に遭ってしまうのではないかと不安を募らせているのだ。

「怪しいですわね」
「最近、授業中でもマリアはニコニコしてるし……彼氏が出来た?」

 怪訝そうに顎に手を当ててセシリーとミオは考える。

「マリアにフィアンセが出来たかどうか聞いてみたんですけど、違ったみたいで強く否定されてしまいました。ですが、その際にマリアは故郷のことを思い出して寂しそうな顔になっていましたね」

 だがミレッタも二人と同じように考えたので既に質問済みだった。
 なのでマリアに強く否定されたこと伝え、その時の状況を二人に教える。

「怪しい、ですわね」
「故郷を思い出すなんて怪しい」
「お二人もそう思いますよね?」

 三人は勘違いをした。
 確かに強く否定すればするほど本当にそのことが違うのか怪しくなるのは人間の心理とも言えるだろう。
 だがマリアはそんなことを考えずにいきなりミレッタに聞かれたもんだからビックリして強く否定し、グラダラスでエルとアルも習い事をしていたのをたまたま思い出し、元気にしているのか気になっていただけだった。

 結果的に三人はマリアの故郷からマリアの恋人がやってきて遊んでいると早とちりをした。
 故郷のことを思い出したのも恋人から故郷の話を聞いてしまったからだと思ってしまったのだ。

「そうと決まれば行くしかありませんわね!」

 バンっとテーブルを叩きセシリーは立ち上がり、何かを決心する。

「何処へですか?」

 いきなり立ち上がるセシリーをミレッタは首を傾げて不思議そうに見つめる。
 だがセシリーの隣に居たミオは理解をして音もなく立ち上がっていた。

「マリアの習い事・・・をしている所へですわ!」
「えええっーー!?」

 ビシッとミレッタのことを指差し、差されたミレッタは驚くがそんなのお構い無しに二人はミレッタを掴みマリアの習い事をしていそうな場所を血眼になって探した。
 だがそれは建前でマリアが恋人と楽しく遊んでいる瞬間を目撃したい、言わば野次馬根性だった。

 ──そうして時は進んでいき、初日のマリア探しは失敗に終わり、次も失敗をし、その次も失敗に終わると思い、三人の戦意は喪失しかけ気付けば日は落ち夜になっていた。

「あっ、マリアで──んぐぐっ!」」
「ミレッタ、静かに」

 ミレッタはマリアの姿を見つけ大声を出しマリアの元へと向かおうとしたが探していることがバレてしまうと思ったミオはミレッタを掴み口を塞ぐ。

「何をしているのかしら」
「大切そうに布を抱きしめてる。指輪……も」

 二人は建物の影に隠れたままマリアを観察していた。
 マリアが大切そうに抱きしめているのはターシャがマリアのために作ったローブだ。
 ミオはローブに包まれたキラキラと光る物を目にし、瞬時に指輪と見抜いた。

「んぐっ、んぐぐぐぐ──!」

 その際、ミオはずっとミレッタの口を塞ぎ息が出来ないでいた。

「あ、ごめん」
「ぷ、ぷはー! し、死んでしまうかと思いました」

 やっと息が出来るようになったミレッタは思いっきり呼吸をして苦しそうだ。
 そうこうしているうちにマリアは寮の方向へと歩いていってしまう。

「今見たことは三人の秘密にいたしますわ」
「そうだね」
「わ、分かりました」

 三人はマリアがあそこで何をしていたのか帰る最中でも口にすることはなく、頭の中で各々思考を巡らせるだけ。

 結局マリアのことは明日になれば聞けたので無駄足に終わってしまったが、三人はマリアという繋がりを経てまた少し仲良くなったので全てが無駄足だったとは言えないだろう。

 果たしてマリアに恋人が出来るのはいつになるのやら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結

処理中です...