27 / 66
始まり
模擬戦
しおりを挟む
「──ハァッ!」
カン、木と木がぶつかる音がする。
今日はお勉強しません。私は今、森の開けた場所で長さ八十センチはあるであろう木剣を使いながら模擬戦をしています。
あの日々が恋しいけれど、少しだけ知らないフリをします。
……なんてね。
知らないフリでも知ってても相手をしてくれているのはルナだ。
何でも「今日はお外に出て遊びましょうか」と言って森まで来たのだがいきなり渡されたのはこの木剣、騙されたよ……ハハッ。
いつも着ている白いワンピースだけではお股が大変なことになるのでかぼちゃパンツを履いていた。
正式名称はドロワーズと言うらしい。
少し離れた場所ではエルとゴルデスマンさんも模擬戦をしている。
「攻めが甘いですよ」
私が本気で木剣を振りかざしていると言うのに、ルナは意図も簡単に私の剣をいなしていた。
まるで木剣と木剣にファスナーが着いていて、それを開けたり閉めたりしているのではないかと思うぐらい引いたり寄せたりしているのだ。
「うおっと、と!?」
受け流された私は回転しながら転んでしまう。
ドロワーズを履いていて本当に良かったと思える場面である。
「いてて……どうも木剣が重くて思うように使えてないような」
転んで土埃が着いてしまったのでそれをほろいながらぽつりと呟く。
木で出来た剣だからエルが使っていたレイピアより軽く、片手持ちは出来るのだが攻撃をする際にどうしても両手持ちにしないと力が入らない。
筋力も乏しい私には身に余るのだ。
「でしたらこちらを使ってみてはいかがでしょうか」
長さは三十センチにも満たない、木剣をルナは手渡してくれる。
使っていた木剣をルナに返す。
うん、持った感じも重くなく単純にさっき使っていた木剣の二分の一以下……悪くないのではなかろうか。
それを逆手持ちにして構えてみた。
逆手持ちってちょっと憧れるよねぇ。
アサシンとか隠密の人がこぞって逆手持ちだったりする。
果たして実用性はあるのだろうか。
ルナと距離をとる。
「いきます!」
そう宣言すると私はジグザグに走り始める。
さっきとは打って変わって身体も何倍も軽く速く走れ、動きやすい。
「──トォ! ヤッ! セイッ!」
木剣と木剣が交わる度に私はルナから距離をとって、木剣で防いで見えないであろう死角から攻撃を繰り出す。
連続で攻撃すると受け流されるのは目に見えているからだ。
「先程よりはマシになりましたが、まだまだですね」
ルナが木剣を両手持ちする。
思い切り振りかざすつもりだ。
私は後ろに回り込み、背中に斬り掛かろうとした瞬間。
視界は空を見ていた。
頭も打った。
「あいたっ!?」
てっきり剣を使っての模擬戦だったから剣を使ってくると身構えていたのだが、ルナが使ってきたのは足払いだった。
「先入観に囚われすぎです。戦士だからと言って魔法を使わない、なんてことはありませんよ。逆もまた然りです」
言いたいことは分かる……分かるんだけどさぁ。
「模擬戦がこれで初めてなのにズルくない!?」
「ズルくありません。初めてにしてはお上手でしたよ」
心のこもってなさそうな音もしない拍手をされる。
褒めてくれるのは嬉しいけどさぁ。
初めてはもう少し優しくして欲しかった。
素振りとか木に向かって攻撃するとか、色々あるじゃん。
今じゃ全身傷だらけである。
「──フッ! ハァッ!」
数メートル先でエルの声が聞こえた。
レイピアではなく、私がさっきまで使っていた木剣と同じ長さのものを使い、ゴルデスマンさんに何度も斬り掛っている。
でもゴルデスマンさんもゴルデスマンさんでそれを軽々といなしていた。
「そんなんじゃ守りたいものも守れないぞ」
いなすだけじゃなく、エルの額に向かってデコピンをする余裕まで見せている。
エルに期待をしているからこそ厳しくしているのだろうが、ガントレットに覆われた手でデコピンされるのは痛そうだね。
「分かってます……僕はまだ強くならなければいけないんです!」
額を真っ赤にさせながらもエルは涙を堪え、何度も何度もゴルデスマンさんに斬り掛かる。
でも結果はゴルデスマンさんに傷一つ与えられず、どんな技を使ったのか分からないけど吹き飛ばされる形になっていた。
「彼も容赦ないですね」
「エルが吹き飛ばされたけど何をしたんですかね?」
私の傷を魔法で手当しながら呆れた様子でゴルデスマンさんを見ていた。
ルナには何をしていたのか分かるようだ。
「自分の鎧に風を纏わせていました。それでエル様はその風に耐えられず吹き飛ばされる形に」
えーと、確か聞いたことがある。
と言うかルナが教えてくれた。
何だったかなぁ。コンセント! みたいな名前だったような。
インプット? アウトプット?
そうだ!
「エンチャント、ですね!」
「覚えてくれていて嬉しいです。もし、覚えてらっしゃらなければもうひと試合するつもりでした」
うげぇ、覚えていてと言うよりは思い出して本当に良かった。
流石にもう一回模擬戦をやるのはしんど過ぎる。
ゴルデスマンさんは風の魔法を鎧にエンチャントして攻撃されたら突風が発動する……そんなエンチャントを瞬時に鎧にしたそうだ。
エルとゴルデスマンさんの模擬戦を見ながら自分で再現出来そうな攻撃方法を考えていると、草わらが光った気がした。
「あれは──」
「よそ見ですか? やはりもう一度模擬戦を致しましょうか?」
「うわぁ!? 大丈夫です!」
首を左右に振り手をバタバタとさせて、もう模擬戦はお腹いっぱいなことを必死に伝えてエルとゴルデスマンさんの模擬戦を必死に見続けた。
結構あの光の正体は城に帰ってきても分からなかった。
カン、木と木がぶつかる音がする。
今日はお勉強しません。私は今、森の開けた場所で長さ八十センチはあるであろう木剣を使いながら模擬戦をしています。
あの日々が恋しいけれど、少しだけ知らないフリをします。
……なんてね。
知らないフリでも知ってても相手をしてくれているのはルナだ。
何でも「今日はお外に出て遊びましょうか」と言って森まで来たのだがいきなり渡されたのはこの木剣、騙されたよ……ハハッ。
いつも着ている白いワンピースだけではお股が大変なことになるのでかぼちゃパンツを履いていた。
正式名称はドロワーズと言うらしい。
少し離れた場所ではエルとゴルデスマンさんも模擬戦をしている。
「攻めが甘いですよ」
私が本気で木剣を振りかざしていると言うのに、ルナは意図も簡単に私の剣をいなしていた。
まるで木剣と木剣にファスナーが着いていて、それを開けたり閉めたりしているのではないかと思うぐらい引いたり寄せたりしているのだ。
「うおっと、と!?」
受け流された私は回転しながら転んでしまう。
ドロワーズを履いていて本当に良かったと思える場面である。
「いてて……どうも木剣が重くて思うように使えてないような」
転んで土埃が着いてしまったのでそれをほろいながらぽつりと呟く。
木で出来た剣だからエルが使っていたレイピアより軽く、片手持ちは出来るのだが攻撃をする際にどうしても両手持ちにしないと力が入らない。
筋力も乏しい私には身に余るのだ。
「でしたらこちらを使ってみてはいかがでしょうか」
長さは三十センチにも満たない、木剣をルナは手渡してくれる。
使っていた木剣をルナに返す。
うん、持った感じも重くなく単純にさっき使っていた木剣の二分の一以下……悪くないのではなかろうか。
それを逆手持ちにして構えてみた。
逆手持ちってちょっと憧れるよねぇ。
アサシンとか隠密の人がこぞって逆手持ちだったりする。
果たして実用性はあるのだろうか。
ルナと距離をとる。
「いきます!」
そう宣言すると私はジグザグに走り始める。
さっきとは打って変わって身体も何倍も軽く速く走れ、動きやすい。
「──トォ! ヤッ! セイッ!」
木剣と木剣が交わる度に私はルナから距離をとって、木剣で防いで見えないであろう死角から攻撃を繰り出す。
連続で攻撃すると受け流されるのは目に見えているからだ。
「先程よりはマシになりましたが、まだまだですね」
ルナが木剣を両手持ちする。
思い切り振りかざすつもりだ。
私は後ろに回り込み、背中に斬り掛かろうとした瞬間。
視界は空を見ていた。
頭も打った。
「あいたっ!?」
てっきり剣を使っての模擬戦だったから剣を使ってくると身構えていたのだが、ルナが使ってきたのは足払いだった。
「先入観に囚われすぎです。戦士だからと言って魔法を使わない、なんてことはありませんよ。逆もまた然りです」
言いたいことは分かる……分かるんだけどさぁ。
「模擬戦がこれで初めてなのにズルくない!?」
「ズルくありません。初めてにしてはお上手でしたよ」
心のこもってなさそうな音もしない拍手をされる。
褒めてくれるのは嬉しいけどさぁ。
初めてはもう少し優しくして欲しかった。
素振りとか木に向かって攻撃するとか、色々あるじゃん。
今じゃ全身傷だらけである。
「──フッ! ハァッ!」
数メートル先でエルの声が聞こえた。
レイピアではなく、私がさっきまで使っていた木剣と同じ長さのものを使い、ゴルデスマンさんに何度も斬り掛っている。
でもゴルデスマンさんもゴルデスマンさんでそれを軽々といなしていた。
「そんなんじゃ守りたいものも守れないぞ」
いなすだけじゃなく、エルの額に向かってデコピンをする余裕まで見せている。
エルに期待をしているからこそ厳しくしているのだろうが、ガントレットに覆われた手でデコピンされるのは痛そうだね。
「分かってます……僕はまだ強くならなければいけないんです!」
額を真っ赤にさせながらもエルは涙を堪え、何度も何度もゴルデスマンさんに斬り掛かる。
でも結果はゴルデスマンさんに傷一つ与えられず、どんな技を使ったのか分からないけど吹き飛ばされる形になっていた。
「彼も容赦ないですね」
「エルが吹き飛ばされたけど何をしたんですかね?」
私の傷を魔法で手当しながら呆れた様子でゴルデスマンさんを見ていた。
ルナには何をしていたのか分かるようだ。
「自分の鎧に風を纏わせていました。それでエル様はその風に耐えられず吹き飛ばされる形に」
えーと、確か聞いたことがある。
と言うかルナが教えてくれた。
何だったかなぁ。コンセント! みたいな名前だったような。
インプット? アウトプット?
そうだ!
「エンチャント、ですね!」
「覚えてくれていて嬉しいです。もし、覚えてらっしゃらなければもうひと試合するつもりでした」
うげぇ、覚えていてと言うよりは思い出して本当に良かった。
流石にもう一回模擬戦をやるのはしんど過ぎる。
ゴルデスマンさんは風の魔法を鎧にエンチャントして攻撃されたら突風が発動する……そんなエンチャントを瞬時に鎧にしたそうだ。
エルとゴルデスマンさんの模擬戦を見ながら自分で再現出来そうな攻撃方法を考えていると、草わらが光った気がした。
「あれは──」
「よそ見ですか? やはりもう一度模擬戦を致しましょうか?」
「うわぁ!? 大丈夫です!」
首を左右に振り手をバタバタとさせて、もう模擬戦はお腹いっぱいなことを必死に伝えてエルとゴルデスマンさんの模擬戦を必死に見続けた。
結構あの光の正体は城に帰ってきても分からなかった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

私のアレに値が付いた!?
ネコヅキ
ファンタジー
もしも、金のタマゴを産み落としたなら――
鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。
しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。
自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに――
・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。
・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる