24 / 66
始まり
忌み嫌われる者
しおりを挟む「この国はね。昔……と言っても数千年前に獣人による虐殺が起こったんだ」
ニコニコ笑顔は止めて、真剣な眼差しで私を見つめゆっくりと話し始める。
「人間よりも足が速く、魔術も魔力も何倍もある獣人に……ううん、魔術だけじゃなくて筋力もだね。人々は抵抗するも無惨に一方的に蹂躙されていた」
その言葉を聞いて頭の中でイメージする。
逃げ惑う人々をゲスな笑みを浮かべながら魔法や武器を使って殺す獣人の姿が想像出来てしまう。
「食料は奪われ、着るものも当時の娯楽品だって獣人に奪われてしまっていたんだ。それだけでなく子供は奴隷として高く売買出来るって噂でね。死は免れても子供は失う……そんな家庭も少なくはなかった」
殺すだけじゃなく大切な我が子を取られてしまうのはきっと死よりも辛い。
それが分かっているからこそあえて両親は活かしているのかもしれない……そんなことを考えてしまうと獣人とはどれだけ恐ろしい存在なのかと安易に理解してしまう。
だけどそんなことしてしまうと……。
「そのままでは人間は居なくなるんじゃ?」
「そう、だから我々人間は知恵を搾り、彼らの生態を研究した。その結果、獣人はリーダーの命令に従って行動していることが分かったんだ。そのことに気付いた人間は獣人のリーダーが根城にしていた今では愚者の洞窟と呼ばれる場所へと向かったんだ」
ビシッと私に人差し指を向けると、軽く頷いて見せた。
愚者の洞窟……そんな呼ばれ方をし始めたのは獣人たちのせいなのかな。
「静まり返った夜に──即ち、夜襲だね。洞窟に向かって一斉に魔法を放ったんだ。結果は大成功、見事リーダーを討ち取って獣人を追い払うことにも成功したんだ。だから今もその跡が残り、入り組んだ形になってると言われてるんだ」
壁に向かい、右の手のひらを広げ、左手でその手首を抑え、まるで今から魔法を放つのではないかと思わせるポーズをとる。
青い屋根の家での出来事を思い出させられる。
あんな火の玉を直接食らったりしたり一溜りもないだろう。
「なるほど……だから迷路みたくなっていたんですね」
「ん? マリアちゃん、愚者の洞窟に入ったことがあるの?」
目を丸くさせパチパチ瞬きなんでさせながら訊ねられる。
その表情は余程驚いているようにも見える。
「えーと、入ったって言うより入ってた、みたいな? そこで毛むくじゃらの魔獣に会って多分気が付いたらこんな感じに」
後頭部を抑え、自分の尻尾を動かし前に出す。
今では自由自在に動かせるようになっていた。
「そっか。崩落する危険もあるから入らないように言われてるんだけどね」
顎に手を当てて何か考えるように頷くと、中は崩落する恐れがあったようだ。
もしかしたら、上から岩が落ちてきてそのままグシャリ、なんてこともあったかもね。
「でも確かアルがその毛むくじゃらを退治しに行く予定だったとか言ってたような?」
「それもガイアスの仕業なんだろうね。もしかしたら、愚者の洞窟で不慮の事故を装ってアルフレッドくんを殺そうとしていたのかも」
そんな疑問を口にすると、目を細め怒りをあらわにしているのかとっても険しい。
あのくそパーマ男ならやりかねないけど……。
「アルを王に仕立てたいのに、ですか?」
「うん。アルフレッドくんを殺したのはエル派の人間だ、とでも言ってエル派を解体に追いやりたかったんじゃないかなぁ」
なるほどねぇ……異世界訳分からん。
少なくとも日本ではそんなことは有り得ない。
魔法ではなく、科学が発展した日本では悪いことをすると大体バレてしまう。
特に殺人や放火などはかなりの確率で犯人が判明してしまうのだ。
そんな環境で育ってきているので、何とも理解し難い。
「因みに今回の放火は……?」
「自然発火、とでも言いそうだなぁ。はぁ~薬剤作るの結構重労働なんだけどなぁ」
私を刺した時みたいに不問になったりするのかと思いきや、自然発火と言う扱いにされてしまうのかぁ。
でも確かに釜もあるし自然に燃えそうではあるけど、何とも煮え切らない。
「ごめんなさい、私のせいで……」
「ううん、マリアちゃんは悪くないよ。ボクこそ一人にしてごめんね?」
下を俯き謝ると、いつものニコニコしたヒックさんに戻っていた。
「いえ、助けてくれたし、怪我もなかったので大丈夫です。ところでこのブレスレットはどんな効果があったんですか?」
「ボクの元に転移、それから──まぁいつか分かるよ」
それ以上はこのブレスレットのことについて教えてくれることはなかった。
「問題はこれからだね……またマリアちゃんは狙われるかもしれないから暫くは単独での行動は止めておいた方がいいと思う」
「ですよね……今行けば間違いなく疑われそう」
ヒックさんは腕を組み目を瞑り、唸るように考えていた。
このままおちおち戻っていったら家に火をつけた犯人なんかにされちゃう可能性も無きにしも非ず。
立場があやふやな私は自分だけでなくエルとアルの将来まで完全に潰しかねないのだ。
「暇潰し、になるか分からないけどボクで良ければ魔法の基礎を教えるけど」
「みっちりじゃなければ……」
ここで簡単に首を縦に振ると私の中にある魔力が枯渇するまで魔法の特訓をさせられそうだった。
ただでさえカラカラなのにね!
「あはは、ルナにみっちり勉強を教えてもらってるんだってね」
「知ってるんですか?」
私の受け答えを聞いて苦笑いを浮かべながらそう答える。
ルナさんとも知り合いだとは……まぁ宮廷魔術師専用の家が離れにあるくらいだし知らない訳もないか。
「知ってるも何もルナはボクの妹だよ」
「ええええっ──!? 似てないですね!!!」
突然のカミングアウトに、つい本音がポロリしてしまった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜
あおぞら
ファンタジー
主人公小野隼人は、高校一年の夏に同じクラスの人と異世界に勇者として召喚される。
勇者は召喚の際にチートな能力を貰えるはずが、隼人は、【身体強化】と【感知】と言うありふれた能力しか貰えなかったが、しぶとく生き残り、10年目にして遂に帰還。
しかし帰還すると1ヶ月しか経っていなかった。
更に他のクラスメイトは異世界の出来事など覚えていない。
自分しか能力を持っていないことに気付いた隼人は、この力は隠して生きていくことを誓うが、いつの間にかこの世界の裏側に巻き込まれていく。
これは異世界で落ちこぼれ勇者だった隼人が、元の世界の引き継いだ能力を使って降り掛かる厄介ごとを払い除ける物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる