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番外編 ウルゲンチ戦ーーモンゴル崩し
第29話 死地4
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人物紹介
モンゴル側
チャアダイ:チンギスと正妻ボルテの間の第2子
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。万人隊長。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。北城本丸攻めの総指揮官。
トルン・チェルビ:チンギスの側近。千人隊長。コンゴタン氏族。北城本丸と橋の間に展開する遊撃隊の総指揮官
カダアン:千人隊長。スニト氏族。北城本丸と橋の間に展開する遊撃隊の指揮官。
人物紹介終了
城門のあたり一面にはモンゴル軍が放った幹弾が散らばり、城門や城壁の残骸が道を阻んでおった。加えて橋前は泥濘である。遂に馬にての突撃は無理とあきらめたようであり、チャアダイは千人隊に徒歩にて橋を渡るべく命じた。翌日の夜明けと共になせと。
先の接近にて大損害を出したこともあり、モンゴル側も備えはしておった。兵は自らの姿をすっぽり隠せるほどの大楯を準備し、それを前面に押し立てて橋を渡り始めた。
敵も城壁上やその狭間から矢の雨あられにて阻もうとするが、橋を破壊したくはないらしく、投弾はして来ぬ。ここは出撃路でもあれば退路の一つでもある。それを自ら破壊するほどには、追い込まれておらぬということなのであろう。
互いに無数の矢を射かけ合う戦となった。
チャアダイは頃合いを見計らって、次の千人隊を増援に発し、最初の隊は引き退かせた。そうしてしばらく経つと、その千人隊も同様に新たな千人隊を送り込んで交替させ、その後もこれを繰り返した。交替の際には、無論、自軍の負傷者も退かせた。
千人隊長たちが自兵の命と疲れ――矢を放つほどに腕は疲れ、ゆえにどうしても距離は落ち、狙いも不正確になる――を慮り、この作戦を進言し、チャアダイが容れたのであった。
そうやって少しずつ橋上に地歩を確保しつつ進み、やがて城門というか、城門の名残とでもいうべきところを占拠した。陽が中天を少しばかり過ぎる頃であった。
それからチャアダイは徴集した人々に、城門の残骸や幹弾などを除かせ、敵兵の死体を運河に投げ落とさせた。そして自軍の死者は城外まで運ばせた。その後に土葬にてとむらうためであった。
部隊が通れるようになる頃には夕暮れ間近となっており、カラチャル部隊の突入は翌日に持ち越された。
その報告がもたらされると、ボオルチュはすぐにもトルンら千人隊長を呼び寄せて軍議を開いた。橋の占拠をなし遂げたこと、しかしこうなれば翌日からは敵も動いて来ようゆえ、それに備えよと命じた。
隊長たちの間に緊張が走る。ようやくかというのが、口には出さずとも、各々の正直な感想であったろう。この間、敵との交戦はなかった。とはいえ城外におるのとは異なり、敵は目と鼻の先におる。いつ出撃して来るか分からぬ。そしてそうなればすぐに戦闘に入ることになる。緊張が解けることは一時とてない。それが待つ時間をいっそう長く、その間の疲労をいっそう強く感じさせておった。
「さすがのチャアダイ大ノヤンも攻め込まぬのですね。日が落ちればどうしても現地側が有利になりましょうから」
と千人隊長たるカダアンが想わず漏らしたのに対し、
ボオルチュは
「そうだろう。正しい判断だと我も想う。しかし一方で敵に準備をする時を与えることにもなる」
「なるほど。これが吉と出るか凶と出るかはまだ分からぬということですね」
とカダアンが受けると、
「吉とするか凶とするかは我らの戦い振り次第よ」
とトルンが引き取った。
モンゴル側
チャアダイ:チンギスと正妻ボルテの間の第2子
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。万人隊長。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。北城本丸攻めの総指揮官。
トルン・チェルビ:チンギスの側近。千人隊長。コンゴタン氏族。北城本丸と橋の間に展開する遊撃隊の総指揮官
カダアン:千人隊長。スニト氏族。北城本丸と橋の間に展開する遊撃隊の指揮官。
人物紹介終了
城門のあたり一面にはモンゴル軍が放った幹弾が散らばり、城門や城壁の残骸が道を阻んでおった。加えて橋前は泥濘である。遂に馬にての突撃は無理とあきらめたようであり、チャアダイは千人隊に徒歩にて橋を渡るべく命じた。翌日の夜明けと共になせと。
先の接近にて大損害を出したこともあり、モンゴル側も備えはしておった。兵は自らの姿をすっぽり隠せるほどの大楯を準備し、それを前面に押し立てて橋を渡り始めた。
敵も城壁上やその狭間から矢の雨あられにて阻もうとするが、橋を破壊したくはないらしく、投弾はして来ぬ。ここは出撃路でもあれば退路の一つでもある。それを自ら破壊するほどには、追い込まれておらぬということなのであろう。
互いに無数の矢を射かけ合う戦となった。
チャアダイは頃合いを見計らって、次の千人隊を増援に発し、最初の隊は引き退かせた。そうしてしばらく経つと、その千人隊も同様に新たな千人隊を送り込んで交替させ、その後もこれを繰り返した。交替の際には、無論、自軍の負傷者も退かせた。
千人隊長たちが自兵の命と疲れ――矢を放つほどに腕は疲れ、ゆえにどうしても距離は落ち、狙いも不正確になる――を慮り、この作戦を進言し、チャアダイが容れたのであった。
そうやって少しずつ橋上に地歩を確保しつつ進み、やがて城門というか、城門の名残とでもいうべきところを占拠した。陽が中天を少しばかり過ぎる頃であった。
それからチャアダイは徴集した人々に、城門の残骸や幹弾などを除かせ、敵兵の死体を運河に投げ落とさせた。そして自軍の死者は城外まで運ばせた。その後に土葬にてとむらうためであった。
部隊が通れるようになる頃には夕暮れ間近となっており、カラチャル部隊の突入は翌日に持ち越された。
その報告がもたらされると、ボオルチュはすぐにもトルンら千人隊長を呼び寄せて軍議を開いた。橋の占拠をなし遂げたこと、しかしこうなれば翌日からは敵も動いて来ようゆえ、それに備えよと命じた。
隊長たちの間に緊張が走る。ようやくかというのが、口には出さずとも、各々の正直な感想であったろう。この間、敵との交戦はなかった。とはいえ城外におるのとは異なり、敵は目と鼻の先におる。いつ出撃して来るか分からぬ。そしてそうなればすぐに戦闘に入ることになる。緊張が解けることは一時とてない。それが待つ時間をいっそう長く、その間の疲労をいっそう強く感じさせておった。
「さすがのチャアダイ大ノヤンも攻め込まぬのですね。日が落ちればどうしても現地側が有利になりましょうから」
と千人隊長たるカダアンが想わず漏らしたのに対し、
ボオルチュは
「そうだろう。正しい判断だと我も想う。しかし一方で敵に準備をする時を与えることにもなる」
「なるほど。これが吉と出るか凶と出るかはまだ分からぬということですね」
とカダアンが受けると、
「吉とするか凶とするかは我らの戦い振り次第よ」
とトルンが引き取った。
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