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番外編 ウルゲンチ戦ーーモンゴル崩し
第27話 死地2
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人物紹介
モンゴル側
チャアダイ:チンギスと正妻ボルテの間の第2子
カラチャル:チャアダイ家の家臣。万人隊長。
オゴデイ:同上の第3子
アルチダイ:オゴデイ家の家臣。万人隊長。
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。万人隊長。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。北城本丸攻めの指揮官。
トルン・チェルビ:チンギスの側近。千人隊長。コンゴタン氏族。ウルゲンチ攻めにては、ボオルチュの配下となっている。
注 クナン、カラチャル、アルチダイは、各々ジョチ、チャアダイ、オゴデイに授けられた武将である。王子たちが成長するに従い、この者たちのモンゴル内における重要度は増して行く。
ところで、イル・カン国の歴史家ラシードはこの者たちをアター・ベグと呼ぶ。アターは父、ベグはノヤン(武将。隊長)の意味である。これより、セルジューク朝にあったアター・ベグ制度に近しいものであったと分かる。
余談だが、モンゴル侵攻時、セルジュークの瓦解にともない分離独立したいくつかのアター・ベグ朝が未だ残っておった。
人物紹介終了
ところでボオルチュ隊の布陣を今か今かと待っておる者がおった。チャアダイである。この者の隊は、その完了を待って南城北門の橋に至る計画であった。南城軍と北城本丸軍により挟撃されぬためであった。ボオルチュがこれだけの軍勢で囲み、更にトルン率いる遊撃隊にて阻むなら、その恐れはないと言って良かった。
チャアダイも一も二もなく了承してのことであった。しかしこれほど長くかかるとは無論想っておらぬ。またそもそも待つということが嫌いなチャアダイである。更には事情が事情ゆえとして自ら心を抑えんと努める御仁でもなかった。ゆえにチャアダイはいらつきを越えて怒り、しかもそれをそのままあらわにしておった。
それでもこの日は待ち、そしてようやく布陣を終えましたとの報告を受けると、チャアダイは進発の合図を怒声をもってなした。
その軍勢は北城東門より入り、配下の将の担う拠点に至り、そこからは大通りからそれ、南の路地へと入って行った。それからしばらく路地を抜けて、やがて南北を結ぶ大通りへ出て、トルンたちの遊撃隊の横を通り、南城と北城の間にかかる橋へと進軍した。
北城の東西と南北を結ぶ大通りは、本丸のすぐ前で交差しておったので、本丸からの攻撃を避けるため、こうした経路を取らざるを得なかったのである。
他方南城の三門を攻めるオゴデイ隊の方はといえば、自ら指揮する東門に八千人隊、南門と西門に各々六千人隊を配置しておった。
オゴデイの南城攻めは初期からの継続ということもあり、投石機は既に配備済みである。ただボオルチュから投弾はチャアダイの投石隊の配備完了まで待って下さいと言われており、功名心からそれを破ることなどありえぬオゴデイであれば、未だいずれの投石機も動いておらぬ。
出撃を防ぐだけなら、騎馬隊の方がうまく対応できましょうとの自将アルチダイの進言もあった。更にはところどころにできた泥溜まりが敵の出撃経路を限るは明らかで、城外にては却ってモンゴル側に有利に働くことを冷静に見て取ったオゴデイは、配下の諸将にその経路上にて敵を待ち伏せすべく布陣せよと命じた。
モンゴル軍は攻めを得手とし守るを苦手とするとの認識はオゴデイにもあったが、要所要所に布陣する自軍を見て、それで少なからず安心するを得た。泥溜まりを避けるには、その待ち受けるモンゴル部隊へ突撃せねばならぬ。それはどんな敵であれ望まぬことであろうから。
オゴデイは、更に敵の出撃の動きをわずかでも見逃すなと命じて、それを待った。
モンゴル側
チャアダイ:チンギスと正妻ボルテの間の第2子
カラチャル:チャアダイ家の家臣。万人隊長。
オゴデイ:同上の第3子
アルチダイ:オゴデイ家の家臣。万人隊長。
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。万人隊長。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。北城本丸攻めの指揮官。
トルン・チェルビ:チンギスの側近。千人隊長。コンゴタン氏族。ウルゲンチ攻めにては、ボオルチュの配下となっている。
注 クナン、カラチャル、アルチダイは、各々ジョチ、チャアダイ、オゴデイに授けられた武将である。王子たちが成長するに従い、この者たちのモンゴル内における重要度は増して行く。
ところで、イル・カン国の歴史家ラシードはこの者たちをアター・ベグと呼ぶ。アターは父、ベグはノヤン(武将。隊長)の意味である。これより、セルジューク朝にあったアター・ベグ制度に近しいものであったと分かる。
余談だが、モンゴル侵攻時、セルジュークの瓦解にともない分離独立したいくつかのアター・ベグ朝が未だ残っておった。
人物紹介終了
ところでボオルチュ隊の布陣を今か今かと待っておる者がおった。チャアダイである。この者の隊は、その完了を待って南城北門の橋に至る計画であった。南城軍と北城本丸軍により挟撃されぬためであった。ボオルチュがこれだけの軍勢で囲み、更にトルン率いる遊撃隊にて阻むなら、その恐れはないと言って良かった。
チャアダイも一も二もなく了承してのことであった。しかしこれほど長くかかるとは無論想っておらぬ。またそもそも待つということが嫌いなチャアダイである。更には事情が事情ゆえとして自ら心を抑えんと努める御仁でもなかった。ゆえにチャアダイはいらつきを越えて怒り、しかもそれをそのままあらわにしておった。
それでもこの日は待ち、そしてようやく布陣を終えましたとの報告を受けると、チャアダイは進発の合図を怒声をもってなした。
その軍勢は北城東門より入り、配下の将の担う拠点に至り、そこからは大通りからそれ、南の路地へと入って行った。それからしばらく路地を抜けて、やがて南北を結ぶ大通りへ出て、トルンたちの遊撃隊の横を通り、南城と北城の間にかかる橋へと進軍した。
北城の東西と南北を結ぶ大通りは、本丸のすぐ前で交差しておったので、本丸からの攻撃を避けるため、こうした経路を取らざるを得なかったのである。
他方南城の三門を攻めるオゴデイ隊の方はといえば、自ら指揮する東門に八千人隊、南門と西門に各々六千人隊を配置しておった。
オゴデイの南城攻めは初期からの継続ということもあり、投石機は既に配備済みである。ただボオルチュから投弾はチャアダイの投石隊の配備完了まで待って下さいと言われており、功名心からそれを破ることなどありえぬオゴデイであれば、未だいずれの投石機も動いておらぬ。
出撃を防ぐだけなら、騎馬隊の方がうまく対応できましょうとの自将アルチダイの進言もあった。更にはところどころにできた泥溜まりが敵の出撃経路を限るは明らかで、城外にては却ってモンゴル側に有利に働くことを冷静に見て取ったオゴデイは、配下の諸将にその経路上にて敵を待ち伏せすべく布陣せよと命じた。
モンゴル軍は攻めを得手とし守るを苦手とするとの認識はオゴデイにもあったが、要所要所に布陣する自軍を見て、それで少なからず安心するを得た。泥溜まりを避けるには、その待ち受けるモンゴル部隊へ突撃せねばならぬ。それはどんな敵であれ望まぬことであろうから。
オゴデイは、更に敵の出撃の動きをわずかでも見逃すなと命じて、それを待った。
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