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番外編 ウルゲンチ戦ーーモンゴル崩し
第12話 2の矢3
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人物紹介
ホラズム側
オグル・ハージブ かつてのブハーラーの守将。
シャイフ・カン かつてのサマルカンドの守将。
クトルグ・カン かつてのジャンドの城主。
戦況の推移とともに、3人ともウルゲンチに逃げて来たのである。
人物紹介終わり
「しかしクトルグ・カンは了承されるであろうか。その策を用いれば、我が軍の騎馬も役立たずとなる。あの誇り高き方が徒歩で戦うを納得されるであろうか」
シャイフのその問いに対して、オグルが答える。
「そこでそなたに来てもらったのだ。そなたはクトルグ・カンの信頼が殊の外厚く、我から見ればその右腕とさえ想えるほどだ。そなたならばあの御方も耳を貸そう。それにクトルグ・カンも自ら戦陣に立って来られたのだ。モンゴル軍の騎馬の精強さは我らが説くまでもなく十分承知されておろう。いかなカンクリの騎馬といえど相手が悪い。しかもこちらは部隊の逃走が続き、今では敵の方が明らかに多勢。ここで本丸まで失ってしまってはどうにもならぬというのは、分かっておられよう」
「うむ。しかし条件がある。そなたと策を申し出た住民も共に行くのだ」とシャイフ。
「住民には我から連絡しておく。しかし我は行かぬ方が良かろう。共に赴いては、却って、クトルグ・カンは首を縦に振らぬかもしれぬ」
「あの件か。確かにお怒りはまだ解けておらぬのかもしれぬ。しかしそれならばむしろ今回のことは名誉挽回の好機といえよう。良策を進言すれば、そなたに対する憶えも良くなろう。それにその堰というものを壊すのも、住民のみではなしえまい。そこまで赴かねばならぬのだから。モンゴル軍の目を盗んでであれ、カンクリ勢の護衛は必要のはず。そなたがそれを率いるならば、我もそうだが、住民が何より安心しよう。そなたを信ずるに足る者だとみなしたゆえにこそ、その策を持ち込んだのであろうから」
しばしの沈黙の後、「そうまで言うなら」オグルは渋々ながらも納得したようだった。
(あの件というのはジャラール・ウッディーンに対する謀殺計画のことであった。オグルがそれをジャラールに教え逃がしたために、それを主導しておったクトルグが怒り狂ったのだった。
オグルを捕らえて厳罰に処すべしと主張するクトルグに対し、「あの者は武将として有能です、モンゴルとの戦いにおいてはきっとお役に立つはず。またカンクリがカンクリを殺してはなりますまい。それにあの者は人望があります。ここで殺しては、むしろ我らがカンクリ内にての支持を失いかねませぬ」として何とか留めたのはシャイフであった。
ただそれで済んだ訳ではなかった。オグルは住民軍主体の南城に回され、更には南門周辺の住民勢との連絡係という屈辱的な役回りを命じられたのであった。しかし、それが縁でかような策を得るとは、我らにはまだ天運があるのかもしれぬ)
シャイフはその希望を糧に善は急げとばかりに、クトルグに面会の許しを請うために、オグルから先の伝令を借り受け、発した。
他方オグルの方は自らの料理人に、あらかじめ用意しておいたブドウ酒と羊肉料理を出すよう命じてから、急ぎ住民を呼びに向かった。
残されたシャイフは酒に弱いことを自覚するゆえ、そしてクトルグとこれから面会するかもしれぬことも考え、呑む方は我慢することにした。ただし料理の方は腹ごしらえとばかりにたっぷり頂くことにした。
ホラズム側
オグル・ハージブ かつてのブハーラーの守将。
シャイフ・カン かつてのサマルカンドの守将。
クトルグ・カン かつてのジャンドの城主。
戦況の推移とともに、3人ともウルゲンチに逃げて来たのである。
人物紹介終わり
「しかしクトルグ・カンは了承されるであろうか。その策を用いれば、我が軍の騎馬も役立たずとなる。あの誇り高き方が徒歩で戦うを納得されるであろうか」
シャイフのその問いに対して、オグルが答える。
「そこでそなたに来てもらったのだ。そなたはクトルグ・カンの信頼が殊の外厚く、我から見ればその右腕とさえ想えるほどだ。そなたならばあの御方も耳を貸そう。それにクトルグ・カンも自ら戦陣に立って来られたのだ。モンゴル軍の騎馬の精強さは我らが説くまでもなく十分承知されておろう。いかなカンクリの騎馬といえど相手が悪い。しかもこちらは部隊の逃走が続き、今では敵の方が明らかに多勢。ここで本丸まで失ってしまってはどうにもならぬというのは、分かっておられよう」
「うむ。しかし条件がある。そなたと策を申し出た住民も共に行くのだ」とシャイフ。
「住民には我から連絡しておく。しかし我は行かぬ方が良かろう。共に赴いては、却って、クトルグ・カンは首を縦に振らぬかもしれぬ」
「あの件か。確かにお怒りはまだ解けておらぬのかもしれぬ。しかしそれならばむしろ今回のことは名誉挽回の好機といえよう。良策を進言すれば、そなたに対する憶えも良くなろう。それにその堰というものを壊すのも、住民のみではなしえまい。そこまで赴かねばならぬのだから。モンゴル軍の目を盗んでであれ、カンクリ勢の護衛は必要のはず。そなたがそれを率いるならば、我もそうだが、住民が何より安心しよう。そなたを信ずるに足る者だとみなしたゆえにこそ、その策を持ち込んだのであろうから」
しばしの沈黙の後、「そうまで言うなら」オグルは渋々ながらも納得したようだった。
(あの件というのはジャラール・ウッディーンに対する謀殺計画のことであった。オグルがそれをジャラールに教え逃がしたために、それを主導しておったクトルグが怒り狂ったのだった。
オグルを捕らえて厳罰に処すべしと主張するクトルグに対し、「あの者は武将として有能です、モンゴルとの戦いにおいてはきっとお役に立つはず。またカンクリがカンクリを殺してはなりますまい。それにあの者は人望があります。ここで殺しては、むしろ我らがカンクリ内にての支持を失いかねませぬ」として何とか留めたのはシャイフであった。
ただそれで済んだ訳ではなかった。オグルは住民軍主体の南城に回され、更には南門周辺の住民勢との連絡係という屈辱的な役回りを命じられたのであった。しかし、それが縁でかような策を得るとは、我らにはまだ天運があるのかもしれぬ)
シャイフはその希望を糧に善は急げとばかりに、クトルグに面会の許しを請うために、オグルから先の伝令を借り受け、発した。
他方オグルの方は自らの料理人に、あらかじめ用意しておいたブドウ酒と羊肉料理を出すよう命じてから、急ぎ住民を呼びに向かった。
残されたシャイフは酒に弱いことを自覚するゆえ、そしてクトルグとこれから面会するかもしれぬことも考え、呑む方は我慢することにした。ただし料理の方は腹ごしらえとばかりにたっぷり頂くことにした。
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