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第3部 仇(あだ)
108 最終章 3
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人物紹介
モンゴル側
ブジル 百人隊長。タタル氏族
ホラズム側
ティムール・マリク:元ホジェンド城主。
人物紹介終わり
ティムール・マリクの出で立ちについては、すぐ後を追わせておる2騎から、既に報告を受けておった。最も派手な格好をしておるという。他方、王子はいずれがそうとは分からぬという。恐らく兵と同じ格好をしておるのだろう。
つまり外目にはティムール・マリクを将とする1隊の如くを装ってということである。モンゴルの目を警戒してのことであろうし、また現地人の中には密告に及ぶ者もおろう。
王子が目当ての人物というなら、ややこしいところだが、ティムールを付け狙うブジルにとっては、むしろ望ましいとさえ言えた。
月光の下、ブジルは初めてその1隊の姿を自らの目で捉えた。
敵も我らに気付いたろうが、馬速は上げぬ。恐らくこちらがより少数と知ってであろう。ならば、この接近は陽動に過ぎぬとみなしたか。
ブジルは隊を率いて更に近付く。やがて矢羽根の風を切る音がした。射られた騎馬はおらぬ。
昼でさえ、そうそうは当たらぬ距離が未だ開いておる。ましてや、月下。敵は矢にひるんで、こちらが追うを止めるを望んだのであろう。
ブジルはふと想い至る。そうか。王子の存在か。そうでなければ、一端、逃げるのをやめて、迎え撃つ。その策も採り得ようが、万一、王子が死んでは取り返しがつかぬ。数の差ほど、こちらが不利ではないということか。
「まだ当たらぬぞ。更に距離を詰める」
恐らく我らの勢いを止めんとしてであろう。敵は明らかに馬速を落としておった。しかし、王子を逃がすことを第一に考えるならば、全軍挙げてではあるまい。よくて半数。
なら一気に駆け抜けようぞ。目当ての者はまさにその先頭付近におるのだ。
ブジルの周りで次々に騎馬が転ぶ。
ブジル自身の身のそばにも、矢が飛んだのであろう。やはり、それは見えず、音のみした。
月下の敵影が大きくなる。
味方の一騎が射られた。
続いて、もう一騎。
「下がるな。このまま敵中に躍り込む」
敵をよけて前へ至ろうとしては、却って格好の的となろう。むしろ、突っ込むならば、こちらと激突するを嫌い、敵は馬を動かし、進路を開けよう。
果たして、どのくらいであろうか、抜けるを得たは。
そしてブジルもまた。
「狙うはティムール・マリク一人。誰ぞや、必ず成し遂げよ」
ブジルは吠えた。当然、隊の者へも己の想いは告げておった。とはいえ、己が成し遂げねば、どうするとの自負は無論この者の内にあった。
やがて周りは悲鳴・怒号・叫喚に満ちた。ブジルの隊が遂に追いすがったのである。最早、弓矢にて射合うには近すぎる間合いである。互いに早々にそれらを捨て、白刃をきらめかす乱戦となった。
モンゴル側
ブジル 百人隊長。タタル氏族
ホラズム側
ティムール・マリク:元ホジェンド城主。
人物紹介終わり
ティムール・マリクの出で立ちについては、すぐ後を追わせておる2騎から、既に報告を受けておった。最も派手な格好をしておるという。他方、王子はいずれがそうとは分からぬという。恐らく兵と同じ格好をしておるのだろう。
つまり外目にはティムール・マリクを将とする1隊の如くを装ってということである。モンゴルの目を警戒してのことであろうし、また現地人の中には密告に及ぶ者もおろう。
王子が目当ての人物というなら、ややこしいところだが、ティムールを付け狙うブジルにとっては、むしろ望ましいとさえ言えた。
月光の下、ブジルは初めてその1隊の姿を自らの目で捉えた。
敵も我らに気付いたろうが、馬速は上げぬ。恐らくこちらがより少数と知ってであろう。ならば、この接近は陽動に過ぎぬとみなしたか。
ブジルは隊を率いて更に近付く。やがて矢羽根の風を切る音がした。射られた騎馬はおらぬ。
昼でさえ、そうそうは当たらぬ距離が未だ開いておる。ましてや、月下。敵は矢にひるんで、こちらが追うを止めるを望んだのであろう。
ブジルはふと想い至る。そうか。王子の存在か。そうでなければ、一端、逃げるのをやめて、迎え撃つ。その策も採り得ようが、万一、王子が死んでは取り返しがつかぬ。数の差ほど、こちらが不利ではないということか。
「まだ当たらぬぞ。更に距離を詰める」
恐らく我らの勢いを止めんとしてであろう。敵は明らかに馬速を落としておった。しかし、王子を逃がすことを第一に考えるならば、全軍挙げてではあるまい。よくて半数。
なら一気に駆け抜けようぞ。目当ての者はまさにその先頭付近におるのだ。
ブジルの周りで次々に騎馬が転ぶ。
ブジル自身の身のそばにも、矢が飛んだのであろう。やはり、それは見えず、音のみした。
月下の敵影が大きくなる。
味方の一騎が射られた。
続いて、もう一騎。
「下がるな。このまま敵中に躍り込む」
敵をよけて前へ至ろうとしては、却って格好の的となろう。むしろ、突っ込むならば、こちらと激突するを嫌い、敵は馬を動かし、進路を開けよう。
果たして、どのくらいであろうか、抜けるを得たは。
そしてブジルもまた。
「狙うはティムール・マリク一人。誰ぞや、必ず成し遂げよ」
ブジルは吠えた。当然、隊の者へも己の想いは告げておった。とはいえ、己が成し遂げねば、どうするとの自負は無論この者の内にあった。
やがて周りは悲鳴・怒号・叫喚に満ちた。ブジルの隊が遂に追いすがったのである。最早、弓矢にて射合うには近すぎる間合いである。互いに早々にそれらを捨て、白刃をきらめかす乱戦となった。
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