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第3部 仇(あだ)

106:最終章 1

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   人物紹介
  ホラズム側
 前スルターン・アラー・ウッディーン・ムハンマド:ホラズム帝国の前君主。既に死亡。
 
 スルターン・ジャラール・ウッディーン:ホラズム帝国の現君主。前スルターンの長子。王子の時、分封地として、ガズナとグール(およそ現在のアフガニスタン)を与えられておる。

 ウーズラーグ・シャー:前皇太子。今は王弟。前スルターンの子供。母はカンクリの王女。
 
 アク・シャー:王弟。
   人物紹介終了



 ジャラールが父である前スルターン・ムハンマドに軍の指揮権を譲るように強く主張したのは、父がそれを認めさえすれば、かつての父の如くになれると考えたからであった。軍を率いてこのホラズムの版図を最大にまで広げた父の如くに。

 そして今にも死なんとしておるにもかかわらず、かつての布告を改めさせ、己を次のスルターンに指名するよう強く求めたのも、そのゆえであった。

 そしてその率いる軍は、代々のホラズム・シャーの中核軍としてのマルムークよりなるのみではない。祖父テキシュと祖母テルケン・カトンの結婚以来、強力な同盟相手となったカンクリ勢もまた己に従うはずであった。

 それゆえにこそ、父の死の後、ジャラールはすぐにウルゲンチに直行したのである。その地は代々ホラズム・シャーの御座所であったが、テキシュの死後その息子たるムハンマドによりテルケンに事実上与えられ、今やカンクリ勢の本拠の如くとなっておった。

 カンクリ勢が己をあるじとして諸手もろてを挙げて歓迎し、そして己の指揮権を受け入れ軍命に従うことを、ジャラールは当然のこととみなしておった。



 開門を請うジャラール一行――そこにはウーズラーグやアクなどの他の王族たちも付き添っておった――に対して、カンクリ勢は城門を開きはした。

 ただそれはあくまでジャラール謀殺の絶好の機会とみなしたゆえであった。その中心をなすは、かつてのジャンドの城主であり、七千の騎馬兵をその旗下に有するほどの有力者トゥージー・パフラワーン・クトルグ・カンであった。

 そもそもその動機はホラズム政権内での権力闘争のゆえであった。カンクリ勢からすれば、次のスルターンに就けようとしておったのは一族を母に持つウーズラーグ・シャーであり、ジャラールはその競争相手に他ならぬ。更にはジャラールの母はテルケンに忌み嫌われておった。

 実際、母の意向を受け入れて、前スルターン・ムハンマドはウーズラーグを後継者に指名しておったはずである。にもかかわらず、いきなりやって来て、自らが次のスルターンであると主張し、それで唯々諾々と従うと考える方がどうかしていると、カンクリ勢にすればなろう。



 とはいえさすがにジャラールに一人の味方もおらぬという訳ではなかった。

 オグル・ハージブ――ブハーラーからの逃走中にチンギスの使者ダーニシュマンドと面会し、殺すべしとの配下の進言を退け、テルケンの下へ連れて行くことを了承したあのオグルである。

 この者が、ジャラールに謀殺のたくらみが進行中であることを明かしたのであった。
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