138 / 206
第3部 仇(あだ)
96 第2次ファナーカト戦1:ティムール・マリクとブジル2
しおりを挟む
人物紹介
ホラズム側
ティムール・マリク:ホジェンド城主
モンゴル側
ブジル 百人隊長 タタル氏族
人物紹介終了
(前注 ファナーカトはシルダリヤ川の東岸(右岸)にあり、グーグルマップにて、「shahrukhiya」と入力すれば良い。この名の由来は、ティムール朝の開祖ティムール(本話のティムールとは何の関係もない)が再建し、その子のシャー・ルフにちなんで名づけたと伝わっております。
ところで、再建が必要なほどにはモンゴル軍により破壊されなかったろうと、つまり荒廃は他の原因であると、近代の歴史家バルトルドはジュワイニーの書の伝えるところに依拠して主張しています。私も同意見ですが、モンゴル軍は征服した城市・都城の城壁を破壊するを常としたので、それが遠因かもしれないとは想います。
現在、このshahrukhiyaのすぐ下流にアングレン川の支流が、そして少し離れた下流にその本流が(シルダリヤ川に)流れ込みます。800年前も同様であったか、あるいは、むしろすぐ下流の方が本流であったかは分かりません。しかし、いずれにしろ川の合流地には、土砂が堆積しやすく、ゆえに中州ができます。本話の戦いの場はそこです。
またホジェンド戦の前に、このファナーカトは陥落したと、ジュワイニーは伝えています。ですから、この時点では既にモンゴル占領下にあり、また第2次戦役であるわけです)
冬の凍てつく風が吹き始めて数日後の夜、ティムール・マリクは遂にホジェンド城塞を捨てる決断をなした。よもやの時のために準備しておった船七十艘に物資を積み込み、そして配下とその家族共々乗り込むと逃亡に入った。その様を船団自らがかかげる松明が煌々と照らしておった。
ティムールは、船団の周りに11隻の装甲船を配して、護衛の役を委ねておった。自らは残る1隻に己の家族とともに乗り込み、先頭近くにおった。
家族と同乗するか否かは迷うところであったが、別の船に乗せれば、それの護衛のための装甲船が必要になる。戦闘力の高い装甲船を有効に活用するには、これが最善の策と想われたのだ。
その他の船も、防火仕様ではないものの、この時に備え船上に屋根と側壁を急ごしらえしており、それが間に合わなかったものは、盾を船縁に並べておった。
先のサマルカンドにての軍議の後のこと。
ブジルは、母方のジェベ爺様にあらためて誘われておった。
我が指揮下に入らぬか。我はスルターン追討の命を受けた。滅多にない大功を挙げる機会ぞ。そなたが望むなら、我の方からカンに一言申し上げよう。さすれば、許してくださろう。シギ・クトクも反対はするまいと。
千人隊長である父は、この西征には参加しておらぬ。ために、ブジル百人隊はチンギス直属として従軍しており、ブハーラー、サマルカンド戦にては、同じタタル勢ということで、シギ・クトクの軍に配されておった。
いえ、武人たるもの、ブグラーの仇を討たねばなりませぬ、それにこれはスイケトゥ・チェルビとの約束ごとでもありますればとして、その誘いを断ったのだった。
そして、今、その脳裏には赤ん坊の姿があった。正妻との間に授かった生後1年にも満たない娘であった。
どうしてそんなあどけない顔が頭に浮かぶのか、と不思議に想う。
何せ、周りにおる者は己が百人隊のいかつい男ばかり。
更には川に沿って吹き抜けるは日ごとに冷たさを増し、今では痛くさえ感じる寒風である。
目に入るは、両岸を遠くに隔てる川面である。ブジルもやはり他のモンゴル兵同様泳げぬ。ゆえにその様は恐怖の感情しか生まぬ。
ホラズム側
ティムール・マリク:ホジェンド城主
モンゴル側
ブジル 百人隊長 タタル氏族
人物紹介終了
(前注 ファナーカトはシルダリヤ川の東岸(右岸)にあり、グーグルマップにて、「shahrukhiya」と入力すれば良い。この名の由来は、ティムール朝の開祖ティムール(本話のティムールとは何の関係もない)が再建し、その子のシャー・ルフにちなんで名づけたと伝わっております。
ところで、再建が必要なほどにはモンゴル軍により破壊されなかったろうと、つまり荒廃は他の原因であると、近代の歴史家バルトルドはジュワイニーの書の伝えるところに依拠して主張しています。私も同意見ですが、モンゴル軍は征服した城市・都城の城壁を破壊するを常としたので、それが遠因かもしれないとは想います。
現在、このshahrukhiyaのすぐ下流にアングレン川の支流が、そして少し離れた下流にその本流が(シルダリヤ川に)流れ込みます。800年前も同様であったか、あるいは、むしろすぐ下流の方が本流であったかは分かりません。しかし、いずれにしろ川の合流地には、土砂が堆積しやすく、ゆえに中州ができます。本話の戦いの場はそこです。
またホジェンド戦の前に、このファナーカトは陥落したと、ジュワイニーは伝えています。ですから、この時点では既にモンゴル占領下にあり、また第2次戦役であるわけです)
冬の凍てつく風が吹き始めて数日後の夜、ティムール・マリクは遂にホジェンド城塞を捨てる決断をなした。よもやの時のために準備しておった船七十艘に物資を積み込み、そして配下とその家族共々乗り込むと逃亡に入った。その様を船団自らがかかげる松明が煌々と照らしておった。
ティムールは、船団の周りに11隻の装甲船を配して、護衛の役を委ねておった。自らは残る1隻に己の家族とともに乗り込み、先頭近くにおった。
家族と同乗するか否かは迷うところであったが、別の船に乗せれば、それの護衛のための装甲船が必要になる。戦闘力の高い装甲船を有効に活用するには、これが最善の策と想われたのだ。
その他の船も、防火仕様ではないものの、この時に備え船上に屋根と側壁を急ごしらえしており、それが間に合わなかったものは、盾を船縁に並べておった。
先のサマルカンドにての軍議の後のこと。
ブジルは、母方のジェベ爺様にあらためて誘われておった。
我が指揮下に入らぬか。我はスルターン追討の命を受けた。滅多にない大功を挙げる機会ぞ。そなたが望むなら、我の方からカンに一言申し上げよう。さすれば、許してくださろう。シギ・クトクも反対はするまいと。
千人隊長である父は、この西征には参加しておらぬ。ために、ブジル百人隊はチンギス直属として従軍しており、ブハーラー、サマルカンド戦にては、同じタタル勢ということで、シギ・クトクの軍に配されておった。
いえ、武人たるもの、ブグラーの仇を討たねばなりませぬ、それにこれはスイケトゥ・チェルビとの約束ごとでもありますればとして、その誘いを断ったのだった。
そして、今、その脳裏には赤ん坊の姿があった。正妻との間に授かった生後1年にも満たない娘であった。
どうしてそんなあどけない顔が頭に浮かぶのか、と不思議に想う。
何せ、周りにおる者は己が百人隊のいかつい男ばかり。
更には川に沿って吹き抜けるは日ごとに冷たさを増し、今では痛くさえ感じる寒風である。
目に入るは、両岸を遠くに隔てる川面である。ブジルもやはり他のモンゴル兵同様泳げぬ。ゆえにその様は恐怖の感情しか生まぬ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

あやかし娘とはぐれ龍
五月雨輝
歴史・時代
天明八年の江戸。神田松永町の両替商「秋野屋」が盗賊に襲われた上に火をつけられて全焼した。一人娘のゆみは運良く生き残ったのだが、その時にはゆみの小さな身体には不思議な能力が備わって、いた。
一方、婿入り先から追い出され実家からも勘当されている旗本の末子、本庄龍之介は、やくざ者から追われている途中にゆみと出会う。二人は一騒動の末に仮の親子として共に過ごしながら、ゆみの家を襲った凶悪犯を追って江戸を走ることになる。
浪人男と家無し娘、二人の刃は神田、本所界隈の悪を裂き、それはやがて二人の家族へと繋がる戦いになるのだった。

空母鳳炎奮戦記
ypaaaaaaa
歴史・時代
1942年、世界初の装甲空母である鳳炎はトラック泊地に停泊していた。すでに戦時下であり、鳳炎は南洋艦隊の要とされていた。この物語はそんな鳳炎の4年に及ぶ奮戦記である。
というわけで、今回は山本双六さんの帝国の海に登場する装甲空母鳳炎の物語です!二次創作のようなものになると思うので原作と違うところも出てくると思います。(極力、なくしたいですが…。)ともかく、皆さまが楽しめたら幸いです!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。
SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。
伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。
そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。
さて、この先の少年の運命やいかに?
剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます!
*この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから!
*この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

帝国夜襲艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1921年。すべての始まりはこの会議だった。伏見宮博恭王軍事参議官が将来の日本海軍は夜襲を基本戦術とすべきであるという結論を出したのだ。ここを起点に日本海軍は徐々に変革していく…。
今回もいつものようにこんなことがあれば良いなぁと思いながら書いています。皆さまに楽しくお読みいただければ幸いです!
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる