(本編&番外編 完結)チンギス・カンとスルターン

ひとしずくの鯨

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第3部 仇(あだ)

59:オトラル戦22:カラチャル・ノヤンの迎撃(突破作戦2日目の夜)

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  人物紹介
 モンゴル側
チャアダイ:チンギスと正妻ボルテの間の第2子。オトラル攻めの共同指揮官。

カラチャル・ノヤン:チャアダイの家臣。万人隊長。バルラス氏族。ティムール朝の開祖ティムールの祖先とする史料も残るが、疑わしいとされている。例え、そうであれ、後世の者から見て祖先と仮託したくなるほどの、チャアダイ家きっての武将ということはいえよう。

  人物紹介終了



 カラチャル・ノヤンはチャアダイからの伝令に怒鳴り返しておった。

「こちらは動けぬ。大ノヤンご自身にて対応すべく、お伝えしろ」

(こんなところだけ、お父上に似なくとも良いのに)

 口に出す訳には行かぬことを心中に念じる。『こんなところ』というのは、気に入ると、その者にばかり何かと頼ることであった。

 カンもまたしかりであった。ボオルチュやムカリなどの四駿。義子たるシギ・クトク。そしてジェベやスブエテイなどの四狗。将はたくさんおるはずなのに、まず、この者たちを頼る。

 ただそれも分からぬ訳では無い。問題はそちらの方ではなく、『だけ』の方である。

(少しはカンを見習って、兵の命を重んじるべきであろう)

 これについては、それとなく大ノヤンに諭しておるのだが、聞いておらぬのか、聞こえておっても聞き入れる気がないのか、一向に改まるということがない。

(まったく)

 そしてその想いと同様、自らが直面する戦況もまた膠着しておった。二晩連続で敵は攻撃を仕掛けて来ており、まさに、こちらはその対応に追われておった。そしてその度に少なからずの死傷者が出るのである。

 その迎撃のために出向く戦場は、迷路の如くの都城の中であり、しかも半ば闇の中に矢を射るというありさまであり、ひるがえって、いつ矢が闇の中から飛んで来るか分からぬという、まさに当たるも八卦当たらぬも八卦のただ中に他ならなかった。
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