上 下
70 / 206
第3部 仇(あだ)

28:テルケン・カトンへの使者1:ダーニシュマンドの野心4

しおりを挟む
(前書きです
「ブハーラーの商人」の書き足しが難渋しているため、ダーニシュマンドの話を先にお届けすることにしました。
 時系列的には、同時進行なので、ひっくり返ってはないです。)

人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主

ダーニシュマンド・ハージブ:チンギスの臣。ホラズム出身の文官

イブン・カフラジ・ブグラー:問責の使者として赴き、スルターンに殺害される。


ホラズム側
スルターン・テキッシュ:ホラズム帝国の先代の君主。

テルケン・カトン:テキッシュの正妻。カンクリの王女。

スルターン・ムハンマド:ホラズム帝国の現君主。
   先代テキッシュとテルケン・カトンの間の子。

人物紹介終了



 ウルゲンチに向かうダーニシュマンドであるが、最初からその進みは勢い込んでというものでは全くなかった。
 そしてそれは旅程が進むにつれ、なお一層遅々としたものとなった。
 全てはその心の内を反映してであった。
 ただの使者ではない。
 今、戦争をしておる相手である。

 ただ、たまたま虫の居所が悪いということで殺される恐れはなかろうとは考えておった。
 ダーニシュマンドはチンギスに提案する前に、テルケン・カトンのについて情報をかき集めた。
 己の命がかかっておるのだから、当然といえる。

 余りにもの
――やはり余りにもの褒めちぎりを
――除くと、
――総じて賢明ではあるが非情であるとの人物評に落ち着いた。

 ダーニシュマンドはその賢明さの方に賭けたのだった。
 今回己が携える提案は十分に魅力的であると想われた。
 何も仲の悪い息子と一蓮托生になる必要はあるまい。
 更に聞くところでは、お気に入りの孫がおり、既にその者は皇太子に任ぜられておるという。
 息子の愚行の巻き添えを食らって共に滅びるより、領国は小さくとも孫を王としてやって行けば良い。
 賢明なというなら、それが分かるはずであった。

 他方で己が何か読み違いをしており、
――己の提案に何の魅力も感じないならば、
――非情と評されるテルケンである。
――何の痛痒つうようも感じずに、己を殺すだろう。
 少なくともその覚悟はできておるはずだった。

 ただその地へこまを進めるにつれ、ある恐れがずっしりとその心にのしかかって来ておった。
 隊商虐殺も問責の使者殺害も、積極的に進めたのはスルターンであれ、テルケンも賛同したのではないか。
 その可能性を全く排除することはできなかった。
 もしそうならば、
――我の今回の赴きはテルケンの判断をなじることになり、
――これは殺されに行くようなものかもしれぬ。

 自信家のこの者でさえ、
――その心はおびえに捉えられ始めており、
――そしてまるでそれが馬に以心伝心した如くに、
――その一歩一歩は重々しいものとなっておった。

 そして同行の二人のモンゴル人使者も、護衛隊も、文句を言うことはなかった。
――果たして文官たる己の進みはこんなものと、そう想いなしてくれておるのか。
――それともやはり彼ら自身の命への名残惜しさのゆえに、足が進まぬのか。
――この者たちも問責の使者たるブグラーがどうなったかは当然知っていよう。
――いずれにしろダーニシュマンドには、ありがたかった。



(後書きです
 相変わらず、難渋が予想されるため、次話はダーニッシュマンドの語の説明などを予定しております。
 多分、とても短いです。)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

内政チート講座(´・ω・`)漫画つき~

パルメさん(´・ω・`)
歴史・時代
(´・ω・`)漫画村のきつねっこに、投稿していた内政ネタ記事と、その漫画。 (´●ω●`)この記事を読んだおかげで、貧乏な村が大帝国になりました! by 内政オリ主A (´†ω†`)ゴブリンの大物量相手でも、一方的に倒せるようになりました!銃最高です! by 軍事指導者B (´✖ω✖`)どんどん産業を作って、平民どもが金持ちになった!なぜだ! by 暴君Cさん (´;ω;`)騙されちゃ駄目よ!内政チートは基礎がないと出来ないの! by 常識人D

幕末任侠伝 甲斐の黒駒勝蔵

海野 次朗
歴史・時代
三作目です。今回は甲州・山梨県のお話です。 前の二作『伊藤とサトウ』と『北武の寅』では幕末外交の物語を書きましたが、今回は趣向を変えて幕末の博徒たちの物語を書きました。 主人公は甲州を代表する幕末博徒「黒駒の勝蔵」です。 むろん勝蔵のライバル「清水の次郎長」も出ます。序盤には江川英龍や坂本龍馬も登場。 そして後半には新選組の伊東甲子太郎が作った御陵衛士、さらに相楽総三たち赤報隊も登場します。 (※この作品は「NOVEL DAYS」「小説家になろう」「カクヨム」にも転載してます) 参考史料は主要なものだけ、ここにあげておきます。それ以外の細かな参考資料は最終回のあと、巻末に掲載する予定です。 『黒駒勝蔵』(新人物往来社、加川英一)、『博徒の幕末維新』(ちくま新書、高橋敏)、『清水次郎長 幕末維新と博徒の世界』(岩波新書、高橋敏)、『清水次郎長と明治維新』(新人物往来社、田口英爾)、『万延水滸伝』(毎日新聞社、今川徳三)、『新・日本侠客100選』(秋田書店、今川徳三)、『江戸やくざ研究』(雄山閣、田村栄太郎)、『江川坦庵』(吉川弘文館、仲田正之)、『新選組高台寺党』(新人物往来社、市居浩一)、『偽勅使事件』(青弓社、藤野順)、『相楽総三とその同志』(講談社文庫、長谷川伸)、『江戸時代 人づくり風土記 19巻 山梨』(農山漁村文化協会)、『明治維新草莽運動史』(勁草書房、高木俊輔)、『結城昌治作品集』より『斬に処す』(朝日新聞社、結城昌治)、『子母沢寛全集』より『駿河遊侠伝』『富岳二景』(講談社、子母沢寛)など。

三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河

墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。 三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。 全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。 本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。 おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。 本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。 戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。 歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。 ※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。 ※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

箱根の黑躑躅~源三郎 黄金探索記1 (1,2章)

中村憲太郎
歴史・時代
秀吉により壊滅した根来忍軍の残党を使って各大名の忍び活動などを仕切っている根来の権助の元に箱根の大久保長安の埋蔵金についての探査の依頼があった。 前年に幕府も大規模な探索行っていたが発見には至らなかった。 各地の大名、大商人のもとには様々な情報が入っており、箱根は一攫千金を目指す輩であふれていたようだ。 埋蔵金を探せという依頼ではなく、現在の箱根全体の状況の把握ということだったので、受けることにした。根来の旧知の2名と甲賀の源三郎を招集して、東海道を箱根に向かった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...