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第3部 仇(あだ)
21:オトラル戦17:モンゴルのハルカスン隊の侵入2
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人物紹介
オゴデイ:同上の第3子。オトラル攻めの共同指揮官。
アルチダイ:オゴデイ家の家臣。万人隊長。
ハルカスン:オゴデイ家の家臣。アルチダイの息子。百人隊長。
副官:ハルカスン百人隊の副官。
人物紹介終了
ハルカスンはまだ囲みが終わっておらぬことを期待して、己のみ外に出てみることにした。
「皆の者。
まずは我が外の様子を見る。
呼びかけたら、後に続け。」
近くの者の顔さえもはっきり見えぬ。
皆が状況を理解するのも待たず、
――当然返答もない中を、
――戸口に向かった。
ハルカスンは外に出て、周りをうかがう。
全ては闇に沈んでおった。
何かが動く気配もなかった。侵入して来たとおぼしき方を見やる。
ここからでは城壁そのものは死角になっておった。
しかし建物越しに、ほんのり上方が明るくなっているのは見えた。
恐らくホラズムの守備隊によるものであろう。
夜陰に乗じてのモンゴル軍の侵入を警戒しておるのだ。
ハルカスンらが突破した城壁破損部を照らしておるに違いなかった。
それを目指して進むしかない。
(既に囲まれておるのか)
恐怖が身の内に湧き上がる。
ハルカスンは盾で頭をかばいながら身を低くして建物から出た。
矢を射かけては来なかった。
更にその体勢のままにもう少し歩いて、戸口を離れてみる。
――空いている方の手で建物の外壁を確認しつつ。
やはり射かけては来なかった。
ただし、あの足音は確かにまだ続いておった。
(まだ囲まれておらぬ)
ハルカスンは、「行くぞ」と建物の内に留まっておる者たちに声をかけた。
その時までには、
――先ほどハルカスンが言ったことをようやく理解して、
――隊の者たちが戸口に詰めかけておった。
1隊はなるべく足音を立てぬようにして歩き出した。
そして少しばかり歩いて路地を抜け、より広い通りに出た。
城壁を煌々と照らす松明の群れが直接確認できた。
その時であった。
不意にカチッカチッと音がした。
何の音かはっきりとせぬが、それをほとんどの者が聞いたようであった。
想わず足を止め、その音の方向を探すべく周囲をうかがっておった。
一人の者が声を発した。
「足音が消えている。」
「どういうことだ。」とハルカスンが、
――「罠だ。」と副官が、
――ほぼ同時に叫んだ。
そしてそれを合図とする如く、
――上方で炎が上がると、
――それがハルカスンたちの方に向かって落ちて来た。
ただそれが地に落ちるのを眺める余裕のある者は一人もおらなかった。
矢が降りそそぎ、
――ある者は命を断たれ、
――ある者は傷を負い、
――ある者はその先に待つであろうものにひるむことすら許されず、灯りを頼りに侵入口へと逃亡を図るしかなかった。
結局のところ、城壁の外へ逃げおおせた者はハルカスンを含めわずかであり、
――副官を含め残りは殺されたのか捕らえられたのか判然とせぬが、その後も逃げて来ることはなかった。
ハルカスンは恐怖と後悔の余り、戻った後も震え続けるしかなかった。
父アルチダイが心配して、兵に命じていくら火を焚かせても、その震えが止まることはなかった。
オゴデイ:同上の第3子。オトラル攻めの共同指揮官。
アルチダイ:オゴデイ家の家臣。万人隊長。
ハルカスン:オゴデイ家の家臣。アルチダイの息子。百人隊長。
副官:ハルカスン百人隊の副官。
人物紹介終了
ハルカスンはまだ囲みが終わっておらぬことを期待して、己のみ外に出てみることにした。
「皆の者。
まずは我が外の様子を見る。
呼びかけたら、後に続け。」
近くの者の顔さえもはっきり見えぬ。
皆が状況を理解するのも待たず、
――当然返答もない中を、
――戸口に向かった。
ハルカスンは外に出て、周りをうかがう。
全ては闇に沈んでおった。
何かが動く気配もなかった。侵入して来たとおぼしき方を見やる。
ここからでは城壁そのものは死角になっておった。
しかし建物越しに、ほんのり上方が明るくなっているのは見えた。
恐らくホラズムの守備隊によるものであろう。
夜陰に乗じてのモンゴル軍の侵入を警戒しておるのだ。
ハルカスンらが突破した城壁破損部を照らしておるに違いなかった。
それを目指して進むしかない。
(既に囲まれておるのか)
恐怖が身の内に湧き上がる。
ハルカスンは盾で頭をかばいながら身を低くして建物から出た。
矢を射かけては来なかった。
更にその体勢のままにもう少し歩いて、戸口を離れてみる。
――空いている方の手で建物の外壁を確認しつつ。
やはり射かけては来なかった。
ただし、あの足音は確かにまだ続いておった。
(まだ囲まれておらぬ)
ハルカスンは、「行くぞ」と建物の内に留まっておる者たちに声をかけた。
その時までには、
――先ほどハルカスンが言ったことをようやく理解して、
――隊の者たちが戸口に詰めかけておった。
1隊はなるべく足音を立てぬようにして歩き出した。
そして少しばかり歩いて路地を抜け、より広い通りに出た。
城壁を煌々と照らす松明の群れが直接確認できた。
その時であった。
不意にカチッカチッと音がした。
何の音かはっきりとせぬが、それをほとんどの者が聞いたようであった。
想わず足を止め、その音の方向を探すべく周囲をうかがっておった。
一人の者が声を発した。
「足音が消えている。」
「どういうことだ。」とハルカスンが、
――「罠だ。」と副官が、
――ほぼ同時に叫んだ。
そしてそれを合図とする如く、
――上方で炎が上がると、
――それがハルカスンたちの方に向かって落ちて来た。
ただそれが地に落ちるのを眺める余裕のある者は一人もおらなかった。
矢が降りそそぎ、
――ある者は命を断たれ、
――ある者は傷を負い、
――ある者はその先に待つであろうものにひるむことすら許されず、灯りを頼りに侵入口へと逃亡を図るしかなかった。
結局のところ、城壁の外へ逃げおおせた者はハルカスンを含めわずかであり、
――副官を含め残りは殺されたのか捕らえられたのか判然とせぬが、その後も逃げて来ることはなかった。
ハルカスンは恐怖と後悔の余り、戻った後も震え続けるしかなかった。
父アルチダイが心配して、兵に命じていくら火を焚かせても、その震えが止まることはなかった。
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