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第3部 仇(あだ)
13:オトラル戦10:カンクリ騎馬軍の出撃1
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人物紹介
ホラズム側
イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。
ソクメズ:イナルチュクの側近にして百人隊長。カンクリ勢
トガン:同上
ブーザール:同上
人物紹介終了
モンゴル側は、狙い撃ちにはほど遠いことを見透かしたようであった。
見張りの者を置き、大石が当たりそうな時のみ、投石機と大楯を置き去りにして逃げるという方策を取り始めた。
これでは組立てを防げぬと判断せざるを得なかった。
イナルチュクは直属のカンクリ勢の騎馬隊を差し向けることにした。
まずは組立てが最も進んでおるとおぼしき北側の敵を叩くことにした。
かたわらに多数控える側近の中からまだ若いトガンを抜擢し、その指揮を命じた。
任務を託されたことから来る重圧と活躍の場が与えられたことの喜びがない交ぜとなり、この者の整った顔立ちを崩した。
ひざまずいての「承りました。」とのトガンの答えに、イナルチュクは告げた。
「敵の大部隊が出て来たら、速やかに退却せよ。
いかほどの軍勢が必要か。」
「速やかに城門内に戻って来る必要があることを踏まえますと、数は少ない方が良いと考えます。
投石機周りの護衛を討つのは、わたくしの百人隊で十分です。
投石機を破壊するための百人隊を、別にお借りできればと想います。」
「ブーザールの百人隊を連れて行け。
あの部隊はこうした働きのために訓練を積んでおる。
それから城門に戻る際は援護する。」
「承りました。」
イナルチュクの提案に対して是非を言う権利は己にないと考えておるのか、トガンは即座に返答した。
「ブーザールよ。そういう訳だ。
トガンに従って、出陣せよ。」
「はっ。承りました。」
これまた即座に答えが返って来た。
その声が甲高く響いたのは緊張のゆえか。
ただ、今は、それを笑う者はおらぬ。
「両名とも早速に準備に取りかかれ。
それからソクメズよ。
二人はまだ若い。
そなたの沈着冷静な判断が必要になろう。
配下の隊を率いて、この者たちを助けよ。」
その歴戦の労苦をしわにて刻み込み、
――その戦にて得たものを脂肪とした如くの太りじしのソクメズは、
――心得ておりますと言いたげな目配せのみで、その命を受けた。
それが許されるのも、長きに渡る主従の間柄、
――そしてそれ以上に共に死線をくぐり抜けて来た者の間にのみ生じる互いに対する信頼のゆえであった。
「ソクメズが撤退の必要ありと判断した時には、二人ともそれに従え。
敵を深追いすることは避けよ。
良いな。」
ひざまずいて拝命した若い二人に対しては、最後にそう付け加えた。
長身で引き締まった体のトガンが駆け出し、その後を短軀のブーザールが遅れまいと追おうとする。
それをソクメズは大声を出して呼び戻した。
そして二人に敵軍の配置を城壁上から確認するよううながしてから、どうやって攻めるかを三人で話し合った。
作戦が決まると、ソクメズは二人が階下へと駆け出すのを許し、イナルチュクに「それでは行って来ます。」と告げてから、落ち着いた足取りで後を追った。
イナルチュクは、すぐ近くでやはり戦況を見つめておったカラチャの方に歩み寄った。
別の大部隊を率いるカラチャがかたわらにおったのは、この危難の時に際し両軍の協力こそ必要なものであるとして、イナルチュクの方から頼み、カラチャも無論のこととそれを快く引き受けたゆえであった。
「これから騎馬隊を、モンゴルの投石機を破壊するために差し向けます。
城門の出入りの際、貴殿の弓兵部隊による援護をお願いしたい。
特に退却時にモンゴルの騎兵に追撃される恐れがあるので、その時はよろしく頼みます。」
ホラズム側
イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。
ソクメズ:イナルチュクの側近にして百人隊長。カンクリ勢
トガン:同上
ブーザール:同上
人物紹介終了
モンゴル側は、狙い撃ちにはほど遠いことを見透かしたようであった。
見張りの者を置き、大石が当たりそうな時のみ、投石機と大楯を置き去りにして逃げるという方策を取り始めた。
これでは組立てを防げぬと判断せざるを得なかった。
イナルチュクは直属のカンクリ勢の騎馬隊を差し向けることにした。
まずは組立てが最も進んでおるとおぼしき北側の敵を叩くことにした。
かたわらに多数控える側近の中からまだ若いトガンを抜擢し、その指揮を命じた。
任務を託されたことから来る重圧と活躍の場が与えられたことの喜びがない交ぜとなり、この者の整った顔立ちを崩した。
ひざまずいての「承りました。」とのトガンの答えに、イナルチュクは告げた。
「敵の大部隊が出て来たら、速やかに退却せよ。
いかほどの軍勢が必要か。」
「速やかに城門内に戻って来る必要があることを踏まえますと、数は少ない方が良いと考えます。
投石機周りの護衛を討つのは、わたくしの百人隊で十分です。
投石機を破壊するための百人隊を、別にお借りできればと想います。」
「ブーザールの百人隊を連れて行け。
あの部隊はこうした働きのために訓練を積んでおる。
それから城門に戻る際は援護する。」
「承りました。」
イナルチュクの提案に対して是非を言う権利は己にないと考えておるのか、トガンは即座に返答した。
「ブーザールよ。そういう訳だ。
トガンに従って、出陣せよ。」
「はっ。承りました。」
これまた即座に答えが返って来た。
その声が甲高く響いたのは緊張のゆえか。
ただ、今は、それを笑う者はおらぬ。
「両名とも早速に準備に取りかかれ。
それからソクメズよ。
二人はまだ若い。
そなたの沈着冷静な判断が必要になろう。
配下の隊を率いて、この者たちを助けよ。」
その歴戦の労苦をしわにて刻み込み、
――その戦にて得たものを脂肪とした如くの太りじしのソクメズは、
――心得ておりますと言いたげな目配せのみで、その命を受けた。
それが許されるのも、長きに渡る主従の間柄、
――そしてそれ以上に共に死線をくぐり抜けて来た者の間にのみ生じる互いに対する信頼のゆえであった。
「ソクメズが撤退の必要ありと判断した時には、二人ともそれに従え。
敵を深追いすることは避けよ。
良いな。」
ひざまずいて拝命した若い二人に対しては、最後にそう付け加えた。
長身で引き締まった体のトガンが駆け出し、その後を短軀のブーザールが遅れまいと追おうとする。
それをソクメズは大声を出して呼び戻した。
そして二人に敵軍の配置を城壁上から確認するよううながしてから、どうやって攻めるかを三人で話し合った。
作戦が決まると、ソクメズは二人が階下へと駆け出すのを許し、イナルチュクに「それでは行って来ます。」と告げてから、落ち着いた足取りで後を追った。
イナルチュクは、すぐ近くでやはり戦況を見つめておったカラチャの方に歩み寄った。
別の大部隊を率いるカラチャがかたわらにおったのは、この危難の時に際し両軍の協力こそ必要なものであるとして、イナルチュクの方から頼み、カラチャも無論のこととそれを快く引き受けたゆえであった。
「これから騎馬隊を、モンゴルの投石機を破壊するために差し向けます。
城門の出入りの際、貴殿の弓兵部隊による援護をお願いしたい。
特に退却時にモンゴルの騎兵に追撃される恐れがあるので、その時はよろしく頼みます。」
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