(本編&番外編 完結)チンギス・カンとスルターン

ひとしずくの鯨

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第3部 仇(あだ)

11:オトラル戦8

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人物紹介
ホラズム側
イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。

人物紹介終了

 イナルチュクは次のモンゴル軍の動きに驚くこととなった。
 それを自分の目でも確認し、想わずつぶやく。

「あやつら、あれを用いるのか。」

 その顔は引き歪んでおった。
 モンゴル軍が、オトラルのぐるりを囲む位置にて、投石機をいくつも組立て始めておったのだ。

 その攻め手は騎馬によるものとたかをくくっておった。
 ならば野戦に応じず、堅く守ることで、この大軍をしのげるのではないか。
 矢も命じて新たに大量に作らせた。
 城下にモンゴル兵が押し寄せたならば、にて応じ、死体の山に変えてくれよう。
 そう意気込んでさえおった。

 敵に城壁を崩されれば、オトラルはどうなってしまうか。

 しかしイナルチュクは経験ある武将であった。
 自らに物想いに沈むことを許す気はなかった。
 早速、投石隊の長を呼び、自軍の投石機の配備を命じた。

「石は十分か。」

「以前から蓄えておるものがあります。
それでしばらくは持ちます。
しかし投石機で撃ち合うことは予想しておらず、十分かと問われますと・・・・・・。」

とそこで言葉をにごした。

 ただ叱りつけることはできなかった。
 騎兵を相手にしては、素早く狙いを変えることのできぬ投石機は有効な兵器とはいえず、使うことはほぼなかろう、
――そうイナルチュク自らが想いなしたのだ。
――そして、それゆえにこそ、新たに石の備蓄を増やせとの命も出しておらなかったのである。
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