(本編&番外編 完結)チンギス・カンとスルターン

ひとしずくの鯨

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第3部 仇(あだ)

6:オトラル戦3

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人物紹介
ホラズム側
スルターン:ホラズム帝国の君主。
イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。

人物紹介終了


 イナルチュクが見下ろす先には、信じがたいほどの大軍がおった。
 半月ほど前に初めて姿を見せたモンゴル軍は、最初こそ城門前で挑発して来た。
 しかし、それも一度きりのことであった。
 
 その後は、かなり距離を開けて集結する様を見せておった。
 こちらの奇襲を警戒してのことであろうと想われた。

 しかし、今ではその距離を縮め、続々とここを囲む如くに軍を展開しておった。

 その軍勢の規模は明らかに、チンギス・カンがオトラルに主力を振り向けたことを示しておった。
 スルターンのおるサマルカンドへ攻め入ることを前提とするならば、ホジェンド経由の方が明らかに近い。
 あえてオトラルに進軍した理由は、恐らくただ一つ。
 まさに、あだとして我の首を取りに来たに他ならなかった。

 イナルチュクは、スルターンから聞いておった。
 チンギス・カンが問責もんせきの使者を送り、我の首を求めて来たことを。
 そしてスルターンがその者の首を斬り落として、その返事に代えたことも。

 イナルチュクは正直、想わざるを得ぬ。
 こちらが殺したのは、隊商の百人ちょっと、それに先の使者1人。
 そのわずかの仇を討つために、あの遠き地から、これほどの軍を率いて来たのか。
 恐らくチンギス・カンという男はまともな人間ではないのであろう。
 そう想うとともに、まさにその男に己がねらわれていると考えると、首筋くびすじ寒気さむけを感じずにはおれなかった。

(後書きです  本話中の使者のエピソードは1部終章の『問責の使者1』に記しております。 )
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