(本編&番外編 完結)チンギス・カンとスルターン

ひとしずくの鯨

文字の大きさ
上 下
45 / 206
第3部 仇(あだ)

3:サイラームのモンゴル軍

しおりを挟む
人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主

トゥルイ:チンギスと正妻ボルテの間の第4子。

ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。

シギ・クトク:チンギスの寵臣。戦場で拾われ正妻ボルテに育てられた。タタルの王族。

スブエテイ・バートル:チンギスの臣。四狗の一人。ウリャンカイ氏族。

バラ・チェルビ:トゥルイ家の家臣。ジャライル氏族。


ホラズム側
スルターン:ホラズム帝国の君主。

人物紹介終了



 オトラル、サマルカンド、ウルゲンチなどの間諜かんちょう(スパイ)からの情報は、前衛として展開しておるスベエテイの下に一端まとめられる。
 そして数日おきに、スブエテイから報告が来る。
 この日も情報がもたらされた。
 司令部とも言うべき大きな天幕ゲルの内にて、伝令はチンギスの前にひざまずくと口を開いた。

「オトラルに大きな動きがありました。
 カラチャという将軍に率いられた大軍が入城したとのことです。
 オトラル城内にての噂では、万人隊とのこと。」

 その報告には直接意見を述べることなく、チンギスは別のことをたずねた。

「やはりスルターンはサマルカンドを離れぬのか。」

「はい。いずこかに移動したとの報告は届いておりませぬ。
 ただ伝えられてくるは、サマルカンドにては相変わらず防備の増強が図られておるとのことのみです。」

「トゥルイよ。ホラズムのこの動き。どう想うか。」

「そのカラチャの部隊がオトラルの防衛強化のために入城したのか、それともスルターンに先行してのオトラル入りなのか、はっきりしませぬ。
 スルターン自ら迎撃に出向いて来る気があるのか否か、今回の動きのみで判断するは早計かと考えます。
 ここは情報を集めつつ、これまで通り野戦前提で待つのがよろしいかと。」

「ボオルチュ。そなたの考えを聞かせてくれ。」

「ここに到着して既に半月ほど。
 当然スルターンの耳にも入っておりましょう。
 更に言えばモンゴルがこの地に向け進軍しておることは、ずっと前に知り得たはず。
 それにしては各地の軍がサマルカンドに集結しておるとも、オトラルを目指しておるとも聞きませぬ。
 いわば今回のが唯一の例外と言いうるもの。
 決戦せんとして出撃を予定しておるにしては、明らかに軍の動きが少な過ぎます。
 ホラズム側としては既に兵の配置をあらかた終えておるのかもしれませぬ。
 とすればやはり籠城ろうじょう覚悟かと考えます。」

「シギ・クトクはどう想うか。」

「わたくしはカンクリの動きが気になります。
 スルターンにその気はなくとも、あの者たちは出撃して来るのではと考えます。
 彼らもわたくしたちと同じ騎馬の民。
 城にもって守るより、野で攻め合うを好み、また得手としましょうから。」

「バラはいかなる考えか。」

 そのようにしてチンギスは他の側近からも意見を聞いた後、次の如くに告げた。

「ボオルチュの読みは我も妥当だと想うが、一方で全てが手はず通りに行かぬことは我らも良く知るところ。
 準備に手間取っておるだけかもしれぬ。
 あせって攻め急いで兵馬の損失を増やすは、愚かというもの。
 トゥルイの言に従い、今しばらくはここに留まり様子を見よう。
 敵が攻め上がって来るなら、それこそ我らの望むところ。
 野戦で一気に片を付けてくれようぞ。
 ただ敵が出て来ないようでは、城攻めも仕方あるまい。
 ボオルチュよ。
 オトラルへ向け進軍する場合に備え、その最善の時を定め、我に報告せよ。」
 更には
「そしてシギ・クトクよ。
 もしカンクリ勢が攻め込んで来たら、どう攻め合うが良いか。その策が必要となるやもしれぬ。考えておけよ。」

 そして他の側近にもそれぞれに宿題を与えた。
 その後ボオルチュからは以下の如くの進言があった。
 チンギスは敵迎撃軍の出撃がなければ、それに従うことを決めた。

『オトラルはシルダリヤ川という大河沿いにあるとのこと。
 冬となれば、川もこおります。
 進軍をはばむものはなくなります。
 また、かの地にては馬草まぐさの確保に苦労するやもしれませぬ。
 この周辺で更に軍馬を太らせましょう。
 進軍は川がこおってからが最善と考えます。』
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

空母鳳炎奮戦記

ypaaaaaaa
歴史・時代
1942年、世界初の装甲空母である鳳炎はトラック泊地に停泊していた。すでに戦時下であり、鳳炎は南洋艦隊の要とされていた。この物語はそんな鳳炎の4年に及ぶ奮戦記である。 というわけで、今回は山本双六さんの帝国の海に登場する装甲空母鳳炎の物語です!二次創作のようなものになると思うので原作と違うところも出てくると思います。(極力、なくしたいですが…。)ともかく、皆さまが楽しめたら幸いです!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

帝国夜襲艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1921年。すべての始まりはこの会議だった。伏見宮博恭王軍事参議官が将来の日本海軍は夜襲を基本戦術とすべきであるという結論を出したのだ。ここを起点に日本海軍は徐々に変革していく…。 今回もいつものようにこんなことがあれば良いなぁと思いながら書いています。皆さまに楽しくお読みいただければ幸いです!

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

連合艦隊司令長官、井上成美

ypaaaaaaa
歴史・時代
2・26事件に端を発する国内の動乱や、日中両国の緊張状態の最中にある1937年1月16日、内々に海軍大臣就任が決定していた米内光政中将が高血圧で倒れた。命には別状がなかったものの、少しの間の病養が必要となった。これを受け、米内は信頼のおける部下として山本五十六を自分の代替として海軍大臣に推薦。そして空席になった連合艦隊司令長官には…。 毎度毎度こんなことがあったらいいな読んで、楽しんで頂いたら幸いです!

処理中です...