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最終章 エリザベト

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 かねてからの疑問。
 乙女ゲームの中で、怒り心頭に発し、皇子の下に赴いたエリザベト。
 反乱の決意を固めて隣国に駆け込んだのなら、何ゆえに公爵領に戻ったのだろうか?
 しかも、ずい分とあっさりとエリザベトは国軍に捕らえられてしまう。
 戦争の準備のためだとしても、ならば頼った皇子を伴おう。
 皇子は軍勢を率いるはずである。
 何らかの事情で、皇子が赴かぬとしても、少なくとも隣国は援軍を出そう。

 そこで私は皇子がポンコツなのだろうと考えておった。
 せっかくエリザベトが赴き、助けを頼んだのに、水泡に帰さしめた。
 何にもならなかったのである。



 ただ実際のアンドラーシュは違った。
 お義母様かあさまとの交渉を含めて、実際に軍勢を整えてくれたのは彼だ。
 もしかしたら、エリザベトは敵国と通じなかったのかもしれない。
 あんな目に会わされながら、決心がつかなかったのかもしれない。

 王太子の手紙にあった浮ついた愛の言葉を、信じ続けたのかもしれない。
 確かに、あれらの言葉は、こちらに恋心があれば、むしろうれしいものとなるのであろうし、
――ああ言われれば、そこに愛が無いことを見破るのは、むずかしいのかもしれない。

 いずれにしろ、そうこうしているうちに、王太子に次の一手を打たれて、王府からの訴状が届いた。



 これも前から疑問に想っていたことだけど、ゲームの中での公爵領への国軍の進駐が、どうも、あっさり過ぎる。
 国軍の3分の1の軍勢を備えるなら、結果は変わらずとも、もう少し持ちこたえられるはずである。
 考えられるのは、公爵も全く戦う準備をしておらなかったこと。

 それはエリザベトが出頭に応じる気があったせいではないか?
 王太子の手紙に記されたその請いに従って、反証を得ようとしたのではないか。
 そして、それを依頼する急使をマガツ国に送った。
 アンドラーシュが、その恋心ゆえに、エリザベトを助けるべく、何か一筆、反証として与えたであろうことは想像に難くない。

 反証を手に入れ、これで安心と胸をなで下ろしておるところ。
 まさにそこを狙い撃ちする如くに、
――ゆえに当然、審問の期日の前に、
――王太子は捕縛の軍を公爵領に進駐させた。
 こう考えると、一番しっくりくる。

 エリザベトはそもそも隣国に赴かなかったから、公爵領にて捕縛された。
 国軍があっさり進駐できたのも、当然と言える。
 アンドラーシュが頼まれたのは反証、ならば、軍を出すはずもない。
 また公爵領も当然防備を固めるはずもない。



 あれ・・・・・・?
 私は何を考えているのだ?
 混乱しておる。
 混ぜ合わせておるぞ。
 私の転移したエリザベトとゲームの中のエリザベトを。
 それに親友たちの目論見は私が転移したので防ぐを得たはず。

 私はまた何かを見落としているのか?
 先はエリザベトの恋心であった。
 まだ、私が知らぬエリザベトのこと。そんなの一杯ある。

 ただ、この私の推測
――何の推測だろう?
が正しいとすれば、
 国軍はあの期日の前に動くと言うことになるのではないか?。



 そこで私はお二人に、審問の期日に余裕をもって到着できるよう、できるだけ急いだ方が良いかもしれないと告げた。
 念には念を入れてと想ったのだ。

 それに対して、チイねえはこう答えた。

「このまま進むようでは、間に合わないかもしれない。
 そう、憂いておったところです。
 いざとなれば、2隊に分け、私が一方を率いて先行し、残りの隊をレオポルトが率いてお嬢様を護衛しつつ進むしかないか。
 そう、考えておりました」

 それもあってであろう。
 この後の行軍速度は、なかなかえげつないものとなった。


 私たちは、替え馬に糧食や武器・防具を載せ替えた後に、再出発したのであった。
 輜重隊は、後から追って来いとして、切り離したのであった。

 そもそもお二人は武術の達人というほどの、運動神経と体力の持ち主。
 自ずと乗馬の腕も相応のものとなる。

 そして今率いる軍勢はマガツ国の騎馬軍。
 騎馬民族の血を淵源に持つお国柄となれば、その腕はお二人に劣らぬとなる。

 そして、私はといえば、エリザベトの才能にずい分助けられておるのだろうが。
 まさにゴリねえに下手ッピになったと言われた如く、その腕はずい分と落ちたようであり、

(もう。お尻が痛くて泣きそうなんだけど)

(ゴリねえ。私を下手ッピと言ったこと、忘れてない!)

(チイねえも。少しは私に気をつかいなさいよ!
 美少年だからって、何でも許されると想ったら、大間違いよ!)

 ただ私のせいで、隊を2つに分けるほど、不本意なことはない。
 それにチイねえ・ゴリねえ、そろってこそ最強であろうとも想う。

(聞いてる!
 このゴリラ!
 この小っこいの!
 聞いてるの!)

 心の中で叫びつつ、私は遅れまいと、必死でドンじりあたりをついて行った。

(ダジャレじゃないぞ!)

(『我のお墨付きを得て、我が名を冠するエリザベト隊はまさに疾風迅雷の行軍速度にて一路、オーゼンシュタインの王都を目指した』・・・・・・なんて格好つけて言ってられないの!)

(お尻が痛いの!)
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