悪役令嬢は軍略家――何としてでも私を殺そうとする乙女ゲームの世界に宣戦布告す

ひとしずくの鯨

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第3章 軍略家 新谷 百花(しんたに ももか)

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 迂回軍がどれだけ必要かと言うことは、お二人と皇子に任せた。
 実際に王都制圧と王太子捕縛を行うのはお二人だし、
 軍勢を貸すのは皇子だ。
――更には、お義父様とうさま・お義母様かあさまの承認が必要なのだろうが、それも含めて、アンドラーシュ頼みだった。

 私は、国軍の主力は公爵領へ向かうはず、とのみ進言するに留めた。

 結局、万人隊となった。
 これが多いのか少ないのか、私には分からなかった。

 アンドラーシュは、私が共に公爵領に赴くべきだと主張した。
 てっきり、私の迂回軍同行も、最初に作戦を説明したときに、同意してもらえたと想っておったのだが。
 どうもそれはそれ、これはこれということらしい。
 確かに、ある意味、当然の主張と言える。
 私が迂回軍に加わっても、何がなしうる訳ではないとは、私にも分かる。
 いたずらに危険なことに身を投じる行いに他ならないとも。
 実際、皇子には、このように言われ、説得された。
 しかし、これはあり得なかった。
 ゲームでは、エリザベトは公爵領で捕らえられる。
 私はかたくなに、迂回軍に同行することを主張した。

 あまりに、私が聞き入れぬゆえか、公爵領へ共に進軍することはあきらめてくれた。
 しかし、ならば、この国に残れと言う。

 私としては、私自身が
――つまり、エリザベトが、
――迂回軍を率いることそのものに意味があると考えておった。
 マガツ国に留まるのであれば、確かにゲームと同じではない。
 しかし同じようなものと想えた。

 私が迂回軍を率いて王都を撃つ。
 これこそが、乙女ゲームが想像だにせぬことであり、
 これをなしてこそ、乙女ゲームを大混乱に陥れることができるのでは、
 つまり打つ手なしに追い込めるのではと、考えたのだ。

 私が、自らは前線に立たない、実際に軍を率いるはお二人に完全に任せる、と訴えても、
――アンドラーシュはなお譲らなかった。

 結局互いに譲らぬ主張に終わりをもたらしたのは、お二人だった。
 あるいは、痴話喧嘩の如く見えたのかもしれぬし、何よりお二人は早くに出発したがっておった。

「我らと共に赴くのが安全と考えます。
 もし、エリザベト様に何かあれば、わたくしフリードリッヒとレオポルトの首をもってつぐないます。
 一見、この国に留まれば、安全とも想えますが、しかし刺客ということもありましょう。
 どうか、エリザベト様の訴えをお聞き入れください。」

 皇子はこう言われて、ようやくうなずいた。
 レオポルトとはゴリねえのことだった。

(いやいやいや。
 チイねえ。なに、言ってんの。
 ゴリねえも、それで良いというすまし顔で隣におって。
 反対しなさいよ。
 それに、アンドラーシュ。
 なに、うなずいてんの)

 ただ、これを言葉に出すことはできなかった。
 チイねえの言葉に反対すれば、どうなるのだろう?



 その後、皇子やお二人は、相変わらず遠征の準備に忙しく、私は一人で夕ご飯を食べた。

 その晩、皇子がようやく戻って来た。

 私は、皇子の天幕に転がり込んでおった。
 チイねえは、私がそこに入るのを見る度に、ニヤニヤしてみせておった。
 どうも、あのニヤニヤはそのスケベ心から来るものらしいと、ようやく気付くを得たのだった。
 まったく、可愛い顔をして、何を想像しておるのやら。

 それはさておき、大事なことを、皇子に頼まなければならなかった。

「もし、私に何かあっても、お二人は殺さないでね」

 彼はそんなことはせぬ、と請け負ってくれた。

「ただ、あの二人にああまで言われては、断ることはできぬ。
 それこそ、互いの信頼関係を危うくしてしまう」

 しばらく黙してから、次の如くに続けた。

「あの二人は殺さぬと誓おう。
 だから、どうか、必ず無事に戻り、我に顔を見せると誓ってくれ」

 ついにアンドラーシュはそんなことまで言う。

(ああ。アンドラーシュ)

 そう想って、顔を火照らしていたら、口づけされてしまった。
 その後、力強い腕が、私を抱きしめた。
 そしていつになく、アンドラーシュに激しく抱かれた。

 彼の内にある恐怖
――私を失う恐怖が
――そうさせておるのかもしれないことに想い至ると、
――私もまた、いつになく、身も心も乱れた。



(進捗報告 祝BL大賞開催ということで、お二人が大立ち回りする話を書き加えたりしておりました。
 バトル好きな方は、乞う、ご期待です)
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