悪役令嬢は軍略家――何としてでも私を殺そうとする乙女ゲームの世界に宣戦布告す

ひとしずくの鯨

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第3章 軍略家 新谷 百花(しんたに ももか)

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(場面はまだ回想シーンの続き。
マガツ国へ出発前、公爵の城館でのドレス選び場面の続きです。)

 ただゴリねえが

「ほら」

 と言いながらなしたことにより、私は想わず飛び上がることになった。
 もちろん『体が』ではなく『心が』だけど。

 私の両の乳房を下着越しとはいえ、両の手の平で包んだのであった。
 それはあくまで優しくであったが、見た目はあきらかにごつい男の手である。

「ほら。前はかなり手指が余ったけど、今は少し余る感じ。」

私は顔が火照るのを感じながら、耐えた。

(ゴリねえは女。ゴリねえは女。)

そう己に言い聞かせながら。

「これだとつくろい直さなければねえ。あっ。お胸が大きくなったならお尻も」

(おぬし。いよいよ。我が本丸に攻めて来たのう。
 お尻は脂肪を蓄えるためにあるのだ。
 だからエリザベトのお尻も私の食いしんぼのせいでプリンプリンなのだ。
 『太った』の言葉は私の地雷なのだ。
 『デブ』はもちろん禁句。
 『ブタ』
――例え『ブタさん』や『子豚』などかわいらしく言っても、
――それを口にしようものなら、深く私の恨みを買うことになる。
 先ほど、私自ら『太ったのかなあ?』などと言ったのは、
――当然疑問形である
――あくまでゴリねえが私の女心を察するを願ってであった。
 深謀遠慮である。)

 そうして、ためつすがめつ見るだけなら、まだ良いのだが、やはり触ってみなければ気が済まないらしかった。
 何となく胸は分かりそうだけど、お尻は触るだけで分かるの?と想う。

「ほら。でも。いい感じよ。こっちの方がふくよかで。女らしいわ。
 私のは、ちょっと筋肉質過ぎるのよ。
 でもそれがいいって言う殿方もいるのよ」

と最後はなぜか自慢げにそう締めくくる。

(もしかして、ゴリねえ。エリザベトをライバル視してる?
 まあ、自由っちゃ自由だけど。
 そのためのお触り?
 そりゃあ、男の体を好む殿方なら、よりふくよかになったエリザベトの体は幻滅ものなのだろうが。
 うーん。私の推測が当たっている?
 とすれば・・・・・・???)

(そなたの欲しいのは何だ?
 女性としての優越感か?
 分かった。
 ならば、誰か知らぬが、堅い尻好みの殿方はゴリねえに譲ろう。
 私の望み。
 太ったとだけは口にするなよ。
 それを言ったら大変なことになるぞ。
 ただでは済まさぬ。
 言わぬ。言わぬのだな。
 なら、胸も尻も触らせてやろうぞ。
 それでそなたの心が満たされるならば。
 まさに『敵を知り、己を知るならば百戦危うからず』にのっとった解決法。
 こたびは引き分けで良しとしよう)

などと想っていると、
 ゴリ姉は、ようやくヒモに結び目がおよそ等間隔に付いている如くのものを取り出した。

(巻き尺代わり?
 あるんなら最初からそれを使わんかい!)

 ただドレスをつくろい直してくれるゴリねえに文句など言えるはずもなく。

(でも、ゴリねえとエリザベトって、こんなことをする間柄なの?
 それって、エリザベトはゴリねえがBLって知ってるってことじゃない。
 そこで私は醜聞の件を想い出す。
 ああ。多分、ゴリねえが自ら打ち明けたのだ。
 知らぬは父上のみ、という奴だ)

 ここまでは出発前のこと。
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