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第3章 軍略家 新谷 百花(しんたに ももか)
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まずは当然父上であった。
私は決意を固めた後、どうやって説得しようかと、頭を悩ましておった。
私の堪忍袋の緒を切ったのは、王太子の仕打ちであった。
ただ、私としてもまったく勝算がない訳ではなかった。
更に言えば、だてに訴状や手紙とにらめっこをしておった訳ではなかった。
ただ、そもそも私の考えはすべて乙女ゲームの存在が前提となっており、これ無しで説得しようとすると、困り果てるほどにむずかしいことに今更ながら気付く。
父上は、お仕事が忙しいらしく
――私が色色と進言したからかな?
――このところ、食事を一緒に取ってなかった。
どこまで言うか、というのも無論あった。
もちろん、敵国の皇子を籠絡して、などとは言わない。
助けを求めに行くのです。
ここまでは良さそうな気がする。
気がするというだけで、反対されるのかもしれないが。
ここで反対されたら、最早私にはどうしようもない。
その時は根本に立ち返って出直すしかない。
一応、これは認めてもらえるのでは、と想っている。
恐らく反対される可能性が最も高いのは『公爵領を挙げての帰付』、
これをどう説得するかであった。
父上は現在臣従しておる国オーゼンシュタイン
(一応それらしき名前があったりするのだ。
――でもゲームの作成者が付けた名前、
――まさにその取って付けた如くの名前なんて憶えるのもわずらわしいだろうからと、言わずにどうにかここまでやって来たけど、
――ここら辺が限界みたい)
への忠誠心はどうも低そうだというのは、今回の私の提案からすれば、むしろ望ましいことであった。
問題は、父上の本願は公爵領の独立なのかもしれない、ということであった。
臣従して、なお国軍に対して3分の1ほども軍勢を抱えるというのは、父上の国に対する異心ゆえであろうとも想うし、その先には独立が心底にあるのではとも想う。
とすると、私の提案は単に臣従先を代えるだけのものであり、父上にとっては魅力なきものとなろう。
もし、私の提案に対する返答として、
『ならば、私だけ隣国に身を隠せ』
と言われたならば、どうするか?
私だけ隣国に赴く。
そして、どうなるか?
国軍は公爵領に進駐する。
公爵旗下の軍勢は、多少は持ちこたえるにしても、やがて制圧されてしまう。
兵の数の差はいかんともしがたいと想う。
そして、父上とお二人、そして召し使いさんたちが殺されてしまう。
公爵家やその多くの配下の人々も殺されてしまうのではないか。
エリザベトは、こんな道、選ばないだろう。
もちろん、私にも選べない。
父上を説得する必要があったのだ。
それに相手はあの乙女ゲーム。
まともではない。
そしてどう考えても、ねじくれた事実認識をしておる。
何より、悪役令嬢側の人間への慈悲など期待すべきではない
私には公爵領の全住民の虐殺さえありえると想われた。
彼らの生存もまた私にかかっていると想うべきと、私はむしろ自分に言い聞かせていた。
こんなの転移前の世界で言ったら、誇大妄想そのものの考えだけど。
でも、乙女ゲームの中で私は殺されるべき存在。滅ぼされるべき存在。
まさに元凶とも言いうる存在であり、それゆえに、私に与した者全てには、害悪が及ぶ可能性があった。
そうでないなら、それはとても望ましいが、それに賭けることは、危険が大きすぎる。
そして独立がその本願なら、父上は、敵国の軍の進駐にさえ反対するかもしれなかった。
私は良い言葉が浮かばず、
といって余り悠長なことは言っておられず、
といって、一度断られたならば、次にそれを挽回するには、より以上の何かが必要となる。
そんなものは、私の内にはない訳で、それを想えば、慎重にならざるを得なかった。
私は1週間を期限として、父上を説得する言葉を探すことにした。
そしてそれがダメなら、機嫌のとても良さそうな時にという、まあ、何とも安直な方法に頼ることにした。
私は決意を固めた後、どうやって説得しようかと、頭を悩ましておった。
私の堪忍袋の緒を切ったのは、王太子の仕打ちであった。
ただ、私としてもまったく勝算がない訳ではなかった。
更に言えば、だてに訴状や手紙とにらめっこをしておった訳ではなかった。
ただ、そもそも私の考えはすべて乙女ゲームの存在が前提となっており、これ無しで説得しようとすると、困り果てるほどにむずかしいことに今更ながら気付く。
父上は、お仕事が忙しいらしく
――私が色色と進言したからかな?
――このところ、食事を一緒に取ってなかった。
どこまで言うか、というのも無論あった。
もちろん、敵国の皇子を籠絡して、などとは言わない。
助けを求めに行くのです。
ここまでは良さそうな気がする。
気がするというだけで、反対されるのかもしれないが。
ここで反対されたら、最早私にはどうしようもない。
その時は根本に立ち返って出直すしかない。
一応、これは認めてもらえるのでは、と想っている。
恐らく反対される可能性が最も高いのは『公爵領を挙げての帰付』、
これをどう説得するかであった。
父上は現在臣従しておる国オーゼンシュタイン
(一応それらしき名前があったりするのだ。
――でもゲームの作成者が付けた名前、
――まさにその取って付けた如くの名前なんて憶えるのもわずらわしいだろうからと、言わずにどうにかここまでやって来たけど、
――ここら辺が限界みたい)
への忠誠心はどうも低そうだというのは、今回の私の提案からすれば、むしろ望ましいことであった。
問題は、父上の本願は公爵領の独立なのかもしれない、ということであった。
臣従して、なお国軍に対して3分の1ほども軍勢を抱えるというのは、父上の国に対する異心ゆえであろうとも想うし、その先には独立が心底にあるのではとも想う。
とすると、私の提案は単に臣従先を代えるだけのものであり、父上にとっては魅力なきものとなろう。
もし、私の提案に対する返答として、
『ならば、私だけ隣国に身を隠せ』
と言われたならば、どうするか?
私だけ隣国に赴く。
そして、どうなるか?
国軍は公爵領に進駐する。
公爵旗下の軍勢は、多少は持ちこたえるにしても、やがて制圧されてしまう。
兵の数の差はいかんともしがたいと想う。
そして、父上とお二人、そして召し使いさんたちが殺されてしまう。
公爵家やその多くの配下の人々も殺されてしまうのではないか。
エリザベトは、こんな道、選ばないだろう。
もちろん、私にも選べない。
父上を説得する必要があったのだ。
それに相手はあの乙女ゲーム。
まともではない。
そしてどう考えても、ねじくれた事実認識をしておる。
何より、悪役令嬢側の人間への慈悲など期待すべきではない
私には公爵領の全住民の虐殺さえありえると想われた。
彼らの生存もまた私にかかっていると想うべきと、私はむしろ自分に言い聞かせていた。
こんなの転移前の世界で言ったら、誇大妄想そのものの考えだけど。
でも、乙女ゲームの中で私は殺されるべき存在。滅ぼされるべき存在。
まさに元凶とも言いうる存在であり、それゆえに、私に与した者全てには、害悪が及ぶ可能性があった。
そうでないなら、それはとても望ましいが、それに賭けることは、危険が大きすぎる。
そして独立がその本願なら、父上は、敵国の軍の進駐にさえ反対するかもしれなかった。
私は良い言葉が浮かばず、
といって余り悠長なことは言っておられず、
といって、一度断られたならば、次にそれを挽回するには、より以上の何かが必要となる。
そんなものは、私の内にはない訳で、それを想えば、慎重にならざるを得なかった。
私は1週間を期限として、父上を説得する言葉を探すことにした。
そしてそれがダメなら、機嫌のとても良さそうな時にという、まあ、何とも安直な方法に頼ることにした。
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