上 下
4 / 17
第2章 公主ヒロミ=カゼノミヤ=タイクン

極寒の公主との出会い1

しおりを挟む
 夏の暑さも随分ずいぶんやわらぎ、過ごしやすくなった秋の一日。
 こうした時は、おのずと国をたずねる客人も多くなる。
 王女は王女で、その時も中庭にて新たな食材を求めておった。
 まるで冬眠の前のリスの如く、ホッペを集めた食材でぷっくりふくらませて・・・・・・なんてことは無かったが、
 とりあえず味見あじみとばかりに、生で行けるものは口に入れてみる、
 加熱した方が良さそうなものは、炎の魔道で焼くなりなりして、やはりパクリと行く。
 そうして、その目をランランと輝かせる様はリスそっくりと言って良かった。

 そんなところに、父王ふおうがアイサツせよというので、しぶしぶ謁見えっけん室におもむいた。
 はるか東の国イトの王一行とのことであった。
 その王が、貴国に王女がおるのなら是非ぜひアイサツしたいと言うておるゆえとのことであった。
 基本こうした理由でもなければ、私が父王と来訪者との謁見の場に呼ばれることはない。
 理由は単純で、私が炎を出すのを恐れるゆえであった。
 またそもそも国王たる父が謁見に応じておる以上、王女の私が出なくても、相手国への非礼とは当然ならぬ。

 既に父王に対面する形で、少し距離を取って、豪華な装飾そうしょくのイスが置かれており、そこに中年の男が座っておった。
 私はまず父王の側らに行き、

「ソフィアが参りました」

と小声で告げる。

 父王は

「まずはイトの王へのアイサツを」

とやはり小声で返す。

 そこで私は、その前に赴き、公式通り、片ひざをついて、頭を垂れるアイサツをしようとする。
 すると、これも公式通り、その中年の男は私の手を取って、その動きを止め、立つをうながした。
 ただそのまま私の手のこう素肌すはだに、ブチュウとばかりにくちびるを押しつけた。
 更には、なかなかはなしてくれぬ。
 当然、ゲッとは想う。

 本来手袋を付けるべきなのを忘れておったのだ。
 日頃、無いことでもあり、また待たせては悪かろうと急いだこともあり
――私でもそれくらいは気をつかう
――また当然、野良着のらぎで、そのまま行く訳にも行かず、着替えたりしておったからであった。
 おまけに少しひかえめの色が良かろうと想い、薄緑にするか薄い黄色にするか迷ってのこのざまであった。

 私はその場をピリつかせるほどにはいかりの表情を見せてしまったであろうが、
 さすがに炎は出さなかった。
 いくら私でも、そこまで傍若無人ぼうじゃくぶじんではなかった。
 これも、いつ誰が決めたのか知らぬが、公式のアイサツであり、当然、私もそれを知る。

 もし舌を出してペロペロでもしようものなら、それは論外であるも、
 そこは敵もさるもの、
 そこのところは良くわきまえておるようで、それはせぬ。
 というより、こうなってみれば、そもそも私の手に接吻せっぷんしたくて呼び出したのではないか、とさえ想える。
 それを私が、どうぞとばかりに素肌を出せば、それは飛びつこう。
 仕方ない。手袋をし忘れた私が悪い。
 私は怒気どきをあらわにせぬようつとめる。

 ところがなにゆえか、他の者の怒気を感じた。
 しかも、私が先ほど発したかもしれぬそれを、はるかに上回ろうというほどのものを。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

馬人間ドラセナ 神様の勘違いで最強戦士が逆ケンタウロスに

松井蒼馬
ファンタジー
「究極の人馬一体を」  ウマリティ王国の最強戦士・モエ・ドゥ・ドラセナには夢があった。  機能美を兼ね備えた最強馬である愛馬「トゥレネ」と自らの融合。  ギリシャ神話の半人半馬族「ケンタウロス」に生まれ変わることであった。 「星降る夜に願えば、お前のその夢を叶えてやろう」  夢枕に出てきた神は、そうドラセナに告げた。  隣国の超大国・サロルド共和国がウマリティ王国に攻め込んできた夜。  ドラセナは1人、融合儀式を城近くの放牧地で執り行う。  儀式は順調に流星がドラセナに向かって降り注ぎ、眩い光が包み込み。  儀式は成功。  そう思ったドラセナだったが……  なんと、誕生したのは、上半身が馬、下半身が人間という馬人間。  神様はケンタウロスの姿について勘違いをしていたのだ。  ドラセナは、言葉も力も失い、魔物として城中の兵から追われる。  さらには超大国サロルド軍が、ウマリティ王国の本拠地「ローレンス城」近くにも押し寄せてきた。  大ピンチとなる中、異形の姿となったドラセナは、果たしてこの危機をくぐり抜けられることができるのか?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

処理中です...