後宮流転花――宋の孟皇后(第1部 完)

ひとしずくの鯨

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第2部

第4話 蘇軾2

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 前話で蘇軾が湖州知事を解任されたことを述べました。いかなる理由でそれがなされたのか。それを物語る記事が『続資治通鑑長編』に残されている。今話ではそれを紹介しようと想う。



 神宗の元豊2年7月己巳きし(2日)のこと

 御史中丞ぎょしちゅうじょう諫官かんかん)の李定が言うには、

「知湖州の蘇軾は、そもそも学術が無いにもかかわらず、みだりに一時の名声を得て、たまたま異科にあたり(進士に合格して)、儒館(おそらく『儒官』のこと。ここでは知湖州を言うか?)をむさぼる。これを廃すべき四つの罪あり。

 昔の(伝説上の王たる)ぎょうは四凶(四人の国賊)をちゅうさず。(次の伝説上の王たる)しゅんに至りて、これを流・放・竄・きょくの刑に処す。(殛刑とは死刑。放は追放か?)けだし、その悪が初めて天下に見えたのである。

 はじめ、蘇軾は(神宗の政策を)破壊する論をわめきちらす。しかし陛下(神宗)はなおこれを不問にし、そのあやまちを改めるを容認する。蘇軾は、それを怙(たの)みとし、ついに悔いあらためず。その悪は既に顕著です。(4罪の)1なり。

 いにしえの人のげんいわく、
「教えて従わなければ、その後、これを誅す。吾が待つを尽くす所以ゆえんは、その後、戮辱してこれを従わせることになるからである」

 陛下は蘇軾を待つに『尽くした』と言い得るのでは? なのに、日々、聞こえるは蘇軾の狂悖きょうぼつ(狂い背く)言葉。(4罪の)2なり。

 蘇軾の文章は、理(ことわり)にあたらずとはいえ、流俗(世の俗人)を動かすには足り、いつわりの言をなすに弁舌たくみ。

 官の仕事をなすにおいては、軽侮し傲慢であり、陛下の法に従わず。その心はかたくなであり、陛下の(感)化に服さず。いつわりの行いをなすに堅くあらためない。

 先王(堯や舜ら五王)の法の首誅(筆頭の誅すべき罪)に当たる。(4罪の)3なり。

(注:次に4番目の罪があげられますが、ここでは略します)

 廃すべき4つの罪があるにもかかわらず、なおその官位におるを容認する。教えを傷つけ俗を乱すにおいて、これほど、はなはだしきは他にありません。

 伏して望むに、天衷(天が人に与えた良心)より断じなさり、(今回は厳しき)典憲を行ってください(法にのっとって、罰すべきです)」



 いかがでしたでしょうか。
 外臣たちの党争とは殴り合うわけではありません。このように最終決定者たる皇帝に相手の非を訴える形で行われます。皆さんも『罪を数え上げる』との言葉を聞いたことがあるのでは? これはその代表例です。政敵を追い落とすに一つの罪では足りないというわけです。
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