後宮流転花――宋の孟皇后(第1部 完)

ひとしずくの鯨

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第2部

第2話 党争の影

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 このときの宰相・執政(大臣たち)は全て太皇太后が選んだのであるから、本来、争いなどなくてよいもの。他方で、人の集うところに争いの種は絶えぬものではある。とはいっても、ここにおるは旧法党の面々ばかりなので、少なくとも新法・旧法間の争いはないと断言しても良いはずである。

 ただ、その影は落ちていた。



 このときの宰相に劉摯りゅうしなる者がおり、諫官かんかん(諫言・監察を仕事とする官)に2つの件で弾劾された。

 一件目。地方へおとしめられる者――左遷なのか流罪なのか、はっきりしない――がおり、その者と親交のあった劉摯りゅうしは文を交わす。その最後に記すに、

「国(宋朝)のために自愛して下さい。そして、休みつつ、ふくすを待ちなされ」と。

 諫官かんかんはこれを

『将来、太皇太后が摂政の座から退き、皇帝を復す(つまり、成長した哲宗による親政)を待ちなされ』と強引に解釈し、太皇太后に対する裏切りと断じたのである。


 二件目。こちらに新党を奉じる章惇しょうとんがからむ。ただこのとき権力闘争に敗れ、地方におった。それもあって、当人ではない。その息子たちである。

 彼らを劉摯りゅうしが府第(役所)にてもてなしたのである。

 前者に比べると、策謀の色合いは皆無と言って良い。あえて非難するなら、軽はずみというだけであろう。ただ、これを聞いて太皇太后は大怒した。まさに、蛇蝎だかつの如くに章惇しょうとんを嫌っておったのであろう。


 太皇太后いわく、
垂廉すいれんのまつりごとの初め、劉摯りゅうしは姦邪を排斥し、実に忠直をなす。ただ、この二事、まさになすべからざるところなり(なしてはいけないことである)』

 ついに、宰相辞任の申し出を認め、鄆州うんしゅうの知事とした。
 
 たった、これだけのことでである。自ら抜擢ばってきした者に対するものとして、この二件は果たして十分なものであろうか?

 一件目は、それを信じたならば、理由とはなしえるかもしれない。

 しかし、二件目はどうか。このときの章惇はあくまで左遷であり、流罪ではない。(置田不法という罪で)官位を一つ落とされるも、その職位は汝州じょしゅうの知事である。つまり、重罪人ではないのである。



 おまけ 政治上の重罪犯に対しては、何々州安置となる。
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