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第16話 噂4――ゴリマッチョ童貫登場

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(注 本話は時系列的には、前話(太皇太后が立后の詔を出す話)の前です)

 どうやら、女官の一部は夢中らしい。きさきたちの中にさえ、ひそかに潤んだ目をして見ておる者がおる。

 確かに宦官かんがんの中では、珍しい者といえる。体はあくまでごつく、いかつく、更には濃いヒゲまで生やしておる。影では、夜の営みさえなしえるのではないかとささやかれておる。

 名を童貫どうかんという。



 私は亀山きざん様にその男について尋ねてみた。

「なかなかに武芸にけた者で、私はあの者に槍術を習っております」

 それなりに親しきようで、私は驚く。

「更に面白い面もあるのですよ。あの者は童汪錡おうきの子孫を自称しております。汪錡が活躍したのは、始皇帝が統一する前の時代。戦国七雄の一、国の人で、幼くして、よく国難に赴くと伝えられるほどの人物です。ただ、汪錡の童が姓ではなく、『わらべ』の意味であることは、少なからずの者が知っておること」

「うーん。ただの嘘つきじゃないの。気に入らないわ」

「そうですかね。ときに嘘も身を助けると言います。ここで嘘さえつけぬ者を求めるは、黄河に清流を求める如きですよ」

「そうは想えないわ。亀山様こそ、その清流ではなくて?」

「もし、そうとすれば、私も早く泥にまみれなければ。そうでないと生きて行けませぬ。それにきれい過ぎる水は魚影を隠せませぬ。自らの身ばかりか、守りたい人さえ守れませぬ」

「守りたい人って?」

 返答はなかった。瑠璃瓦の下の軒先に迷迷の姿を求めつつも、亀山様の横顔はいたずらっぽい笑みをたたえるのみ。
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