後宮流転花――宋の孟皇后(第1部 完)

ひとしずくの鯨

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第15話 聞いてないんだけど1

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 聞いてないんだけど。想わず口を突いて出た言葉であった。太皇太后様が手書きのみことのりを発されたのだ。いわく、

『皇帝の年齢の長じたるも、中宮(=皇后)は未だ立たず。れはこのところ諸臣の家を歴選し、賢徳を求める。故(=故人)馬軍都虞侯(武官職)・贈太尉(名誉官職)の孟元の孫娘は、功績のある家の出身であり、礼を以て自らを律し、姿は正しく美しく、そのみやびは模範となるものである。よろしく立てて、皇后と為すべし』

 この孟元の孫娘って、私のことだ。何かとんでもなく褒められている気がする。元祐げんゆう七年四月二日のことであった。

 それからは何かと慌ただしい。私の周りにも新しく人が出入りするようになり、見知らぬ人が苦手な迷迷は迷子がち。

 そして亀山様もかつてのようには来てくれず。珍しく顔を見せても、立后のことについては、「おめでとうございます」としか、言ってくれない。それしか言いようがないのも分かるけど。

 どうして以前のように来てくれないの?と尋ねると、

「孟妃は今や後宮の主役ですからね。あまり私がうろうろしては目立ってしまいます。これまでのようには行きませぬ」

「さびしいわ」

「私もですよ」

 そう言う表情は本当にさびしげであり、私もそれ以上何かを求めることはできなかった。
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