後宮流転花――宋の孟皇后(第1部 完)

ひとしずくの鯨

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第14話 噂3

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 帝(哲宗)についての噂はあまり聞かない。お呼びがかかる数人の妃はおるのだが、語れば自ずとのろけ話とならざるを得ない。呼ばれておらぬ方からすれば、あえてそれを欲するはずもない。それもあって、広まらぬということなのだろう。

 そもそも、帝はかなり無口な方のようであり、太皇太后様の側らで視朝(御前会議)されるときも、ほとんど口を開かれぬとのこと。

 太皇太后様が、「大臣たちの報告を聞いて、何か胸中に沸く想いもあろう。なぜ、一言も発さぬ」と問うと

娘娘にゃんにゃんが既に対処されております。私如きが何を言う必要がありましょう」
 とひたすらに謙遜しておると。



 そうかと想えば、こんなこともあったと。

 神宗(前皇帝)の実録が完成し、臣下(大臣と作成に関わった官)がこれを進呈したときのこと。儀礼にのっとり、その書の読み上げを臣下が始めると、太皇太后様も皇太后様も号泣され始めた。そうなれば、読まんとする臣下も嗚咽にノドをつまらせ、他の臣下たちも涙に暮れる状況となった。

 そんな中、一人、帝のみは気を強く持たれ、

「天の気は、はなはだ寒うございます。そのように泣かれましては、その冷気を体に入れることとなりましょう」と気遣い、「泣くのをこらえ、しばし読むのを聞きましょう」

 帝が父たる神宗を亡くされたのは、わずか(数え)十才のとき。本当は帝こそが大泣きしたいだろうに。気丈な方であり、悪い方ではないのだろうが。しかし、やはり私は未だ呼ばれたことがない。妃となりはしたが、このままえん薄いままに終わるのだろう。
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