15 / 29
第14話 噂3
しおりを挟む
帝(哲宗)についての噂はあまり聞かない。お呼びがかかる数人の妃はおるのだが、語れば自ずとのろけ話とならざるを得ない。呼ばれておらぬ方からすれば、あえてそれを欲するはずもない。それもあって、広まらぬということなのだろう。
そもそも、帝はかなり無口な方のようであり、太皇太后様の側らで視朝(御前会議)されるときも、ほとんど口を開かれぬとのこと。
太皇太后様が、「大臣たちの報告を聞いて、何か胸中に沸く想いもあろう。なぜ、一言も発さぬ」と問うと
「娘娘が既に対処されております。私如きが何を言う必要がありましょう」
とひたすらに謙遜しておると。
そうかと想えば、こんなこともあったと。
神宗(前皇帝)の実録が完成し、臣下(大臣と作成に関わった官)がこれを進呈したときのこと。儀礼にのっとり、その書の読み上げを臣下が始めると、太皇太后様も皇太后様も号泣され始めた。そうなれば、読まんとする臣下も嗚咽にノドをつまらせ、他の臣下たちも涙に暮れる状況となった。
そんな中、一人、帝のみは気を強く持たれ、
「天の気は、はなはだ寒うございます。そのように泣かれましては、その冷気を体に入れることとなりましょう」と気遣い、「泣くのをこらえ、しばし読むのを聞きましょう」
帝が父たる神宗を亡くされたのは、わずか(数え)十才のとき。本当は帝こそが大泣きしたいだろうに。気丈な方であり、悪い方ではないのだろうが。しかし、やはり私は未だ呼ばれたことがない。妃となりはしたが、このまま縁薄いままに終わるのだろう。
そもそも、帝はかなり無口な方のようであり、太皇太后様の側らで視朝(御前会議)されるときも、ほとんど口を開かれぬとのこと。
太皇太后様が、「大臣たちの報告を聞いて、何か胸中に沸く想いもあろう。なぜ、一言も発さぬ」と問うと
「娘娘が既に対処されております。私如きが何を言う必要がありましょう」
とひたすらに謙遜しておると。
そうかと想えば、こんなこともあったと。
神宗(前皇帝)の実録が完成し、臣下(大臣と作成に関わった官)がこれを進呈したときのこと。儀礼にのっとり、その書の読み上げを臣下が始めると、太皇太后様も皇太后様も号泣され始めた。そうなれば、読まんとする臣下も嗚咽にノドをつまらせ、他の臣下たちも涙に暮れる状況となった。
そんな中、一人、帝のみは気を強く持たれ、
「天の気は、はなはだ寒うございます。そのように泣かれましては、その冷気を体に入れることとなりましょう」と気遣い、「泣くのをこらえ、しばし読むのを聞きましょう」
帝が父たる神宗を亡くされたのは、わずか(数え)十才のとき。本当は帝こそが大泣きしたいだろうに。気丈な方であり、悪い方ではないのだろうが。しかし、やはり私は未だ呼ばれたことがない。妃となりはしたが、このまま縁薄いままに終わるのだろう。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
大航海時代 日本語版
藤瀬 慶久
歴史・時代
日本にも大航海時代があった―――
関ケ原合戦に勝利した徳川家康は、香木『伽羅』を求めて朱印船と呼ばれる交易船を東南アジア各地に派遣した
それはあたかも、香辛料を求めてアジア航路を開拓したヨーロッパ諸国の後を追うが如くであった
―――鎖国前夜の1631年
坂本龍馬に先駆けること200年以上前
東の果てから世界の海へと漕ぎ出した、角屋七郎兵衛栄吉の人生を描く海洋冒険ロマン
『小説家になろう』で掲載中の拙稿「近江の轍」のサイドストーリーシリーズです
※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載します
朝敵、まかり通る
伊賀谷
歴史・時代
これが令和の忍法帖!
時は幕末。
薩摩藩が江戸に総攻撃をするべく進軍を開始した。
江戸が焦土と化すまであと十日。
江戸を救うために、徳川慶喜の名代として山岡鉄太郎が駿府へと向かう。
守るは、清水次郎長の子分たち。
迎え撃つは、薩摩藩が放った鬼の裔と呼ばれる八瀬鬼童衆。
ここに五対五の時代伝奇バトルが開幕する。
旅路ー元特攻隊員の願いと希望ー
ぽんた
歴史・時代
舞台は1940年代の日本。
軍人になる為に、学校に入学した
主人公の田中昴。
厳しい訓練、激しい戦闘、苦しい戦時中の暮らしの中で、色んな人々と出会い、別れ、彼は成長します。
そんな彼の人生を、年表を辿るように物語りにしました。
※この作品は、残酷な描写があります。
※直接的な表現は避けていますが、性的な表現があります。
※「小説家になろう」「ノベルデイズ」でも連載しています。
江戸の櫛
春想亭 桜木春緒
歴史・時代
奥村仁一郎は、殺された父の仇を討つこととなった。目指す仇は幼なじみの高野孝輔。孝輔の妻は、密かに想いを寄せていた静代だった。(舞台は架空の土地)短編。完結済。第8回歴史・時代小説大賞奨励賞。
毛利隆元 ~総領の甚六~
秋山風介
歴史・時代
えー、名将・毛利元就の目下の悩みは、イマイチしまりのない長男・隆元クンでございました──。
父や弟へのコンプレックスにまみれた男が、いかにして自分の才覚を知り、毛利家の命運をかけた『厳島の戦い』を主導するに至ったのかを描く意欲作。
史実を捨てたり拾ったりしながら、なるべくポップに書いておりますので、歴史苦手だなーって方も読んでいただけると嬉しいです。
座頭の石《ざとうのいし》
とおのかげふみ
歴史・時代
盲目の男『石』は、《つる》という女性と二人で旅を続けている。
旅の途中で出会った女性《よし》と娘の《たえ》の親子。
二人と懇意になり、町に留まることにした二人。
その町は、尾張藩の代官、和久家の管理下にあったが、実質的には一人のヤクザが支配していた。
《タノヤスケゴロウ》表向き商人を装うこの男に目を付けられてしまった石。
町は幕府からの大事業の河川工事の真っ只中。
棟梁を務める《さだよし》は、《よし》に執着する《スケゴロウ》と対立を深めていく。
和久家の跡取り問題が引き金となり《スケゴロウ》は、子分の《やキり》の忠告にも耳を貸さず、暴走し始める。
それは、《さだよし》や《よし》の親子、そして、《つる》がいる集落を破壊するということだった。
その事を知った石は、《つる》を、《よし》親子を、そして町で出会った人々を守るために、たった一人で立ち向かう。
忍者同心 服部文蔵
大澤伝兵衛
歴史・時代
八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。
服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。
忍者同心の誕生である。
だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。
それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる