後宮流転花――宋の孟皇后(第1部 完)

ひとしずくの鯨

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第13話 噂2

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 こんな話もあった。

 蔡確さいかくという人の母親が、息子の流罪を緩めて欲しいと直訴したとのこと。彼女は「太皇万歳」と叫びながら、それを試みたという。その願いをしたためた書状を、太皇太后様に手渡そうとしたのだと。衛士がはばみ、書状を受け取ると、彼女は満足して帰ったという。

 それが起こったのは、太皇太后様が皇太后様(神宗の正妻)とともに、臣下の家に供え物をしにうかがう途中のこと。なので、付き添う多くの女官も目撃しており、ために、後宮ではしばしこの話でもちきりとなったほど。

 そもそもは、故郷に帰して欲しいと願っておったが、なかなか許されないので、その直訴にては、せめて開封近くの州へ移すを許して欲しいと訴えたらしい。

 結局、太皇太后様はお許しにならず、そればかりか、その母を開封から追放したとのことであった。厳しい側面を見せられた想いであった。私に話しかけてくれるときは、いつも優しいのに。

 ただ、その蔡確という人は、前帝(神宗)の晩年数年においては、最も重用された人物でもあるという。どうして、太皇太后様はそのような方にそんなに厳しく当たられるのか。他のきさきや女官に聞いても、まともに答えてくれない。



 なので、亀山様に聞いてみた。わたしたちは、このところ迷迷が迷子にならずとも――ただ、これを言い訳としたけれど――皇城内を共に散歩するようになっていた。

 切れ長の目は一層細められ、いつもほがらかな表情が憂愁に沈む。そんな亀山様も魅力的だ。そんな呑気な私に告げられた言葉とは、

「それについては、今後一切、口に出さないことです。そうとしか言えませぬ。それさえ守れば、私も孟妃も彼ら外臣たちの目に触れることはないはずです。ただ、もし孟妃が鳳凰の衣を身にまとうようなことでもあれば・・・・・・。いえ、止めましょう。不安がらせるのは、私の本意ではありませぬ」


 おまけ:このときの蔡確は新州への安置という処分であった。この安置というのは、移動に制限が加えられ――その範囲がどれくらいかはちょっと心もとない――また、人との交遊を禁じられる処罰である。誰かは忘れたが、この安置処分を受けたとき、息子をともなったはずである。つまり、息子が本人に代わり、いろいろなさないと困るくらいに制限が厳しい。
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