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第12話 噂1

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 こうして女ばかりが閉ざされたところにいると、まるで噂話の中をプカプカ浮いて生活しているような感じとなる。そんな中にも、私たちが沸き立った噂があった。何と、国の大臣たちが、皇后を太皇太后様の実家から選ぶよう、しつこく迫っているという。

 私は知らなかったのだけど、太皇太后様は代々、王に封じられるほどの名家出身とのこと。とてもでないが、他家がかなう家柄ではない。ましてや太皇太后様が後ろ盾となり推すとなれば、何をか、いわんやである。

 ただ、太皇太后様はまったく逆の対応をされた。そう。かたくなに拒んだのである。そのようなことをすれば、我が高一族はおごり高ぶり、国のわざわいとなろうとして。

 後宮が賛嘆で満ちあふれたのは言うまでもない。帝の寵を得ている者もそうでない者も、もしかしたらの心があるからだろう。私はといえば、正直、もう、そこには余り興味がない。



 他方で私が共感したのはこちらの方。それは太皇太后様が英宗(第5代皇帝――神宗の父――哲宗の祖父)に嫁がれた若かりしころの話。

 このとき、英宗の摂政をかつてなされた曹皇太后という方がおり、何を想ってか、

「官家(英宗)は即位して久しく、今は聖躬せいきゅう(体)の病もすっかりえたようです。どうして、左右に側室の一人も置かれにならないの?」

 とまったく余計なお世話を焼いたという。太皇太后様はいたくお怒りになり、強烈な皮肉を曹皇太后にたてまつったという。そりゃそうよね。誰だって自分だけを愛して欲しいもの。いくら相手が皇帝でもね。



 おまけ1:太皇太后の姓は高氏であり、ゆえに皇帝一族(姓は趙)ではない。宋は、新たに臣従した独立国なり独立勢力の首領に王爵を与える。高氏もその一と想われる。曾祖父・祖父・父と王爵を授かっていることから、恐らく宋朝創建当初に帰順したのであろう。

 おまけ2:太皇太后とか皇太后とか色々出て来てややこしい。曹氏は第4代仁宗の皇后であり、太皇太后から見ると、一世代上の(義理の)しゅうとめに当たる。義理のというのは、曹氏は英宗の実母ではないからである。更にいうと、太皇太后の母は、曹氏の姉である。つまり、この二人は、オバ・メイの関係でもある。結局、最後まで、ややこしい。
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