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第11話 宋の興り&往時の1エピソードをご紹介
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ここで、宋の興りを説明しようと想ったのだが、どうにも、唐と宋の間の五代の時代がわかりにくい。なんで、簡略に紹介するとともに、面白そうなエピソードがあったので、それを載せたい。
まず、唐の時代がある。最盛期には、かつて精強を誇った突厥帝国までも政略によって組み入れた。そしてその領土は東方初の世界帝国と呼びうるほどに拡大した。他方で、遣唐使や鑑真など、恐らくは日本人にとって、最もなじみ深い国ではないかと想う。
この唐も安史の乱で大きく揺らぐことになる。安史とは、これを率いた2人の軍事指導者――安禄山と史思名の姓をとってこう言われる。両名ともに、父方をソグド系、母方を突厥系とする。そして、この安禄山、(節度使として)唐朝に仕える形で、北東にあって脅威となりつつあるキタイに備えて、その軍事力を蓄えたのである。
この宋の時代、無論、唐も安禄山の勢力も残っておらぬのだが、キタイのみは残り、遼とも契丹とも自称する帝国へと成長した。
そうして、唐に最終的なトドメをさしたのは黄巣の乱とみなしてよいであろう。その瓦解の後に雨後の竹の子の如く生じたのが五代と呼ばれる諸政権である。
そして、その内の一国である後周を継いで誕生したのが、宋王朝である。形式は禅譲である。ただ、このとき、北漢と遼の連合軍が攻めて来ており、後周の幼帝では守り切れぬとみなして、事実上、簒奪したのである。秀吉が信長の死後、その子供が幼いことに乗じて、政権を己がものとしたのに近い。
ところで、紹介するエピソード。司馬光――太皇太后の摂政期の最初期にのみ仕えていたのであるが、本作の時代では惜しくも間に合わず、既に死んでいる――その『涑水記聞』が伝えるものである。ちなみに『涑水』とは司馬光の郷里の川の名である
そもそも、宋に仕えた人物が、その創始者について伝える話である。いろいろ盛ってあるのは当然のこと。話半分、いや話四分の一信じられるかどうか、ぐらいでお読みいただければと想う。禅譲の前日譚であり、ゆえにこのときは帝位についていないのだが、名だとわずらわしいので太祖と記す。
『後周の恭帝は幼くして、軍政は多く韓通(人名)にて決するが、韓通は愚かで、人の言を入れない。
対して、宋の太祖は英武にて度量有り、知略多く、しばしば戦功を立てた。これを理由として、将士は皆、太祖を愛し服し帰心した。
まさに、北漢と遼の連合軍を迎え撃つために、太祖を総大将として周軍が北征せんとしたとき、都(開封)では人びとが言い立てた。「出軍の日、まさに太祖が立てられ天子となるであろう」
そうして、金持ちなどは州の外に逃げ隠れした。ひとり、周の宮中のみが知らず。
太祖はこれを聞いて恐れ、ひそかに家族に告げて、「外で多くの人が言い立てるはこのごとし。俺、どうすればいい?」
太祖の姉は鉄の色の面をして、ちょうど台所におったので、麵杖(麵をうつとき使う棒)を持って、太祖を追いかけて、打つ。
「大丈夫が大事に臨むのよ。その成否はその胸にある想いにより自ずから決まるわ。なのに、家に来てその婦女を怖がらせるなんて、あんたは何してんの」』
まず、唐の時代がある。最盛期には、かつて精強を誇った突厥帝国までも政略によって組み入れた。そしてその領土は東方初の世界帝国と呼びうるほどに拡大した。他方で、遣唐使や鑑真など、恐らくは日本人にとって、最もなじみ深い国ではないかと想う。
この唐も安史の乱で大きく揺らぐことになる。安史とは、これを率いた2人の軍事指導者――安禄山と史思名の姓をとってこう言われる。両名ともに、父方をソグド系、母方を突厥系とする。そして、この安禄山、(節度使として)唐朝に仕える形で、北東にあって脅威となりつつあるキタイに備えて、その軍事力を蓄えたのである。
この宋の時代、無論、唐も安禄山の勢力も残っておらぬのだが、キタイのみは残り、遼とも契丹とも自称する帝国へと成長した。
そうして、唐に最終的なトドメをさしたのは黄巣の乱とみなしてよいであろう。その瓦解の後に雨後の竹の子の如く生じたのが五代と呼ばれる諸政権である。
そして、その内の一国である後周を継いで誕生したのが、宋王朝である。形式は禅譲である。ただ、このとき、北漢と遼の連合軍が攻めて来ており、後周の幼帝では守り切れぬとみなして、事実上、簒奪したのである。秀吉が信長の死後、その子供が幼いことに乗じて、政権を己がものとしたのに近い。
ところで、紹介するエピソード。司馬光――太皇太后の摂政期の最初期にのみ仕えていたのであるが、本作の時代では惜しくも間に合わず、既に死んでいる――その『涑水記聞』が伝えるものである。ちなみに『涑水』とは司馬光の郷里の川の名である
そもそも、宋に仕えた人物が、その創始者について伝える話である。いろいろ盛ってあるのは当然のこと。話半分、いや話四分の一信じられるかどうか、ぐらいでお読みいただければと想う。禅譲の前日譚であり、ゆえにこのときは帝位についていないのだが、名だとわずらわしいので太祖と記す。
『後周の恭帝は幼くして、軍政は多く韓通(人名)にて決するが、韓通は愚かで、人の言を入れない。
対して、宋の太祖は英武にて度量有り、知略多く、しばしば戦功を立てた。これを理由として、将士は皆、太祖を愛し服し帰心した。
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そうして、金持ちなどは州の外に逃げ隠れした。ひとり、周の宮中のみが知らず。
太祖はこれを聞いて恐れ、ひそかに家族に告げて、「外で多くの人が言い立てるはこのごとし。俺、どうすればいい?」
太祖の姉は鉄の色の面をして、ちょうど台所におったので、麵杖(麵をうつとき使う棒)を持って、太祖を追いかけて、打つ。
「大丈夫が大事に臨むのよ。その成否はその胸にある想いにより自ずから決まるわ。なのに、家に来てその婦女を怖がらせるなんて、あんたは何してんの」』
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